トップ猫の文化猫の浮世絵美術館国芳以外の浮世絵師浅草田甫酉の町詣

浅草田甫酉の町詣

 猫の登場する江戸時代の浮世絵作品のうち、浅草田甫酉の町詣について写真付きで解説します。

作品の基本情報

  • 作品名浅草田甫酉の町詣
  • 制作年代1857年(江戸・安政4)
  • 作者歌川広重
  • 板元魚屋栄吉
浅草田甫酉の町詣のサムネイル写真

作品解説

 「浅草田甫酉の町詣」(あさくさたんぼとりのまちもうで)は、「名所江戸百景」(めいしょえどひゃっけい)というシリーズの中の一枚で、作者は歌川広重(うたがわひろしげ)です。窓辺にたたずむ一匹の猫の遠景には、たそがれ時の富士山が描かれ、近景には浅草吉原田圃(あさくさよしわらたんぼ)と呼ばれる、現在の台東区の後方近辺にあった水田地帯が広がっています。
熊手らしき物  田んぼの近くには、よく見ると鷲大明神社(おおとりだいみょうじんじゃ)へ参る人々の列が描かれています。当時、浅草にあった鷲大明神社は、毎年11月の酉の日に行われる例祭・「酉の市」が最も盛大に行われる場所として有名でした。また、縁起物である熊手御守(写真下・歌川豊国の「十二月ノ内 霜月酉のまち」参照)は開運・商売繁盛のお守りとして「酉の市」のみに売られる特別なものだったとか。田んぼの中の行列は、その熊手らしきものを担いでいる姿も見られ(右図)、室内の畳においてある女性のかんざしも、さりげなく熊手がデザインに取り入れられています。
 眼前に広がる浅草吉原田圃と、左端に見える屏風やかんざしから、ここが吉原遊郭の二階であることが連想されます。猫が首紐を付けていないことから考えると、遊女にかわいがられている野良猫なのでしょうか。自分の後ろにいるであろう男女のことなど眼中になく、美しい夕日を眺めながら泰然とまどろむ猫の姿は、さながら聖人君子(せいじんくんし)のようでもあります。