水の温度と猫の飲水量変化
調査を行ったのはトルコにあるIstanbul University-Cerrahpaca獣医学部のチーム。水の温度が猫の飲水量に及ぼす変化を検証するため、8頭の成猫を対象とした実験を行いました。
調査対象
調査に参加したのは獣医学部の学生に飼われている臨床上健康で室内飼育されている8頭の成猫たち。具体的な基本属性はオス3+メス5頭、平均3歳(1~5歳)、平均4.9kg(2.9~8.5kg)、平均BCS5.4(9段階中)というものです。
調査期間中の食事はドライフード 自由摂食に統一され、飲み水の温度だけが調整されました。また猫へのストレスに配慮し、観察場所はいつも暮らしている家の室内とされました。
調査期間中の食事はドライフード 自由摂食に統一され、飲み水の温度だけが調整されました。また猫へのストレスに配慮し、観察場所はいつも暮らしている家の室内とされました。
調査方法
飲水量は1日の決められた時刻に、容器に入った水(500 mLの水)がどの程度減ったかを計測することで逆算されました。自然蒸発量は計算外ですので、純粋な飲水量は目減りした量よりわずかに少なくなります。
1週目は室温(24℃くらい)、2週目は氷(アイスキューブ)を1日3回、4個ずつ容器に入れることで水温調整が行われました。氷を入れたときの水温変化は以下で、入れた直後に15℃近くまで下がった後、数時間かけて室温に戻っていきます。
1週目は室温(24℃くらい)、2週目は氷(アイスキューブ)を1日3回、4個ずつ容器に入れることで水温調整が行われました。氷を入れたときの水温変化は以下で、入れた直後に15℃近くまで下がった後、数時間かけて室温に戻っていきます。
調査結果
1週目と2週目における猫たちの飲水量を比較したところ、8頭中4頭では統計的に有意なレベルの増加が認められたといいます。残りの4頭に関しては統計的に非有意だったものの、飲水量が減少した個体は1頭もいませんでした。具体的な変化量をグラフ化したものは以下です。「*」(アスタリスク)は統計的に有意な変化を示しています。
Journal of Istanbul Veterinary Sciences(2023), Zeynep Aruc Tatliagiz, Ibrahim Akyazi, DOI:10.30704/http-www-jivs-net.1278513
水温による飲水量変化(mL/日)
- 1:113.3→ 113.4
- 2:8.6→ 91.3
- 3*:99.7→ 187.9
- 4*:478.6→ 575.6
- 5*:80.4→ 170.6
- 6:104.6→ 149.9
- 7*:101.7→ 243.0
- 8:78.3→ 100.1
- 全体平均:133.2 → 204.0
Journal of Istanbul Veterinary Sciences(2023), Zeynep Aruc Tatliagiz, Ibrahim Akyazi, DOI:10.30704/http-www-jivs-net.1278513
猫は冷たい水がお好き?
水の温度が飲水量に影響を及ぼす実例としてはニワトリが顕著です。ニワトリは自分の体温より温かい水を飲むくらいなら何も飲まないことを選び、季節にかかわらず冷たい水を好むとのこと。
溶存酸素仮説
今回の調査により、猫もニワトリと同じように低温の水を自発選好する可能性が示されましたが、いったいどういう理屈なのでしょうか?
一つの仮説としては「溶存酸素(dissolved oxygen:DO)」というものがあります。これは水中に溶けている酸素量のことで、水温が低く圧力が大きいほど多くなり、一般的に溶存酸素量が高くなるほど水質は良好とされています。水の温度が低ければ溶存酸素量増えますので、ベロが敏感な猫からすると「おいしい!」と感じるのかもしれません。人間が人肌にぬくまった水よりキンキンに冷えた水の方をおいしいと感じる理由もここにあるのでしょうか。
一つの仮説としては「溶存酸素(dissolved oxygen:DO)」というものがあります。これは水中に溶けている酸素量のことで、水温が低く圧力が大きいほど多くなり、一般的に溶存酸素量が高くなるほど水質は良好とされています。水の温度が低ければ溶存酸素量増えますので、ベロが敏感な猫からすると「おいしい!」と感じるのかもしれません。人間が人肌にぬくまった水よりキンキンに冷えた水の方をおいしいと感じる理由もここにあるのでしょうか。
試してみる価値はある
当調査に参加した猫は8頭と少なく、また実験時の外気温も記載されていませんので、まだまだ偶発的な要因による見かけ上の結論である可能性は否めません。例えば実験2週目に真夏日が当たった場合、自然蒸発量や飲水量にも当然影響を及ぼすでしょう。
とは言え「氷を1日3回くらい入れる」という簡単な手加減で猫の飲み水がおいしくなり、尿路結石や腎不全の発症リスクが減ってくれるのであれば実践してみたいところです。注意点は「冷たいものを胃に入れると消化不良から下痢になる」ということですが、これは人医学における知見をそのまま猫に当てはめただけの逸話であり、調べた限り水の温度と消化器系の不調を因果関係として実証した調査報告は見当たりませんでした。 ですから猫がなかなか水を飲んでくれずに悩んでいる方は「氷入りの水」を試してみる価値くらいはあるのではないででしょうか。なお、お腹を壊す以外では、ベロのくっつき事故にもご注意ください。
とは言え「氷を1日3回くらい入れる」という簡単な手加減で猫の飲み水がおいしくなり、尿路結石や腎不全の発症リスクが減ってくれるのであれば実践してみたいところです。注意点は「冷たいものを胃に入れると消化不良から下痢になる」ということですが、これは人医学における知見をそのまま猫に当てはめただけの逸話であり、調べた限り水の温度と消化器系の不調を因果関係として実証した調査報告は見当たりませんでした。 ですから猫がなかなか水を飲んでくれずに悩んでいる方は「氷入りの水」を試してみる価値くらいはあるのではないででしょうか。なお、お腹を壊す以外では、ベロのくっつき事故にもご注意ください。
大なり小なり水は毎日飲むはずですが、温度と飲水量の関係に関する調査が今までほとんどなされてこなかったのは驚きですね。参考までに、飲み水の量に影響を及ぼす因子としては過去に以下のような者が報告されています。