ネコ科動物の祖先種
ネコ科動物とは、体の大きなライオンから、体の小さなイエネコまで、37種を含むグループのことです。この動物たちの祖先を可能な限り古い時代までさかのぼっていくと、たった1種類の動物に行き着くと考えられています。以下は、猫と人間とが関わり合うはるか以前におけるネコ科動物たちの系統樹です。
Prehistoric Cats and Prehistoric Cat-like Creatures
ミアキス
ミアキス (Miacids or Miacis) は、約6,500万前~4,800万年前(暁新世から始新世中期)に生息した小型捕食者です。現代のイヌやネコ、アシカなどを含む食肉目の祖先、あるいは祖先に近縁な生物と考えられています。
体長は約30cmで、胴は長くほっそりしており、長い尾、短い脚などから、イタチあるいは、現在マダガスカルのみに生息するフォッサなどに似た姿であったと推定されています。後肢は前肢より長く、骨盤はイヌに近かったようです。四肢の先端には、引っ込める事の出来る鉤爪を備えた、五本の趾がありました。頭骨については、身体に対する脳頭蓋の比率からいうと、同時期の肉歯類などよりも大きめです。
当時の地上はヒアエノドンなど肉歯類が捕食者の地位を占めていたため、新参の彼らは樹上生活を余儀なくされていました。その生態は現在で言うとテンの様であったとされ、おそらくは鳥類や爬虫類、同じ樹上生活者であるパラミスやプティロドゥスなどを捕食していたと考えられています。
体長は約30cmで、胴は長くほっそりしており、長い尾、短い脚などから、イタチあるいは、現在マダガスカルのみに生息するフォッサなどに似た姿であったと推定されています。後肢は前肢より長く、骨盤はイヌに近かったようです。四肢の先端には、引っ込める事の出来る鉤爪を備えた、五本の趾がありました。頭骨については、身体に対する脳頭蓋の比率からいうと、同時期の肉歯類などよりも大きめです。
当時の地上はヒアエノドンなど肉歯類が捕食者の地位を占めていたため、新参の彼らは樹上生活を余儀なくされていました。その生態は現在で言うとテンの様であったとされ、おそらくは鳥類や爬虫類、同じ樹上生活者であるパラミスやプティロドゥスなどを捕食していたと考えられています。
プロアイルルス
プロアイルルス(Ploailurus)はおよそ2,500万年前(漸新世後期~中新世)に、ヨーロッパからアジアにかけて生息していた肉食獣です。プロアイルルスは小柄で、体重はおよそ9キロほどだったと考えられていますので、今の猫よりもほんの少しだけ大きいくらいです。長い尾、大きな目、鋭利なかぎ爪と歯をもち、今で言うジャコウネコに近かったと考えられています。かぎ爪はある程度出し入れが可能で、ジャコウネコ同様、樹上で生活することもあったようです。いまだ決定的な証拠は無いものの、後述するプセウダエルルスの祖先であると考えられています。
プセウダエルルス
プセウダエルルス(Pseudaelurus)は、およそ800万~2,000万年前(中新世)にヨーロッパ、アジア、北アメリカに生息していた先史時代の動物です。現代のネコ科動物の祖先と目されており、また絶滅したマカイロドゥス亜科(サーベルタイガーなど)にも枝分かれしていました。細身の体やジャコウネコのような足の形から、動きが敏捷で木登りもうまかったと推測されています。
マカイロドゥス
マカイロドゥス(マカイロドゥス亜科)は、肉食哺乳動物であるネコ科の亜科として位置づけられます。中新世から更新世にかけて、アジア、アフリカ、北アメリカ、南アメリカ、そしてヨーロッパに限定的に生息していました。サーベルタイガー(saber-toothed cat)の名称で有名な、絶滅した「スミロドン」や、スミロドンと似た動物を含み、長く伸びた犬歯を特徴としています。
サーベル状の牙(犬歯)の見た目は頑丈そうですが、実は平べったくて意外にもろいものでした。このことから、獲物の「うなじ」にグサリと牙を突き刺すのではなく、首の前面にある気管や頚動脈を切断するために使われていたのだろうと推測されています。
サーベル状の牙(犬歯)の見た目は頑丈そうですが、実は平べったくて意外にもろいものでした。このことから、獲物の「うなじ」にグサリと牙を突き刺すのではなく、首の前面にある気管や頚動脈を切断するために使われていたのだろうと推測されています。
イタチのような姿をしていた「ミアキス」は、数千万年の時間をかけて巨大化し、猫の祖先種となりました。次のセクションではこの「アダムとイブ」について詳しく見ていきましょう!
