HCM関連遺伝子の保有率
調査を行ったのはアニコム損保の関連ラボである「アニコムパフェ」を中心とした日本のチーム。猫の心筋症で大半を占める肥大型心筋症(HCM)と関連が深い遺伝子に着目し、日本国内で暮らしている純血種および非純血種における保有率を調査しました。病気の基本知識は以下のページをご参照ください。
調査対象と方法
調査対象となったのは13品種に属する純血種63頭と非純血種13頭の猫たち。選抜条件は「一般家庭で飼育されている」とだけ記載されており、細かい項目は不明です(ランダム?)。全頭に対して心電図検査、胸部エックス線検査、血圧測定、心エコー検査を行った上で血液、口腔スワブからDNAサンプルを採取し、HCM関連遺伝子の保有率を調査しました。
また比較対照群とし、東京都新宿区内にある動物病院(1院)を受診した猫およびアニコムのラボで遺伝子検査を受けた猫の中から表現型上の心筋異常が認められないマンチカン95頭、スコティッシュフォールド132頭、ミヌエット2頭が選別され、血液、口腔スワブ、不妊手術に際して切除された組織からDNAサンプルを採取し、HCM関連遺伝子の保有率を調べました。
また比較対照群とし、東京都新宿区内にある動物病院(1院)を受診した猫およびアニコムのラボで遺伝子検査を受けた猫の中から表現型上の心筋異常が認められないマンチカン95頭、スコティッシュフォールド132頭、ミヌエット2頭が選別され、血液、口腔スワブ、不妊手術に際して切除された組織からDNAサンプルを採取し、HCM関連遺伝子の保有率を調べました。
調査結果
HCMを含む76頭
76頭に対して身体検査を行った結果、4品種に属する11頭と非純血種8頭が無病、13品種に属する52頭と非純血種の5頭が肥大型心筋症(心エコー検査で左室6mm以上肥大)と診断されました。
患猫群
- MYBPC3 p.A31Pヘテロ型1頭/マンチカン(1/4)
※病期はステージB1だったが左室流出路閉塞は見られなかった - ALMS1 p.G3376Rヘテロ型9頭/スコティッシュフォールド(7/18)+エキゾチック(1/3)+スフィンクス(1/1)
※病期はステージB1が7頭、ステージB2が1頭、ステージCが1頭という内訳で、うち4頭では左室流出路閉塞が確認された
無病群
- MYBPC3 p.A31Pヘテロ型1頭/スコティッシュフォールド(1/1)
- ALMS1 p.G3376Rヘテロ型2頭/アメリカンショートヘア(2/3)
HCMがない229頭
少なくともHCMの徴候が見られない229頭を対象とした遺伝子調査では以下のような保有率が確認されました。
Akiyama N, Suzuki R, Saito T, Yuchi Y, Ukawa H, Matsumoto Y (2023). PLoS ONE 18(4): e0283433, DOI:10.1371/journal.pone.0283433
- MYBPC3 p.A31Pヘテロ型6頭/マンチカン(2/95)+スコティッシュフォールド(4/132)
- ALMS1 p.G3376Rホモ型1頭/スコティッシュフォールド(1/132)
ヘテロ型22頭/スコティッシュフォールド(22/132)
Akiyama N, Suzuki R, Saito T, Yuchi Y, Ukawa H, Matsumoto Y (2023). PLoS ONE 18(4): e0283433, DOI:10.1371/journal.pone.0283433
疾患遺伝子の越境遺伝
これまで品種固有と考えられてきた肥大型心筋症(HCM)の関連疾患遺伝子が、従来の固定品種以外でも認められました。この事実は品種間において疾患が「越境遺伝」してしまう危険性を強く示唆しています。
病気との因果関係は不明
