猫の悪性リンパ腫の病態と症状
猫の悪性リンパ腫とは、全身のいたるところに存在しているリンパ組織がガン化した状態を言い、リンパ肉腫とも呼ばれます。
リンパ組織とは感染症や腫瘍の広がりから体を守る免疫作用をつかさどる組織であり、具体的にはリンパ節、扁桃腺、胸腺、骨髄、腸内のパイエル板などが含まれます。犬における悪性リンパ腫の有病率は10万頭あたり6~30頭ですが、猫では41.6~200頭とかなり高めです。また猫の腫瘍系疾患の内33%を占め、造血器系腫瘍の90%を占めると推計されています。
猫の悪性リンパ腫の主な症状は以下です。
多くの場合、皮むけを伴う全身の発赤(数mm~数cm)、かゆみ、発熱、リンパ節の腫れを特徴とする「セザリー症候群」を併発しますが、他の皮膚病と外観が似ているため、鑑別は困難です。特に脂漏症、アトピー性皮膚炎、膿皮症などと間違われやすく、抗生物質を始めとする皮膚病薬に反応しないことで初めて、この疾患が疑われることもしばしばです。
リンパ組織とは感染症や腫瘍の広がりから体を守る免疫作用をつかさどる組織であり、具体的にはリンパ節、扁桃腺、胸腺、骨髄、腸内のパイエル板などが含まれます。犬における悪性リンパ腫の有病率は10万頭あたり6~30頭ですが、猫では41.6~200頭とかなり高めです。また猫の腫瘍系疾患の内33%を占め、造血器系腫瘍の90%を占めると推計されています。
猫の悪性リンパ腫の主な症状は以下です。
猫の悪性リンパ腫の主症状
- 多中心型 多中心型(たちゅうしんがた)とは体表面のリンパ節が腫れるタイプの悪性リンパ腫です。通常、コリコリと触れるほどリンパ節が大きく腫れあがりますが、痛みはありません。ほとんどは猫白血病ウイルス感染症が基礎疾患としてあり、粘膜の色が薄いといった貧血症状を呈します。犬においては8割以上がこのタイプですが、猫においては5割未満と推計されており、また地域差も大きいようです。
- 消化器型 消化器型(しょうかきがた)はおなかや腸内のリンパ節(パイエル板)がガン化したタイプで、下痢、嘔吐、食欲不振などの症状が見られます。貧血症状はあまり見られません。7歳以上の猫に多く、FeLV陽性率は70%程度です(地域差あり)。
- 縦隔型 縦隔型(じゅうかくがた)とは縦隔と呼ばれる左右の肺と胸椎、胸骨に囲まれた空間に発生したリンパ腫で、咳や呼吸困難などの症状が見られます。2~3歳の若齢猫に多く、好発部位は縦隔の後方に位置する「後縦隔リンパ節」です。
- 節外型 節外型(せつがいがた)とは、上記3タイプを除いた全てのリンパ腫を指す広い概念です。神経系では末梢神経よりも中枢神経に多く、脳に発生した場合は発作や麻痺、脊髄に発生した場合は下半身不随などを引き起こします。猫で多いのが腎臓に発生するパターンで、腎臓の腫大と慢性腎不全を伴います。目に発症した場合はブドウ膜炎、前房出血、角膜炎、緑内障、網膜剥離といった眼科系の多様な症状を示し、ときに眼球突出のようなわかりやすい症状となって現れることもあります。
多くの場合、皮むけを伴う全身の発赤(数mm~数cm)、かゆみ、発熱、リンパ節の腫れを特徴とする「セザリー症候群」を併発しますが、他の皮膚病と外観が似ているため、鑑別は困難です。特に脂漏症、アトピー性皮膚炎、膿皮症などと間違われやすく、抗生物質を始めとする皮膚病薬に反応しないことで初めて、この疾患が疑われることもしばしばです。
猫の悪性リンパ腫の原因
猫の悪性リンパ腫の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
猫の悪性リンパ腫の主な原因
- ウイルス感染 猫の悪性リンパ腫には猫白血病ウイルス(FeLV)がかかわっていることは間違いないようです。具体的には「FeLVを体内に保有している猫がリンパ肉腫を発症する確率は、保有していない猫の62倍」(Shelton, 1990)、「リンパ肉腫のうち、70%はFeLVが原因」(Rojko, 1994)といったデータがあります。また猫エイズウイルス感染症(FIV)も増悪因子の一つです。FIVは猫白血病ウイルス感染症の発症率を6倍に高め、結果としてリンパ肉腫の発症率を77倍にまで押し上げてしまいます。
- 受動喫煙 2002年に行われた研究では、「二次喫煙を余儀なくされている猫では悪性リンパ腫の発症率が高まる」との可能性が示唆されています。一般的に、マズルの長さが犬よりも短い猫においては、鼻腔による空気の清浄化作用が弱まるため、受動喫煙によるリスクが高まります。
- ヘリコバクター(?) 2008年に行われた研究では、腸管内におけるヘリコバクター菌と消化管型リンパ肉腫の関連性が指摘されています。しかしまだ明確な因果関係が確認されたわけではありません。
- 磁場(?) 1995年に行われた調査によると、電線から発せられる磁場の強さが、犬のリンパ肉種の発症率に影響を及ぼしている可能性が示されています。しかし人における研究では、磁場とガンとの因果関係を否定するような結果も出ているため、これが確実に犬や猫の悪性リンパ腫を引き起こしているとは言い切れません。
猫の悪性リンパ腫の治療
猫の悪性リンパ腫の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
猫の悪性リンパ腫の主な治療法
- 化学療法・薬物療法
悪性リンパ腫の治療は抗がん剤による化学療法がメインとなります。犬に関しては、およそ8割の確率でリンパ節の腫れが引いて寛解し、2年後生存率は約25%といわれますが、猫に関してはあまり治療成績がよくないようです。化学療法に反応して症状が寛解した猫の平均生存期間は7ヶ月、やや寛解した猫は2.5ヶ月、無反応の猫は1.5ヶ月というデータもあります。
化学療法の目的は、あくまでも猫のQOL(生活の質)を維持することであり、病気を治癒することではありません。副作用の可能性も含めて、獣医師とよく相談した上で計画を立てていきます。なお2023年、英国・王立獣医大学のチームが18ヶ月齢未満の猫に発症する若齢型リンパ腫の疫学調査を行いました。詳しいレポートは以下のページをご参照ください。 - 放射線療法 化学療法に反応しない腫瘍や縦隔にできた大きな腫瘍、もしくは孤立性の皮膚病変に対して行われることがあります。
- 感染症予防 悪性リンパ腫の発症確率を高める猫白血病ウイルス感染症(FeLV)、および猫エイズウイルス感染症(FIV)の予防に努めることが、飼い主にできる最善の治療と言えるでしょう。前者は口からのウイルスの取り込み、後者はケンカなどでできた傷口からのウイルスの取り込みが主な原因です。こうした要因から猫を遠ざけることが、リンパ肉腫の予防につながります。