ネコ科動物の系統樹
2007年、アメリカの遺伝学者スティーヴン・J・オブライエン氏らが行った遺伝子調査によると、現在生息しているすべてのネコ科動物の祖先は、今からおよそ2000万年前、ヨーロッパあたりに生息していたプセウダエルルスである公算が高いとのこと。中でも1100万年前頃、アジアに生息していたヒョウのような捕食動物の一種が、ネコ科動物の共通祖先であろうとしています。
この「アダムとイブ」からおよそ1000万年かけて枝分かれしたネコ科動物は、私たちがよく目にする猫(イエネコ)を含めて、現在37種とするのが一般的です。オブライエン氏らによると、遺伝的に見てこれら37種を8つの系統に分割するのが妥当で、この見解は形態学的、生物学的、生理学的に見ても矛盾しないとのこと。以下では、同氏らが推定していいるネコ科動物の系統樹、およびネコ科に属する8系統37種をご紹介します。 Evolution of the CATS(Scientific American, 2007)
この「アダムとイブ」からおよそ1000万年かけて枝分かれしたネコ科動物は、私たちがよく目にする猫(イエネコ)を含めて、現在37種とするのが一般的です。オブライエン氏らによると、遺伝的に見てこれら37種を8つの系統に分割するのが妥当で、この見解は形態学的、生物学的、生理学的に見ても矛盾しないとのこと。以下では、同氏らが推定していいるネコ科動物の系統樹、およびネコ科に属する8系統37種をご紹介します。 Evolution of the CATS(Scientific American, 2007)
ネコ科動物の最新分類法
2017年4月、ネコ科動物の専門家からなる「Cat Specialist Group」が、1996年以来20年ぶりとなる分類法の抜本的な見直しを行い、ネコ科動物を2つの亜科、8つの系統、14の属、41の種、80の亜種に分類するのが現時点では最も妥当であるとの結論に至りました。詳しい結果はネコ科動物の種類と分類法・2017年版というページにまとめてありますのでご参照ください。なお当ページではオブライエン氏のデータに基づき、便宜上37種で解説します。
ヒョウ系
ヒョウ系(Panthera)は大型肉食動物で、大きいものでは体重が350kgに達することもあります。分類学上は「Panthera属」と「Neofelis属」を含みます。ウンピョウに属する2種以外では吠えることができるのが特徴です。祖先種から分岐したのは、全てのネコ科動物の中で最も早い1080万年前頃と推定されています。
- ライオン
- ヒョウ
- ジャガー
- トラ
- ユキヒョウ
- ウンピョウ
- ボルネオウンピョウ
ボルネオヤマネコ系
ボルネオヤマネコ系(Bay Cat)は、主に東南アジアの熱帯地帯に生息する小型の動物で、体重は2~16kg程度です。分類学上は「Catopuma属」と「Pardofelis属」を含みます。DNA解析をする前まで分類が困難だったマーブルキャットもここに含まれます。祖先種から分岐したのは今から940万年前頃とかなり初期ですが、わずか100万年の差しかないヒョウ系とは20倍近くの体格差があります。
