エンテロコッカスの成分
エンテロコッカス属(Enterococcus)とはフィルミクテス門に属する乳酸菌の一種。非常に多くの亜種があり、宿主の健康に寄与するもの、宿を借りているだけで何の家賃も払わないもの、そして宿主の健康を悪化させる恩知らずなものまでさまざまです。ヒトの腸内で検出されるエンテロコッカスは、8~9割近くがE. faecalisで、残りがE. faeciumという内訳になっています。グラム陽性の球菌で、電子顕微鏡で拡大すると確かに球形になっていることがよくわかります。
日本の東京大学が行った調査によると、エンテロコッカスは猫の腸内に比較的たくさん生息しており、年齢の影響を受けにくいと報告されています。人間で言うビフィズス菌やラクトバチルス(乳酸桿菌)の役割を、猫の場合はエンテロコッカスが担っているのではないかと推測されています。動物種が違えば腸内細菌の役割も変わるのかもしれませんね。
(:Jackson, 2009)。
一言で「エンテロコッカス属」といっても、猫を宿主とする系統はたくさんあります。例えばアメリカ・ジョージア州にある3つの動物病院を受診した猫を対象とした調査では、121頭中60%(72頭)の体からエンテロコッカス属が検出され、E.hiraeが52%(63/121)で最も多かったといいます。また腸内細菌を最も反映しやすい直腸から検出された菌株に限定すると、以下のような内訳でした猫に多いエンテロコッカス属
- E.faecalis=45%
- E.hirae=30%
- E.avium=13%
- E.faecium=8%
- E.gallinarum=2%
- E.raffinosus=2%
エンテロコッカスは安全?危険?
エンテロコッカスを猫に与えても大丈夫なのでしょうか?もし大丈夫だとするとどのくらいの量が適切なのでしょうか?以下でご紹介するのはエンテロコッカスに関して報告されている安全性もしくは危険性に関する情報です。
エンテロコッカス・フェシウム
数あるエンテロコッカスの中でも比較的頻繁に検出されるのが「エンテロコッカス・フェシウム」です(faeciumはそもそも糞便中に多く見いだされるという意味)。猫の腸管に付着してコロニーを形成しやすいことから、プロバイオティクスとしての有用性が数多くの調査で検証されています。一方、多剤耐性を獲得したエンテロコッカス・フェシウムによる肝胆管炎の症例が報告されていますので、使い方を間違えると宿主である猫の健康に悪影響をもたらすかもしれません(:Pressel, 2005)。
ペットフードのラベルではほぼすべてが「エンテロコッカス・フェシウム」もしくは「乾燥エンテロコッカス・フェシウム発酵産物」とだけ記載されています。しかし以下の調査報告が示しているとおり、細菌の系統が変わると違った作用を示しますので、しっかり系統まで示してくれないとどのようか効果が期待できるのかを理解できません。
フェシウムNCIMB10415(SF68)
EFSA(欧州食品安全機関)は「エンテロコッカス・フェシウムDSM10663」(NCIMB 10415)を含むプロバイオティクスの一種「Oralin®」の使用基準に関し、猫の場合完全飼料1kg中における菌の濃度を100億~10兆に変動しても影響がなかったことから1000億までは大丈夫だろうとの見解を示しています。
一方、効果に関しては48頭の子猫を対象とし、なにも加えていないフードのほか完全飼料1kg中「100億」「1000億」「1兆」という濃度で含んだフードを用意した28日間の給餌試験が行われました。その結果、給餌期間終了時における糞便スコアに関し、なにもないときが3.3、100億のときが2.9、1000億のときが2.9、1兆のときが2.7で、統計的に有意な格差だったといいます(※水分含量が減って下痢が軽減)。また20頭の猫を対象とした30日間の給餌試験(1000億/kg)においては糞便スコアが3.2→2.9、18頭を対象とし28日間の給餌試験(1000億/kg)では3.0→2.8という変化が見られ、どれも統計的に有意な格差だったといいます。
しかしEFSAの専門家委員会は、スコアの減少幅が小さいことや再現性が確認できないことを理由に、効果に関しては疑問の余地が残るという慎重な態度を示しています(:EFSA, 2014)。 EFSA(欧州食品安全機関)は「エンテロコッカス・フェシウムNCIMB10415」(SF68とも)を含む「Cylactin®」と呼ばれる製品の使用基準に関し、猫の場合は完全飼料1kg中500万~800億CFUなら問題ないだろうとの見解を示しています。
