猫の骨格比較調査
調査を行ったのはノルウェーとデンマークからなる共同チーム。デンマーク国内の動物学博物館や自然史博物館に所蔵されている様々な時代の猫の骨格標本を集め、現代の猫と形態学的にどのような違いがあるのかを検証しました。調査対象となったのは、以下に示す時代に属する骨たちです。
Julie Bitz-Thorsen & Anne Birgitte Gotfredsen, Danish Journal of Archaeology, 7:2, 241-254, DOI: 10.1080/21662282.2018.1546420
猫の骨格標本・時代区分
- 青銅器時代後期=1100~500BC
- 鉄器時代=1~375AD
- バイキング時代=793~1066
- 中世前期=1050~1550
- 中世=1550~1660
- 現代=1870~現代
猫の骨格増大率
- 四肢骨✓比バイキング時代→+16.14%
✓比1550~1660年→+4.03% - 下顎骨✓比バイキング時代→+16.05%
✓比1550~1660年→+4.01% - 歯✓比バイキング時代→+5.62%
✓比1550~1660年→+1.41%
Julie Bitz-Thorsen & Anne Birgitte Gotfredsen, Danish Journal of Archaeology, 7:2, 241-254, DOI: 10.1080/21662282.2018.1546420
猫の骨格・サイズの変遷
紀元前から現代に至るまでの様々な時代に属する猫たちの骨格を比較した所、「大→小→大」というボディサイズのリバウンド現象があるようです。その背景を見てみましょう。
青銅・鉄器時代の猫は珍重動物
バイキング時代より前の時代に属する骨格標本は、現代の猫と同じくらいの大きさでした。この時代の猫たちは数も少なく、まだ珍しい動物だったので、十分な餌を与えられて大切にされていたのだと考えられます。ちょうどエジプトにおける猫の扱いに近かったのでしょう。
バイキング時代の猫は毛皮動物
デンマークの遺跡では動物の骨が堆積したピットが複数箇所で見つかっています。例えばオーデンセの遺跡では1,783体、ロスキレの遺跡(1200~1400AD)では434体という膨大な数の猫の骨が発掘されています。しかしこれらの猫たちは、古代エジプトにおける猫ミイラとは少し違った扱いを受けていたようです。デンマークに限らず、この時代の猫たちはヨーロッパ中において毛皮を取るための産業動物として扱われていました。個体数を効率的に増やすため、繁殖用のメス猫を飼育していた証拠も見つかっています。現代で言う「キトゥン・ファクトリー」の走りですね。
中世の猫はネズミ捕り係
バイキング時代の猫に比べ、中世時代の猫は体が10%ほど大きくなっています。この頃になると食糧事情がややよくなり、ゴミ捨て場のクオリティが上がっていたものと推測されます。ゴミ捨て場の増加→クマネズミやハツカネズミが寄ってくる→猫が寄ってくるという食物連鎖により、ネズミ捕り係としての猫の栄養状態も大幅に改善したのでしょう。この傾向は特に沿岸地帯において顕著でした。理由は、中世において船に猫を同乗させることが義務付けられていたからです。船乗りと共に海岸沿いの都市に降り立ち、そこで新たな暮らしを始める猫たちの姿が想像されます。
現代の猫は愛玩動物に
現代の猫はバイキング時代の猫に比べ、四肢の骨が16%ほど大きくなっていました。バイキング時代の猫は現代で言う「スナネコ」のようにこじんまりとした体格だったのかもしれません。一方歯に関しては5%ほど大きくなっていました。四肢の骨に比べ増大率がそれほど高くない理由は、人間の好みによりマズルの短い短頭種が選択的に繁殖されるようになったからだと推測されています。平たく言うと「ベビースキーマ」(baby schema)を含んだ可愛い顔の猫が好まれたということです。
マンチカン(→骨軟骨症
)、ペルシャ(→鼻腔狭窄)、スコティッシュフォールド(→骨軟骨異形成)などが挙げられます。
選択繁殖による遺伝病の固定が動物の健康と福祉を損なうことは、すでに犬において実証済みです。同じ過ちを繰り返さないよう、人間が責任を持って猫という動物を守っていくことが望まれます。
現代の猫たちは、人為的な繁殖によって骨格が大きく変えられようとしています。しかしこうした変化は多くの場合猫にとってマイナスの影響をもたらすものです。一例としては選択繁殖による遺伝病の固定が動物の健康と福祉を損なうことは、すでに犬において実証済みです。同じ過ちを繰り返さないよう、人間が責任を持って猫という動物を守っていくことが望まれます。