- ボルネオヤマネコ
- テミンクネコ
- マーブルキャット
カラカル系
カラカル系(Caracal)はアフリカにだけ生息している動物で、体重は5~25kg程度です。分類学上は「Caracal属」と「Leptailurus属」を含みます。長くほっそりした四肢が特徴で、跳躍力は2~3mに達します。祖先種から分岐したのは、今から850万年前頃と推定されています。
- カラカル
- アフリカゴールデンキャット
- サーバル
オセロット系
オセロット系(Ocelot)は中央アメリカから南アメリカにかけて広く生息している動物で、体重は1.5~16kg程度です。分類学上は「Leopardus属」を含みます。祖先種から分岐したのは、今から800万年前頃と推定されています。
- オセロット
- ジェフロイネコ
- コドコド
- ティグリナ
- アンデスネコ
- コロコロ
- マーゲイ
リンクス系
リンクス系(Lynx)は北アメリカやユーラシアなど温暖な気候に暮らす動物で、体重は6~20kg程度です。分類学上は「Lynx属」を含みます。短いしっぽとピンと立った耳を特徴としており、かつては毛皮の供給源となったという悲しい歴史があります。祖先種から分岐したのは、今から720万年前頃と推定されています。
- スペインオオヤマネコ
- ヨーロッパオオヤマネコ
- カナダオオヤマネコ
- ボブキャット
ピューマ系
ピューマ系(Puma)は北アメリカで生まれた後、各大陸へ散らばっていった動物で、体重は3~65kgと幅があります。分類学上は「Puma属」、「Acinonyx属」、「Herpailurus属」を含みます。祖先種から分岐したのは、今から670万年前頃と推定されています。
- ピューマ
- ジャガランディ
- チーター
ベンガルヤマネコ系
ベンガルヤマネコ系(Leopard Cat)はアジアの広い範囲にわたって生息している動物で、体重は2~12kg程度です。分類学上は「Prionailurus属」と「Otocolobus属」を含みます。不思議な風貌で人気のマヌルネコだけは、590万年前というかなり早い段階で他の種から枝分かれしたようです。祖先種から分岐したのは、今から620万年前頃と推定されています。
- ベンガルヤマネコ
- スナドリネコ
- マレーヤマネコ
- サビイロネコ
- マヌルネコ
ネコ系
ネコ系(Domestic Cat)は、現在世界中で最も繁栄しているイエネコを含む系統で、体重は1~10kgとネコ科動物の中では最も小柄な部類に属します。分類学上は「Felis属」を含みます。祖先種から分岐したのは、今から340万年前頃と最も直近です。
- イエネコ
- ヤマネコ
- スナネコ
- クロアシネコ
- ジャングルキャット
ネット上にはスナネコやクロアシネコを「ネコの一種」と表現しているものもありますが、正確には「イエネコと同じネコ系の一種」であり、決して猫と同種ではありません。次のセクションではネコ系がどのように枝分かれして現代の「イエネコ」が誕生したのかを見ていきましょう!
