トップ猫の文化猫の浮世絵美術館歌川国芳展流行猫の狂言づくし

流行猫の狂言づくし

 江戸時代に活躍した浮世絵師・歌川国芳の残した猫の登場する作品のうち、流行猫の狂言づくしについて写真付きで解説します。

作品の基本情報

  • 作品名流行猫の狂言づくし
  • 制作年代1839年頃(江戸・天保39)
  • 落款一勇斎国芳戯画
  • 板元川口屋宇兵衛
流行猫の狂言づくしのサムネイル写真

作品解説

 「流行猫の狂言づくし」(はやりねこのきょうげんづくし)は、当時流行していた歌舞伎狂言の演目を、猫を登場人物に見立てて描いたものです。右下には丁寧にも口上を述べる猫が描かれており、「東西東西此度新工夫猫狂言に取仕組おいおいご覧入れ奉りまする。そのため口上さやうにゃぐにゃぐ」と発しています。
 さて、東京書籍出版「江戸猫-浮世絵猫づくし」(P52-55)によると、各演目は以下のようになります。なお、演目名横の数字は図内の数字に対応しています。
流行猫の狂言づくし・演目
流行猫の狂言づくし・その1
1, 夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)  「夏祭浪花鑑」は並木千柳・三好松洛・竹田小出雲作で、延享2年7月(1745年8月)に大坂竹本座で初演された人気演目です。物語は元禄11年(1698年)冬、大坂長町裏(現在の大阪市中央区日本橋)で起きた魚屋による殺人事件を題材にしています。猫が演じているのは全九段あるうちの第六段「釣船三婦内」における団七九郎兵衛、釣船の三婦、一寸徳兵衛によるもめごとだと思われます。
2, 小稲半兵衛(こいなはんべえ) 「小稲半兵衛」は宝永(1704-11)のころの近江(おうみ)大津柴屋町の芸者「小稲」と稲野屋「半兵衛」の情死事件を、初代都太夫一中(みやこだゆう-いっちゅう)が「唐崎心中」として脚色し上演し評判となった演目です。
3, 近頃河原の達引(ちかごろかわらのたてひき)  「近頃河原の達引」は為川宗輔、筒川平二、奈川七五三助作の全三段からなる世話浄瑠璃です。1703(元禄16)年に起こった、お俊と庄兵衛の心中事件を題材としています。猫は猿回しの与次郎と猿の両方を演じています。 
4, 忠臣蔵(ちゅうしんぐら)  年末時代劇などでも有名な「忠臣蔵」は、元禄15年12月14日(1703年1月30日)、大石良雄をはじめとする赤穂藩の旧藩士47人(赤穂浪士)が本所・吉良邸へ討ち入りを実行し、その後浪士たちが切腹に至るまでの物語です。猫が演じているのは山賊定九郎が与一兵衛の財布を強奪した場面で、足元には小判が散らばっています。
5, 戻駕色相肩(もどりかごいろあいかた)  「戻駕色相肩」は、天明8年(1788)11月、初世中村仲蔵、4世松本幸四郎、初世松本米三郎により初演された歌舞伎舞踊です。二人の駕籠担ぎ「東の与四郎」と「浪花の次郎作」が、島原から禿(かむろ=遊女見習いの幼女)を乗せての道中、禿を相手にそれぞれ、江戸と大阪の自慢と廓話をするという内容。猫が演じているのは右「次郎作」、左「与四郎」、中央が「かむろたより」です。
6, 一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)  「一谷嫩軍記」は並木宗輔作、宝暦元年(1751年)11月に大坂豊竹座にて初演された文楽および歌舞伎の人気演目です。猫が演じているのは、平敦盛を討ち取って世の無常を嘆く熊谷次郎直実(中央)と、それを見守る女房「相模」(左)、および源九郎義経(右)。
7, 梅の由兵衛(うめのよしべえ)  「梅の由兵衛」は浄瑠璃「茜染野中の隠井」(あかねぞめのなかのこもりいど)や歌舞伎狂言「隅田春妓女容性」(すだのはるげいしゃかたぎ)などに登場する侠客。元は元禄2年(1689)に処刑されたという大坂の梅渋吉兵衛という悪党をモデルにしているといわれています。猫が演じているのは、由兵衛(右)と、由兵衛の女房の弟で丁稚の長吉(左)。
8, 五代力恋緘(ごだいりきこいのふうじめ)  「五代力恋緘」は初世並木五瓶作、寛政6年(1794)に大阪で初演された歌舞伎狂言です。1737年(元文2)大坂曾根崎新地の湯女(ゆな)「菊野」らが薩摩侍に殺された「五人斬り事件」を題材としています。猫が演じているのは無骨な武士・薩摩源五兵衛。深川で誤解から芸者を殺してしまい、失意の内に自害しようと刀を手に取るが、芸者からの手紙を読んでその真意を知るという場面です。