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飼い主は病気のサインが現れる猫のおしっこを見過ごしている

 猫の排尿行動を飼い主に観察してもらったところ、全体の半数以上を見逃しているという可能性が浮かび上がってきました(2017.3.30/アメリカ)。

詳細

 調査を行ったのは、アメリカ・ミシガン州立大学獣医学センターのチーム。飼い主による目視確認と行動解析プログラムを備えたビデオ録画システムの精度を比較するため、健康な猫と泌尿器系の疾患を抱えた猫を対象とした排尿(おしっこ)観察実験を行いました。対象として選ばれたのは、臨床上健康な猫11頭(オス猫7頭/全頭不妊手術済み)と、排尿行動に影響を及ぼすような疾患(特発性膀胱炎慢性腎不全無症候性細菌尿)を抱えている猫8頭(オス猫3頭/全頭不妊手術済み)。合計14日間の排尿行動を、以下に述べるような項目に細分して記録していったところ、飼い主によるアナログ観察結果とビデオ録画によるデジタル観察結果との間に、ところどころ格差が見られたと言います。
猫の排尿観察実験
  • 排尿頻度【ビデオ】
    全体の99%に相当する623回の排尿を検知。1日の平均排尿回数は2.5 ± 0.7。健康な猫の1日の排尿頻度(2.1回)よりも患猫の排尿頻度(2.9回)の方が高い。トイレ外での粗相は検知できない。
    【飼い主】
    全体の27%にあたる169回の排尿を検知。1日の平均排尿回数は0.6 ± 0.6。健康な猫の1日の排尿頻度(0.7回)と患猫の排尿頻度(0.5回)の間に違いは見られない。トイレ外での粗相9回を全て検知。ビデオ録画に比べて飼い主の目視確認は猫のおしっこカウント数が六分の一程度に低下する
  • 排尿前の掘り返し時間排尿の前には見られず排便(うんち)の前にだけ観察されたためノーカウント。
  • 排尿時間【ビデオ】
    健康な猫が12.7秒、患猫が11.4秒。
    【飼い主】
    いずれも5秒未満で、両グループの間に違いは見られなかった。
  • 排尿後の砂かけ時間【ビデオ】
    健康な猫が22.7秒、患猫が8.7秒で、前者のほうが顕著に長い。
    【飼い主】
    いずれも30秒未満で、両グループに違いは見られなかった。
  • 排尿中の発声頻度【ビデオ】
    検知できず。
    【飼い主】
    患猫8頭中3頭は排尿に伴う発声を10回行い、それらすべては飼い主が検知した。
  • 排尿中のいきみ頻度ビデオも飼い主もいきみ(排尿痛)を検知しなかった。
  • 血尿の頻度ビデオも飼い主も血尿を検知しなかった。
 こうした結果から調査チームは、ビデオ録画システムは飼い主による目視確認よりも、猫の排尿回数をカウントする有効なデバイスになりうるとの結論に至りました。ただし猫が排尿中に見せる異常行動(粗相・発声)を検知する能力はアナログ手法に劣っているため、両方をうまく組み合わせた方が病気の早期発見につながるだろうとしています。
Quantification of Urine Elimination Behaviors in Cats with a Video Recording System
R. Dulaney, D., Hopfensperger, M., Malinowski, R., Hauptman, J. and Kruger, J.M. (2017), J Vet Intern Med. doi:10.1111/jvim.14680

解説

 猫の飼い主が日常的に目にする排尿行動(おしっこ)ですが、意外なことに家庭内における排尿頻度の標準値というものが存在していません。また各種の泌尿器系疾患を抱えた猫における排尿頻度の標準値というものもありません。ドライフードによってケージ内で飼育されている猫を対象とした調査では、1日の排尿回数が2.66~2.69回だったと報告されています。別の調査では、食事内容が統一されていないケージ内飼育の猫における1日の排尿回数が2.4~3.0回だったと報告されています。今回の調査では、ビデオ録画のデータを元にした場合、健康な猫の排尿回数が1日2.1(±0.7)と算出されました。こうした調査間で見られる微妙な格差には、飼育環境の違い、食事内容、水分摂取量などが影響を及ぼしているものと推測されます。 猫の標準的なおしっこの頻度に関してはよくわかっていない  自分が飼っている猫の標準的なおしっこの回数に関しては、他の猫のデータから導き出された推定上の標準値(2.1~3.0回/日)よりも、猫自身の過去の実績を元にした相対値を用いたほうが現実的でしょう。例えば、日々のおしっこの回数をカウントしておき、1ヶ月単位で平均値を出しておくなどです。半年前と比べて平均回数が1回以上も上下動しているような場合は、何らかの泌尿器系疾患にかかっているとすぐに気づくことができます。
 ただし今回の調査で明らかになったように、飼い主による目視カウントは結構いい加減です。カウント値と実測値との間に格差が生まれてしまう理由は、「直接観察する機会を逃す」、「トイレが複数ある」、「世話人が複数いる」、「トイレが目の届かない遠くにある」、「カバー付きのトイレを使っている」、「猫が飼い主の目を避けておしっこをする」、「飼い主が寝ている夜間におしっこをする」、「飼い主が記録を忘れてしまう」などだと考えられます。こうした理由による見逃がしをなるべく減らすため、おしっこを吸収して固まるタイプの猫砂を用いた方がよいでしょう。最中の姿は確認できなくても、おしっこをしたという事実が証拠として残りますので、少なくとも回数くらいはカウントできます。 猫の採尿と尿検査 猫の泌尿器の病気