離乳を終えたばかりの子猫をランダムで2つのグループに分け、一方のグループ6頭にだけ1日50億CFU(フード1kg中690億CFUに相当)の割合で「エンテロコッカス・フェシウムSF68」を給餌するという試験を行いました。試験開始から19→26→40→52週後のタイミングで血清免疫グロブリンA濃度を計測すると同時に52週後のタイミングで便中IgA濃度を計測したところ、糞便スコアに関しサプリメントグループの方で顕著な改善が見られたといいます(2.4 vs 1.9)。また1日の排便回数が統計的に有意なレベルで減ったとも(1.6回 vs. 2.4回)。一方、便中IgAおよび血清IgAにグループ格差は認められませんでした。
おなかの調子が悪い15頭の成猫を対象とした調査では、7頭と8頭に分けて前者にだけ「フェシウムSF68」を1日50億CFUの割合で25日間給餌するという試験が行われました。その結果、サプリメントグループでだけ便の水分含量および下痢の割合が減少(58% vs 38%)したといいます。
離乳を終えたばかりの子猫5頭を対象とした調査では、「フェシウムSF68」を1日当たり5000万CFU、1億CFU、5億CFUという割合で給餌するという試験が行われました。少なくとも子猫たちの健康や成長に問題は見られず、4ヶ月経過した時点における糞便スコアがサプリメントを給餌されていた期間において改善が見られたといいます。一方、便中および血清免疫グロブリンA濃度に格差は見られなかったとも。
EFSAは最終的に、免疫グロブリンAに対する効果は認められず、また便のスコア(下痢の改善)に関しても結果がまちまちであるため、結論を支持する立場にないとの保留的な態度を示しています(:EFSA, 2013)。 コロラド州立大学の調査チームは動物保護施設に収容された270頭の猫を対象とし、「エンテロコッカス・フェシウムSF68」(NCIMB10415と同じ)を1日210億CFUの割合で4週間給餌するという試験を行いました。
その結果、サプリメントを与えられていなかったベースライン期間4週間と比較し、1日2回以上の下痢便を示した日数の割合が20.7%から7.4%に減少したといいます。またこの格差は統計的に有意(P=0.0297)と判断されました(:Bybee, 2011)。 コロラド州立大学の調査チームは慢性的なヘルペスウイルス感染症にかかり結膜炎の症状を示した12頭の成猫(1歳)をランダムで2つのグループに分け、一方にだけ「エンテロコッカス・フェシウムSF68」を1日50億CFUの割合で給餌するという試験を行いました。
集団で28日、個別ケージで28日間過ごした後、便細菌叢を調べたところ、サプリメントを受けていなかったグループでだけ細菌の多様性減少が見られたといいます。症状に関してはサプリメントグループで改善傾向が見られたものの個体差が大きく、断定的なことは言えないとの結論に至りました(:Lappin, 2009)。 カリフォルニア大学デイヴィス校のチームは、共存症がない肥満の猫16頭をランダムで2つのグループに分け、一方(8頭)にだけ「エンテロコッカス・フェシウムSF68」を8週間に渡って給餌するという試験を行いました。その結果、給餌前、給餌から8週間後および給餌終了から6週間後のタイミングで計測した食事量、代謝パラメーター、BCS(肥満度)にグループ差は見られなかったといいます(:Katharini, 2016)。 コロラド州立大学の調査チームは研究室で飼育されている猫を対象とし、抗生物質を7日間投与した後に14日間「エンテロコッカス・フェシウムSF68」を給餌するという試験を行いました。
その結果、糞便スコアが6もしくは7(=下痢)の割合に関し、サプリメントグループが69.2%(9/13)だったのに対し、サプリなしグループが85.7%(12/14)だったといいます。また最もひどいスコア7に関してはサプリなしグループでだけ観察されました。給餌開始から11日目までの便スコアをトータルで比較したところ、サプリメントグループの方が統計的に有意なレベルで低い(=水分含量が少ない)と判断されたとも。便細菌叢の多様性が減少したものの、両グループ間で格差はなかったそうです。
調査チームは抗生物質を投与した後に腸内細菌叢が変化して嘔吐や下痢が頻発するが、「エンテロコッカス・フェシウムSF68」の添加によって症状を軽減できるかもしれないとの結論に至っています(:Henderson, 2017)。
一方、効果に関しては48頭の子猫を対象とし、なにも加えていないフードのほか完全飼料1kg中「100億」「1000億」「1兆」という濃度で含んだフードを用意した28日間の給餌試験が行われました。その結果、給餌期間終了時における糞便スコアに関し、なにもないときが3.3、100億のときが2.9、1000億のときが2.9、1兆のときが2.7で、統計的に有意な格差だったといいます(※水分含量が減って下痢が軽減)。また20頭の猫を対象とした30日間の給餌試験(1000億/kg)においては糞便スコアが3.2→2.9、18頭を対象とし28日間の給餌試験(1000億/kg)では3.0→2.8という変化が見られ、どれも統計的に有意な格差だったといいます。
