詳細
調査を行ったのはエストニア生命科学大学のチーム。ネコ科動物を終宿主とする原虫の一種・トキソプラズマ(T.gondii)の疫学調査をするため、フィンランドにある「Finnish feline biobank」に蓄えられた猫たちの全血サンプルを用いた大規模な感染率調査を行うと同時に、猫の基本属性や生活スタイルに関する情報を飼い主に対するアンケート調査から収集しました。
過去の調査で感染率が標準から大きく隔たっていると報告されている8品種(合計1,121頭)に焦点を絞って統計的に計算したところ、品種によって感染率に大きな開きがあることが明らかになったといいます。具体的には以下です。
Must K, Hytonen MK, Orro T, Lohi H, Jokelainen P (2017) PLoS ONE 12(9): e0184659, doi.org/10.1371/journal.pone.0184659
過去の調査で感染率が標準から大きく隔たっていると報告されている8品種(合計1,121頭)に焦点を絞って統計的に計算したところ、品種によって感染率に大きな開きがあることが明らかになったといいます。具体的には以下です。
純血種のトキソプラズマ感染率
- ペルシャ=60.0%
- ノルウェジャンフォレストキャット=46.6%
- バーマン=45.2%
- オシキャット=43.2%
- シャム=34.9%
- ブリティッシュショートヘア=33.6%
- コラット=29.0%
- バーミーズ=18.8%
- 全体=41.1%
年齢
- 1歳未満=1
- 1~2歳=1.74
- 2~3歳=2.02
- 3~4歳=4.19
- 4~6歳=4.91
- 7~19歳=16.08
品種
- バーミーズ=1
- コラット=2.03
- シャム=2.57
- ブリティッシュショートヘア=3.39
- バーマン=4.16
- オシキャット=4.26
- ノルウェジャンフォレストキャット=4.66
- ペルシャ=6.99
その他
- 被毛の長さ長毛種の感染率は47.2%対して短毛種の感染率は31.6%。長毛種の方が1.94倍感染リスクが高い。
- 食生活未調理の食事を与えられている場合の感染リスクは2.46倍。
- 品種別リスク【バーマン】
✓1歳未満→3.73
✓オス→0.51
✓未調理食→2.58 【バーミーズ】
✓未調理食→8.75【N.フォレストキャット】
✓1歳未満→4.14
✓外出可能→1.77
Must K, Hytonen MK, Orro T, Lohi H, Jokelainen P (2017) PLoS ONE 12(9): e0184659, doi.org/10.1371/journal.pone.0184659
解説
最も感染率が低かったバーミーズを基準としたとき、他の品種では感染リスクが4~7倍も高いことが明らかになりました。ある特定の品種において病原体の感染率が高まるという現象は過去に行われた調査でも報告されています。
例えば2001年から2010年の期間、麻布大学の調査チームが日本国内に暮らす17,392頭の猫を対象としてネココロナウイルス(FCoV)の抗体検査を行ったところ、雑種の陽性率が31.2%だったのに対し、純血種のそれが66.7%と非常に高い値を示したといいます(→出典)。また2013年、カリフォルニア大学デイヴィス校の調査チームが、FIPで死亡したバーマン38頭と、健康なバーマン161頭(アメリカおよびデンマーク)とを対象とした遺伝子調査を行ったところ(→出典)FIPウイルスの病原性発露に関与した5つの遺伝子(ELMO1/RRAGA/TNFSF10/ERAP1/ERAP2)に特徴が見られたといいます。
トキソプラズマ感染において遺伝的な要因が関わっているのかどうかはわかりませんが、品種ごとに免疫能力に微妙な違いがある場合、感染率に品種ごとの格差が生まれても不思議ではありません。 1歳年齢が増すごとに感染リスクが24%ずつ高まるという現象が確認されました。長く生きていればいるほどトキソプラズマと接する機会が増えますので自明の理といえます。 統計的に有意には達しませんでしたが、長毛種において感染率が高まる傾向が確認されました。「ノルウェージャンフォレストキャット+屋外アクセス可能」という条件が揃った時、感染リスクが1.77倍に高まると報告されていることから、外を出歩いている間にトキソプラズマが被毛に付着し、グルーミングなどを通じてそれを体内に取り込んでしまうという可能性が見えてきます。 加熱していない未調理の食材を与えられている場合、感染リスクが2.5倍近くに高まることが明らかになりました。トキソプラズマの終宿主はイエネコを始めとするネコ科動物ですが、中間宿主にはあらゆる哺乳動物が含まれます。「食材は自然に近い状態で与えるのが1番!」という生肉神話を盲信し、牛肉や鶏肉を加熱しないで与えてしまうと、筋肉の中に含まれるトキソプラズマのシストを摂取し、結果として感染率が高まってしまいます。 調査チームが指摘しているように、屋外アクセスと食生活は十分にコントロールが可能ですので、猫がトキソプラズマに感染しないよう、飼い主が責任を持って管理していく必要があります。
例えば2001年から2010年の期間、麻布大学の調査チームが日本国内に暮らす17,392頭の猫を対象としてネココロナウイルス(FCoV)の抗体検査を行ったところ、雑種の陽性率が31.2%だったのに対し、純血種のそれが66.7%と非常に高い値を示したといいます(→出典)。また2013年、カリフォルニア大学デイヴィス校の調査チームが、FIPで死亡したバーマン38頭と、健康なバーマン161頭(アメリカおよびデンマーク)とを対象とした遺伝子調査を行ったところ(→出典)FIPウイルスの病原性発露に関与した5つの遺伝子(ELMO1/RRAGA/TNFSF10/ERAP1/ERAP2)に特徴が見られたといいます。
トキソプラズマ感染において遺伝的な要因が関わっているのかどうかはわかりませんが、品種ごとに免疫能力に微妙な違いがある場合、感染率に品種ごとの格差が生まれても不思議ではありません。 1歳年齢が増すごとに感染リスクが24%ずつ高まるという現象が確認されました。長く生きていればいるほどトキソプラズマと接する機会が増えますので自明の理といえます。 統計的に有意には達しませんでしたが、長毛種において感染率が高まる傾向が確認されました。「ノルウェージャンフォレストキャット+屋外アクセス可能」という条件が揃った時、感染リスクが1.77倍に高まると報告されていることから、外を出歩いている間にトキソプラズマが被毛に付着し、グルーミングなどを通じてそれを体内に取り込んでしまうという可能性が見えてきます。 加熱していない未調理の食材を与えられている場合、感染リスクが2.5倍近くに高まることが明らかになりました。トキソプラズマの終宿主はイエネコを始めとするネコ科動物ですが、中間宿主にはあらゆる哺乳動物が含まれます。「食材は自然に近い状態で与えるのが1番!」という生肉神話を盲信し、牛肉や鶏肉を加熱しないで与えてしまうと、筋肉の中に含まれるトキソプラズマのシストを摂取し、結果として感染率が高まってしまいます。 調査チームが指摘しているように、屋外アクセスと食生活は十分にコントロールが可能ですので、猫がトキソプラズマに感染しないよう、飼い主が責任を持って管理していく必要があります。