歯根吸収病変の疫学
調査を行ったのはフィンランドにあるヘルシンキ大学獣医生命科学部のチーム。国内在住の猫の飼い主を対象としたオンラインのアンケートを行い、猫の好発口腔疾患である「歯根吸収病変」の疫学調査を行いました。
944頭を病変ありとなしとに分けたときの平均年齢は、前者が9.8歳に対し後者が8.6歳、有病率は加齢と共に増加する傾向が認められました。「OR」(オッズ比)は標準の起こりやすさを「1」としたときどの程度起こりやすいかを相対的に示したものです。数字が1よりも小さければリスクが小さいことを、逆に大きければリスクが大きいことを意味しています。
K. Vapalahti, H. Neittaanmaki et al., The Veterinary Journal(2024) Volume 305, DOI:10.1016/j.tvjl.2024.106133
患猫の条件を「鎮静下で口内もしくは歯牙の検査・手術を受けた猫」に絞ったところ、全8115頭中の35品種944頭が該当し、そのうち21.4%に相当する202頭が歯根吸収病変の診断を受けたことが明らかになりました。944頭を病変ありとなしとに分けたときの平均年齢は、前者が9.8歳に対し後者が8.6歳、有病率は加齢と共に増加する傾向が認められました。「OR」(オッズ比)は標準の起こりやすさを「1」としたときどの程度起こりやすいかを相対的に示したものです。数字が1よりも小さければリスクが小さいことを、逆に大きければリスクが大きいことを意味しています。
- 7歳未満:14.7%
- 7~11歳未満:25.9%(OR2.25)
- 11歳以上:25.3%(OR2.51)
歯根吸収品種別リスク
- コーニッシュレックス(45.1%)=OR2.44
- ヨーロピアン (37.5%)=OR2.98
- ラグドール(35.1%)=OR2.90
- ペルシャ・エキゾチック(10.9%)=OR0.28
K. Vapalahti, H. Neittaanmaki et al., The Veterinary Journal(2024) Volume 305, DOI:10.1016/j.tvjl.2024.106133
歯根吸収病変の危険因子
疾患の予測変数としての重要度(変数が予測にどの程度貢献したかを測る指標)は大きい順に以下のようになりました。
- 品種=45.5
- 歯石=16.9
- 歯肉炎=9.5
- 年齢層=9.5
- 歯周炎=6.2
- 給餌スタイル=6.2
危険因子:品種
予測変数として最も重要(45.5ポイント)だったのが「品種」で、具体的にはハイリスク品種がコーニッシュレックス(OR2.44)、ヨーロピアン(OR2.98)、ラグドール(OR2.90)で、ローリスク品種がペルシャ・エキゾチック(OR0.28)でした。
最後のペルシャ・エキゾチックに関しては先行調査でハイリスク品種と報告されていますが、当調査では逆の結果となりました。歯根吸収の発生メカニズムが多因子的であるため、ただ単に品種だけでなくそこに何らかの調整因子が加わることでリスクが変動するのかもしれません。調査間の齟齬に関しチームはさらなる補強調査が必要であると言及しています。
最後のペルシャ・エキゾチックに関しては先行調査でハイリスク品種と報告されていますが、当調査では逆の結果となりました。歯根吸収の発生メカニズムが多因子的であるため、ただ単に品種だけでなくそこに何らかの調整因子が加わることでリスクが変動するのかもしれません。調査間の齟齬に関しチームはさらなる補強調査が必要であると言及しています。
危険因子:歯石
予測変数として二番目に重要(16.9ポイント)だったのが歯石で、歯石の有無によって疾患のリスクが以下のように変動しました。歯肉炎や歯周炎があっても歯石さえなければ、少なくともORが上昇しないことが見て取れます。
歯肉炎にしても歯周炎にしても、歯石が共存するときに発症リスクが高まるようですので、現時点では「歯石が付かないようにする」ことが吸収病変予防の正攻法になるでしょう。
- 歯肉炎+歯石あり→OR2.49
- 歯肉炎+歯石なし→OR0.35
- 歯周炎+歯石あり→OR3.70
- 歯周炎+歯石なし→OR0.33
歯肉炎にしても歯周炎にしても、歯石が共存するときに発症リスクが高まるようですので、現時点では「歯石が付かないようにする」ことが吸収病変予防の正攻法になるでしょう。
危険因子:給餌スタイル
フードを定時に与えるより常時出しているときの方がリスクが減少するという現象が確認されました。興味深いのはこれが「メス限定(OR0.44)」という点です。
過去の調査ではドライフードが機械的ストレスを与えタイプ2(特発性)の歯根吸収を引き起こすこと、またウェットフードの口内残滓が炎症の原因となりタイプ1(炎症性)の歯根吸収を引き起こすことが示唆されています。
自由摂食という給餌スタイルと性別(メス)の奇妙な相関に関しては調査チームも原因を特定することができませんでした。
過去の調査ではドライフードが機械的ストレスを与えタイプ2(特発性)の歯根吸収を引き起こすこと、またウェットフードの口内残滓が炎症の原因となりタイプ1(炎症性)の歯根吸収を引き起こすことが示唆されています。
自由摂食という給餌スタイルと性別(メス)の奇妙な相関に関しては調査チームも原因を特定することができませんでした。
猫にとって決して害にならない対策は「歯石予防」です。特に7歳以降は定期的な口内チェックと歯磨きを習慣化しておきましょう。