しかしEFSAの専門家委員会は、スコアの減少幅が小さいことや再現性が確認できないことを理由に、効果に関しては疑問の余地が残るという慎重な態度を示しています(:EFSA, 2014)。 EFSA(欧州食品安全機関)は「エンテロコッカス・フェシウムNCIMB10415」(SF68とも)を含む「Cylactin®」と呼ばれる製品の使用基準に関し、猫の場合は完全飼料1kg中500万~800億CFUなら問題ないだろうとの見解を示しています。
離乳を終えたばかりの子猫をランダムで2つのグループに分け、一方のグループ6頭にだけ1日50億CFU(フード1kg中690億CFUに相当)の割合で「エンテロコッカス・フェシウムSF68」を給餌するという試験を行いました。試験開始から19→26→40→52週後のタイミングで血清免疫グロブリンA濃度を計測すると同時に52週後のタイミングで便中IgA濃度を計測したところ、糞便スコアに関しサプリメントグループの方で顕著な改善が見られたといいます(2.4 vs 1.9)。また1日の排便回数が統計的に有意なレベルで減ったとも(1.6回 vs. 2.4回)。一方、便中IgAおよび血清IgAにグループ格差は認められませんでした。
おなかの調子が悪い15頭の成猫を対象とした調査では、7頭と8頭に分けて前者にだけ「フェシウムSF68」を1日50億CFUの割合で25日間給餌するという試験が行われました。その結果、サプリメントグループでだけ便の水分含量および下痢の割合が減少(58% vs 38%)したといいます。
離乳を終えたばかりの子猫5頭を対象とした調査では、「フェシウムSF68」を1日当たり5000万CFU、1億CFU、5億CFUという割合で給餌するという試験が行われました。少なくとも子猫たちの健康や成長に問題は見られず、4ヶ月経過した時点における糞便スコアがサプリメントを給餌されていた期間において改善が見られたといいます。一方、便中および血清免疫グロブリンA濃度に格差は見られなかったとも。
EFSAは最終的に、免疫グロブリンAに対する効果は認められず、また便のスコア(下痢の改善)に関しても結果がまちまちであるため、結論を支持する立場にないとの保留的な態度を示しています(:EFSA, 2013)。 コロラド州立大学の調査チームは動物保護施設に収容された270頭の猫を対象とし、「エンテロコッカス・フェシウムSF68」(NCIMB10415と同じ)を1日210億CFUの割合で4週間給餌するという試験を行いました。
その結果、サプリメントを与えられていなかったベースライン期間4週間と比較し、1日2回以上の下痢便を示した日数の割合が20.7%から7.4%に減少したといいます。またこの格差は統計的に有意(P=0.0297)と判断されました(:Bybee, 2011)。 コロラド州立大学の調査チームは慢性的なヘルペスウイルス感染症にかかり結膜炎の症状を示した12頭の成猫(1歳)をランダムで2つのグループに分け、一方にだけ「エンテロコッカス・フェシウムSF68」を1日50億CFUの割合で給餌するという試験を行いました。
集団で28日、個別ケージで28日間過ごした後、便細菌叢を調べたところ、サプリメントを受けていなかったグループでだけ細菌の多様性減少が見られたといいます。症状に関してはサプリメントグループで改善傾向が見られたものの個体差が大きく、断定的なことは言えないとの結論に至りました(:Lappin, 2009)。 カリフォルニア大学デイヴィス校のチームは、共存症がない肥満の猫16頭をランダムで2つのグループに分け、一方(8頭)にだけ「エンテロコッカス・フェシウムSF68」を8週間に渡って給餌するという試験を行いました。その結果、給餌前、給餌から8週間後および給餌終了から6週間後のタイミングで計測した食事量、代謝パラメーター、BCS(肥満度)にグループ差は見られなかったといいます(:Katharini, 2016)。 コロラド州立大学の調査チームは研究室で飼育されている猫を対象とし、抗生物質を7日間投与した後に14日間「エンテロコッカス・フェシウムSF68」を給餌するという試験を行いました。
