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ペルシャの鼻ぺちゃ(短頭)は頭蓋縫合早期癒合症の結果~疾患を固定する繁殖は明らかな虐待

 鼻ぺちゃ短頭種の代表格として知られるペルシャ。丸っこいフォルムを見て「かわいい!」と感じる人も多いようですが、この特徴的な外見を作り出しているのが頭蓋縫合早期癒合症という病気であるという事実はあまり知られていません。

ペルシャの特徴的な頭蓋縫合

 調査を行ったのはドイツにあるユストゥス・リービッヒ大学ギーセンのチーム。調査とは全く無関係な理由で死亡した後、献体に回された猫たちの骨格を対象とし、鼻ぺちゃ短頭種で知られるペルシャと普通の短毛種の間で、頭蓋縫合にどのような違いがあるのかを比較しました。
頭蓋縫合
立体パズルのような構造をしている頭蓋骨のつなぎ目のこと。場所によって矢状縫合、冠状縫合、前頭縫合、人字縫合などと命名されている。 猫の頭蓋骨のCTスキャン画像~前方から見た図 猫の頭蓋骨のCTスキャン画像~上方(頭頂)から見た図 猫の頭蓋骨のCTスキャン画像~後方から見た図
 調査対象となったのは短毛種45体(1日齢~240ヶ月齢/平均64ヶ月齢)とペルシャ42体(5~235ヶ月齢/平均75.3ヶ月齢)。ペルシャのうち伝統的なドールタイプが12体、極端な短頭を特徴とするピークタイプが30体という内訳です。すべての標本をCTスキャンすると同時に、短毛種12体、ピーク4体、ドール4体の頭蓋縫合を組織学的に調査しました。 極端に鼻ぺちゃな「ピークフェイス」ペルシャ 鼻ぺちゃの度合いがそれほど強くない「ドールフェイス」ペルシャ  計測の結果、ピークタイプでは冠状縫合が0~0.3ヶ月齢というかなり早い段階で癒合が完了していることが明らかになったといいます。それに対しドールタイプや普通の短毛種では、一部の高齢猫を除いて癒合が見られなかったそうです。
 こうした発見から調査チームは、冠状縫合の早期癒合によって骨の正常な成長が妨げられた結果、ピークタイプの極端な短頭が作り出されるのではないかと推測しています。
Closure times of neurocranial sutures and synchondroses in Persian compared to Domestic Shorthair cats.
Schmidt, M.J., Farke, D., Staszyk, C. et al. Sci Rep 12, 573 (2022). https://doi.org/10.1038/s41598-022-04783-1

鼻ぺちゃ短頭の繁殖は虐待

 調査チームは極端な短頭を選択繁殖することは動物保護法に明白に違反していると、かなり強い口調で明言しています。その理由は以下です。

頭蓋骨の早期癒合は病気

 調査チームが言及した頭蓋骨の早期癒合とは、人間や犬において確認されている骨格系疾患の一種「頭蓋縫合早期癒合症」のことで、頭や顔面の変形を主症状としています。例えば人医学で明らかになっている特徴は以下です。
頭蓋縫合早期癒合症の主症状
  • 後頭部の盛り上がり
  • 額の突出
  • 目の間隔が広い
  • 眼球突出
  • 上顎形成不全
  • 下顎突出
頭蓋縫合早期癒合症のタイプと外見一覧  最後の「短頭」などはペルシャの外見的な特徴とかなり似通っていることがおわかり頂けるでしょう。猫では確認されていないものの、人医学では指趾癒合、頚椎癒合、足根骨癒合、心血管系疾患、口蓋裂、短指症、黒色表皮腫、色素過剰沈着、聴覚障害を併発することが多いとされます。

早期癒合とペルシャの短頭種

 そもそも頭蓋骨はガチガチに固まっているわけではなく、縫合部に存在する靭帯結合 が遊びとなって意外と柔軟な構造をしています。しかし頭蓋底の軟骨結合に関し、短毛種では18~29ヶ月齢で骨化するのに対しペルシャではドールでもピークでも12~14ヶ月齢というかなり早い段階で骨化するとされています。この早期癒合が頭蓋骨の長軸方向への成長を妨げることで、品種特有の短頭種が形成されると考えられています。 猫の頭蓋骨を下面から見た「頭蓋底」の図  さらにピークタイプでは冠状縫合の早期癒合も確認されましたので、骨化していない部分に代償性拡大が起こるのは必然です。猫においては生後6ヶ月になるまで脳が発育を続けるのに、生後10日くらいで頭蓋骨が柔軟性を失えば、頭蓋内圧が高まって額が盛り上がってデコッパチになったり、後頭部が不自然なほどドーム状を呈するようになります。
 その証拠に、ピークタイプの矢状縫合、人字縫合でウォルム骨で発見されました。これは機械的なストレスによってできる独立的な骨化中心ですので、頭蓋骨全体に異常な方向から圧力が加わっていることがうかがえます。 ピークフェイスのペルシャ猫で見られる冠状縫合の早期癒合と頭蓋内の異常圧力を示唆するウォルム骨

短頭種は虐待繁殖の産物

 調査チームは「極端な短頭を選択繁殖することは動物保護法に明白に違反している」とかなり強い口調で明言しています。疾患を抱えた個体をわざわざ増やしているのですから当然といえば当然です。
 日本でも「動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針」が策定され、遺伝性疾患(骨軟骨異形成)を抱えた猫種としてスコティッシュフォールドが明記されたことは記憶に新しいところです。一方、当たり前のように受け入れられているペルシャエキゾチックショートヘアといった極端な短頭種もまた、遺伝疾患を固定された虐待繁殖の犠牲動物であるという事実は特筆に値するでしょう。実際、短頭という形態的な特徴が鼻腔狭窄(短頭種気道症候群)だけでなく歯並びの悪化、眼球の疾患、水頭症を引き起こしていることが確認されています。 ペルシャ猫の鼻ぺちゃ(短頭)が水頭症の原因になっている可能性あり 猫が鼻ぺちゃであるほど呼吸に難があることが判明 短頭種の鼻ぺちゃ猫は下顎が寸詰まりになって歯並びが悪くなる
深く考えず「鼻ぺちゃかわいい」と言っている方は、これを機にぜひ品種の背景を知ってください。