MYBPC3 p.A31PはメインクーンのHCMを引き起こす関連遺伝子とされていますが、無病群に属するスコティッシュフォールド132頭中4頭がヘテロ型で保有していました。逆に有病群に属するメインクーン6頭では保有が確認されませんでした。
またALMS1 p.G3376RはスフィンクスのHCMを引き起こす関連遺伝子とされていますが、無病群に属するスコティッシュフォールドにおいてホモ型1頭+ヘテロ型22頭という高い保有率が確認されました。
さらにHCMと診断された57頭中47頭は関連遺伝子をどれも保有していなかったこと、および人間では450近い遺伝子がHCMの発症に関連していることから考え、猫におけるHCMの発症には当調査のターゲットとなった5種以外の未知の遺伝子が関わっている可能性が示唆されます。
少なくともMYBPC3とALMS1に関しては、「品種+関連遺伝子」という組み合わせが成立して初めて悪影響を及ぼす可能性が高いと推測されます。
またALMS1 p.G3376RはスフィンクスのHCMを引き起こす関連遺伝子とされていますが、無病群に属するスコティッシュフォールドにおいてホモ型1頭+ヘテロ型22頭という高い保有率が確認されました。
さらにHCMと診断された57頭中47頭は関連遺伝子をどれも保有していなかったこと、および人間では450近い遺伝子がHCMの発症に関連していることから考え、猫におけるHCMの発症には当調査のターゲットとなった5種以外の未知の遺伝子が関わっている可能性が示唆されます。
少なくともMYBPC3とALMS1に関しては、「品種+関連遺伝子」という組み合わせが成立して初めて悪影響を及ぼす可能性が高いと推測されます。
越境遺伝の危険性
MYBPC3 p.A31Pはこれまでメインクーン固有の疾患遺伝子と考えられてきました。しかし当調査内では6頭のメインクーンにおける保有率が0%だったのに対し、なぜかスコティッシュフォールドの保有率が39%という異常とも言える高値を示しました。こうした奇妙な事実の背景にあるのが品種を超えた「越境遺伝」の可能性です。
先例としては、長毛遺伝子をメインクーンから継承したブリティッシュロングヘアーでMYBPC3 p.A31P遺伝子が確認されたというものや、耳折れ遺伝子をスコティッシュフォールドから継承したマンチカンで骨瘤の発症が見られたというものがあります。長毛のスコティッシュフォールドを作出するため、でたらめなブリーダーが病気の知識もろくにないままアウトクロスを行ったのだとすると、当調査の結果にも説明が付きます。 特にスコティッシュフォールドは日本国内における狂信的な人気のあおりを受け、悪徳繁殖屋による虐待交配の犠牲になりやすい品種です。マンチカンの事例が示すように疾患遺伝子(耳折れ骨瘤遺伝子)を他の品種にばらまいたり、当調査が示すように他の品種から疾患遺伝子(HCM関連遺伝子)をもらい受けてしまうという悲惨な図式がどうしても見えてしまいます。
先例としては、長毛遺伝子をメインクーンから継承したブリティッシュロングヘアーでMYBPC3 p.A31P遺伝子が確認されたというものや、耳折れ遺伝子をスコティッシュフォールドから継承したマンチカンで骨瘤の発症が見られたというものがあります。長毛のスコティッシュフォールドを作出するため、でたらめなブリーダーが病気の知識もろくにないままアウトクロスを行ったのだとすると、当調査の結果にも説明が付きます。 特にスコティッシュフォールドは日本国内における狂信的な人気のあおりを受け、悪徳繁殖屋による虐待交配の犠牲になりやすい品種です。マンチカンの事例が示すように疾患遺伝子(耳折れ骨瘤遺伝子)を他の品種にばらまいたり、当調査が示すように他の品種から疾患遺伝子(HCM関連遺伝子)をもらい受けてしまうという悲惨な図式がどうしても見えてしまいます。
スコがALMS1遺伝子を高確率で保有していた理由としては、スフィンクスとの交配や自然変異などが考えられますが、少し無理があります。理由はともかく、HCM関連遺伝子の品種越境遺伝は高度モニタリング対象です。