トップ猫の健康と病気抜爪術の真実抜爪術に関する法律

抜爪術に関する世界各国の法律~虐待として禁止する流れあり

 ヨーロッパ、カナダ、アメリカでは、抜爪術を動物虐待として法的に禁止する地域が増えつつあります。そしてこの流れは、遅かれ早かれ日本にもやってくるものと推測されます。

海外における抜爪術

 ヨーロッパでは「ペット動物の保護に関する欧州協定」(The European Convention for the Protection of Pet Animals)によって犬に対する断尾や断耳、および猫に対する抜爪といった慣習の廃絶が推奨されており、この協定を批准した国の多くでは抜爪術が法的に禁止されています(→出典
 アメリカでは抜爪術が30億ドル近いビッグビジネスに成長しており、圧力団体が数多く存在していることから、全国一律で禁止するまでには至っていません。その結果、「若いうちに行ったほうが苦痛が小さい」といった理屈を建前に、去勢や避妊手術とパッケージにして割安で抜爪術を宣伝している動物病院すらあります。一方、獣医師によるこうした好き勝手な商売の仕方に対し、「条例」という一回り小さい形で抜爪術を禁じるところが少しずつ増えてきました。例えば以下です(→出典
抜爪術禁止・地方条例
  • 2002年カリフォルニア州・ ウエストハリウッド市
  • 2009年カリフォルニア州7都市=ロサンゼルス、サンフランシスコ、バーバンク、サンタモニカ、バークリィ、ビバリーヒルズ、カールバーシティー
  • 2014年ロードアイランド州・家主が賃貸契約者に対し、犬の声帯切除や猫の抜爪術を強制することはできない
 現在進行形の例としては、マンハッタン議会議員リンダ・ローゼンタール氏が中心となり、ニューヨーク州内全域における抜爪術の一律禁止を実現しようと動いています(→出典。またニュージャージー州でも、トロイ・シングルトン議員が抜爪術を動物虐待の中に組み入れる法案を提出し、議会を通過しています(→出典。いずれにしても法案が成立した暁には、全米では初となる抜爪術禁止「州法」が成立することになります。
 カナダでもアメリカ同様、抜爪術を禁ずる法律は存在していません。その代わりカナダ獣医療協会(CVMA)が2017年3月16日、これまでの「あらゆる代替手段を試してもうまくいかなかった場合は抜爪術も致し方ない」としていたスタンスを改め、「医療的な目的を持たない抜爪術は倫理的に一切容認できない」とする立場を打ち出しました(→出典。主な理由は「不必要で取り返しのつかない苦痛を猫に与える危険性がある」、「長期的な影響について実証した調査報告は無い」、「そもそも猫にとって爪をとぐという行為は普通のこと」などです。協会は加入している7,000以上のメンバーにこのポリシーを送り付け、手術を行う代わりに代替案を提案するよう強く呼びかけています(→出典。2018年3月、ノバスコシア州において医療的な目的を持たない抜爪術が一律で禁止されました。カナダでは初となる州全域に及ぶ大規模な規制です。その後2019年5月までの間に、同様の法律を制定した州の数は6つに増えました。
 全体的な流れとして言えることは、今後抜爪術を動物虐待とみなす国や地域が増えることはあっても減ることはないということです。こうした流れは遅かれ早かれ日本にも導入され、「抜爪術=虐待」という認識が強まっていくものと推測されます。2015年、アメリカ獣医療基金が主催した獣医師コンテストに参加していた候補者が、抜爪術をケースバイケースで容認していたとしてネット上で激しい非難を浴び、結局コンテスト自体が中止に追い込まれるという出来事がありました。これは今後の流れを象徴する出来事と言えるでしょう(→出典

日本における抜爪術

 日本国内においては現在、抜爪術を禁ずる法律も条例も存在していません
 全国に適用される法律というレベルでは「動物の愛護及び管理に関する法律 」(通称:動物愛護法)が制定されています。例えば以下は動物愛護法の基本原則(第2条)からの引用です。
 動物が命あるものであることにかんがみ、何人(なんぴと)も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、 人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない。
 このように、漠然と「動物を傷つけてはいけない」としているものの、明示的に抜爪を禁止する条文はどこにも見当たりません。よって、抜爪術を行うかどうかは、「小動物医療の指針・第11項」にのっとり、最終的に担当獣医師と飼い主の判断に任されます(→出典。下記文章中「爪除去術」が抜爪術のことです。
 飼育者の都合等で行われる断尾・断耳等の美容整形、あるいは声帯除去術、爪除去術は動物愛護・福祉の観点から好ましいことではない。したがって、獣医師が飼育者から断尾・断耳等の実施を求められた場合には、動物愛護・福祉上の問題を含め、その適否について飼育者と十分に協議し、安易に行わないことが望ましい。しかし、最終的にそれを実施するか否かは、飼育者と動物の置かれた立場を十分に勘案して判断しなければならない。
 要するに、飼い主が最終的に「やります!」と判断し、獣医師がその施術の正当性に合意すれば、それを禁止する法もルールもないということです。ただし「適否について飼育者と十分に協議」することが前提条件となります。
 この「適否について飼育者と十分に協議」という条件と、日本獣医師会の「獣医師の誓い-95年宣言」が掲げる「獣医学の最新の知識の吸収と技術の研鑽、普及に励み、関連科学との交流を推進する」という目標を合わせて考えてみましょう(→出典。すると、抜爪術を行おうとする獣医師は最新の知識を飼養者に提供し、施術の適否を協議しなければならないとなります。
 さて、参考文献・出典一覧でも示したように、当サイト内のコンテンツは1980年代から現在に至るまでのあらゆる資料を網羅した最新の内容になっています。果たして抜爪術を担当する獣医師は、臨床の現場で当サイトと同程度の情報を飼い主に提供してくれるのでしょうか?少なくともネット上では、メリット、デメリット、代替法についてしっかりと説明している動物病院のサイトを見つけることはできませんでした。
 もし臨床の現場でも、おざなりな問診だけで十分な情報提供を行わず、抜爪術が指先を切断する手術であるという事実すら明言しないような場合は、「動物愛護・福祉上の問題」を気にかけているとは言えませんし、「獣医学の最新の知識を飼養者に提供」しているとも到底言えません。私だったら、自分の子供とも言える猫をこのような獣医師に預けたりはしないでしょう。
「どうせ知らないだろう」とたかをくくり、抜爪術を勧めてくる獣医師がいます。一度やってしまうと取り返しが付きませんので、くれぐれも引っかからないようご注意ください。