その結果、糞便スコアが6もしくは7(=下痢)の割合に関し、サプリメントグループが69.2%(9/13)だったのに対し、サプリなしグループが85.7%(12/14)だったといいます。また最もひどいスコア7に関してはサプリなしグループでだけ観察されました。給餌開始から11日目までの便スコアをトータルで比較したところ、サプリメントグループの方が統計的に有意なレベルで低い(=水分含量が少ない)と判断されたとも。便細菌叢の多様性が減少したものの、両グループ間で格差はなかったそうです。
調査チームは抗生物質を投与した後に腸内細菌叢が変化して嘔吐や下痢が頻発するが、「エンテロコッカス・フェシウムSF68」の添加によって症状を軽減できるかもしれないとの結論に至っています(:Henderson, 2017)。
エンテロコッカス・フェカリス
猫の直腸からは高い確率で「エンテロコッカス・フェカリス」が検出されます。キャットフードの中には菌株EF2001を含んでいるものがあるようです。
しかし猫を対象とした給餌試験の報告は、少なくとも閲覧可能なパブリックドメインという形では存在していないようです。メーカーの独自調査資料があるかもしれませんが、フェカリスをどのくらいの量でどのくらいの期間給餌したら、どのような効果が現れた(期待できる)のかはさっぱりわかりません。また多剤耐性を獲得したエンテロコッカス・フェカリスによる下部尿路感染症の症例が報告されていますので、使い方を間違えると宿主である猫の健康に悪影響をもたらすかもしれません(:Pomba, 2010)。
参考までに、以下ではマウスを対象とした給餌試験の結果をご紹介します。 オスとメスのマウスを対象とし、EF2001を体重1kg当たり1,000mg、3,000mg、5,000mgの割合で13週間に渡って給餌したところ、身体、血液、体重に変化は見られなかったといいます。この結果からLD50(半数致死量)は体重1kg当たり5,000mg超だと推定されています(:Yeun-Hwa Gu2018)。 アトピー性皮膚炎を抱えたマウスを対象とし、フェカリスEF2001を4週間に渡って給餌したところ、耳の肥厚度、組織学的検査、血清免疫グロブリンレベルに改善が見られたといいます。またイエダニと接触したときの、耳、リンパ節、脾臓細胞におけるサイトカイン群の病的な表徴が減少したとも(:Chou, 2016)。 炎症性腸疾患(IBD)を抱えたマウスを対象としてエンテロコッカス・フェカリスEF2001を給餌したところ、患部におけるサイトカイン、COX-2、iNOS、インターフェロンγ、インターロイキン1β、インターロイキン6の減少が見られたといいます(:Chou, 2019)。 急性の胃潰瘍を発症したマウスを対象としてエンテロコッカス・フェカリスEF2001を体重1kg当たり1日20~80mgの割合で5日間に渡って給餌したところ、胃粘膜における組織学的障害スコアが減少したといいます。おそらくMAPKsやNF-κBシグナリングを抑制することで炎症促進性の化学物質やサイトカインの生成を減少させるのではないかと推測されています(:Jeon, 2020)。
参考までに、以下ではマウスを対象とした給餌試験の結果をご紹介します。 オスとメスのマウスを対象とし、EF2001を体重1kg当たり1,000mg、3,000mg、5,000mgの割合で13週間に渡って給餌したところ、身体、血液、体重に変化は見られなかったといいます。この結果からLD50(半数致死量)は体重1kg当たり5,000mg超だと推定されています(:Yeun-Hwa Gu2018)。 アトピー性皮膚炎を抱えたマウスを対象とし、フェカリスEF2001を4週間に渡って給餌したところ、耳の肥厚度、組織学的検査、血清免疫グロブリンレベルに改善が見られたといいます。またイエダニと接触したときの、耳、リンパ節、脾臓細胞におけるサイトカイン群の病的な表徴が減少したとも(:Chou, 2016)。 炎症性腸疾患(IBD)を抱えたマウスを対象としてエンテロコッカス・フェカリスEF2001を給餌したところ、患部におけるサイトカイン、COX-2、iNOS、インターフェロンγ、インターロイキン1β、インターロイキン6の減少が見られたといいます(:Chou, 2019)。 急性の胃潰瘍を発症したマウスを対象としてエンテロコッカス・フェカリスEF2001を体重1kg当たり1日20~80mgの割合で5日間に渡って給餌したところ、胃粘膜における組織学的障害スコアが減少したといいます。おそらくMAPKsやNF-κBシグナリングを抑制することで炎症促進性の化学物質やサイトカインの生成を減少させるのではないかと推測されています(:Jeon, 2020)。
エンテロコッカスの系統(菌株)や含有量が記載されていない場合、安全性や期待できる効果の検証ができません。また猫に対する影響がわからないまま実験的に使用されている場合もあります。腸内細菌に関する詳細は「猫の腸内細菌(フローラ)」をご覧ください。