イエネコの祖先
現在のようにネコ科動物が世界中に散らばったのは、祖先種がアジアから飛び出し、地球上の海面の高さが低くなったタイミングでアフリカや北アメリカへ移動した結果だと推測されています。移動が始まったのは今からおよそ900万年前で、特に最も大規模な大陸間移動が起こったのは、海抜が低くなった100万から400万年前と考えられています。
ネコ系の枝分かれ
その後、各所で発展を遂げたネコ科動物たちのうち、北アメリカから出戻りして中近東あたりに生息していた小型の肉食動物が、現在のイエネコの祖先になったようです。
2007年、アメリカ国立がん研究所(NCI)のカルロス・ドリスコルらを中心としたキャットゲノム研究チームは、3つの大陸に生息するヤマネコ5種と、アメリカ、イギリス、日本などに暮らすイエネコ合計979匹をサンプルとしたミトコンドリアDNAの解析を行いました。その結果、現存している5種類のヤマネコ(Felis silvestris)のうち、23万年前にまず「ハイイロネコ」(F.s.bieti)がスナネコから枝分かれし、その後「ヨーロッパヤマネコ」(F.s.silvestris)、「ステップヤマネコ」(F.s.ornata)の順で分岐したことが明らかになりました。そして17万3000年前、「ミナミアフリカヤマネコ」(F.s.cafra)と「リビアヤマネコ」(F.s.lybica)が枝分かれし、それぞれに固有の生息領域をもつようになったとのこと。さらに、これら5種のヤマネコと現代に生きるイエネコのミトコンドリアDNAとを比較したところ、最も近いのは中近東あたりに生息している「リビアヤマネコ」だったそうです。
2007年、アメリカ国立がん研究所(NCI)のカルロス・ドリスコルらを中心としたキャットゲノム研究チームは、3つの大陸に生息するヤマネコ5種と、アメリカ、イギリス、日本などに暮らすイエネコ合計979匹をサンプルとしたミトコンドリアDNAの解析を行いました。その結果、現存している5種類のヤマネコ(Felis silvestris)のうち、23万年前にまず「ハイイロネコ」(F.s.bieti)がスナネコから枝分かれし、その後「ヨーロッパヤマネコ」(F.s.silvestris)、「ステップヤマネコ」(F.s.ornata)の順で分岐したことが明らかになりました。そして17万3000年前、「ミナミアフリカヤマネコ」(F.s.cafra)と「リビアヤマネコ」(F.s.lybica)が枝分かれし、それぞれに固有の生息領域をもつようになったとのこと。さらに、これら5種のヤマネコと現代に生きるイエネコのミトコンドリアDNAとを比較したところ、最も近いのは中近東あたりに生息している「リビアヤマネコ」だったそうです。
こうした事実から研究チームは、現在世界中に存在しているイエネコの祖先は、約17万3000年前に他のヤマネコ種から枝分かれし、13万1000年前から細分化を繰り返したリビアヤマネコのうち、中近東に生息していたものである可能性が高い結論付けました。下の地図中における緑のエリアです。Trends in Genetics(2008,6)
猫の故郷はどこ?
猫の故郷に関しては2016年に行われた調査でさらに限局化が図られ、現在のトルコ半島部アジア側に相当する「小アジア」(アナトリア)ではないかという仮説が浮上しています。
調査チームが旧石器時代から19世紀までのおよそ9,000年に渡る古代猫の遺体を調べたところ、小アジアで発掘されたサンプルが最も古く、紀元前8,000年頃のものと推定されました。また採取されたミトコンドリアDNAをさらに細かく分類すると、小アジアのものは「A*」という、現代のイエネコと共通の分岐群に属していることが明らかになったとも。こうした事実から考えると、今からおよそ1万年前、小アジアに暮らしていたリビアヤマネコが少し南に下った場所にある肥沃な三日月地帯に移動し、ここで人間に家畜化されてイエネコになったという可能性が浮上してきます。
5種類いるヤマネコの中で、リビアヤマネコだけが人間に家畜化された理由は何なのでしょうか?最も大きな要因は、生息していた小アジアと肥沃な三日月地帯が地理的に近かったという点だと思われます。しかしそれだけではなく、リビアヤマネコが生来備えていた性格の穏やかさという点も、家畜化には欠かせなかったと考えられます。
ヨーロッパヤマネコとリビアヤマネコは遺伝的にも形態的にもほとんど違いがありません。しかし1944年、Pittによって報告された文献によると、ヨーロッパヤマネコは非常に警戒心が強く、たとえ子獣のころから手なづけても、人間と共同生活を営むことは難しかったと言います。また、イエネコと掛け合わせた第一世代においても、相変わらず人懐こさは見られず、野性の親に似ていたとも。
ヨーロッパヤマネコが敬遠され、リビアヤマネコの方だけが人間に家畜化された背景には、彼らがもっていた生来の人懐こさ、もしくは厚かましさがあったのかもしれませんね。