猫の口腔疾患と痛みの関係
調査を行ったのはポルトガルにあるルゾフォナ大学獣医学部を中心としたチーム。動物病院で猫の口内チェックをしている時に見られるペインスコア(痛みの指標)が、病気の重症度と連動しているかどうかを確かめるため、2015年8月から2016年1月までの期間中、リスボンにある猫専門病院を受診した患猫を対象とした前向き調査を行いました。
観察対象となったのは何らかの口腔疾患を抱えた合計53頭の猫たち。メス27頭+オス26、4ヶ月齢~16歳で平均6.4歳という内訳です。ペインスコアとしてはアメリカのコロラド州立大学が開発した「CPS」という指標が採用されました。
Isabel Palmeira, Maria Joao Fonseca, et al., Journal of Veterinary Dentistry(2022), DOI:10.1177/08987564221103142
猫たちのリアクションを客観的な数値に置き換え、口腔内の病状を「第1口腔パラメータ」と「第2口腔パラメータ」という切り口で評価していったところ、ある特定の項目と痛みの度合いとの間に統計的に有意な連動が見られたといいます。具体的には以下の「❗」印のついた項目です。
第1口腔パラメータ
- 歯周病
- 歯肉インデクス
- 歯石インデクス
- 歯根吸収
- 歯牙破折
- 歯牙欠失❗
第2口腔パラメータ
- 口腔内の不快感❗
- 口臭❗
- 流涎❗
- 食物の捕捉困難❗
- 食物の保持困難❗
Isabel Palmeira, Maria Joao Fonseca, et al., Journal of Veterinary Dentistry(2022), DOI:10.1177/08987564221103142
口の痛みは摂食行動に出る
加齢と歯周病、歯の欠失、口内不快感、口臭、流涎、食物保持困難、食物捕捉困難との間に統計的な連動が確認されました。平たく言うと「年を取れば取るほど口の中がぐちゃぐちゃになっていく」ということです。
第1口腔パラメータと痛み
第1口腔パラメータの中では唯一「歯の欠失数」が痛みの度合いと連動していました。歯が抜け落ちた状態は歯周病や歯根吸収の末期を示すとされています。ですから歯抜け状態そのものより、歯抜けを引き起こした根本的な疾患が痛みの原因になっている可能性も十分にあります。
なお痛みとの連動は確認されませんでしたが、歯肉インデクスとフードタイプとの間に関連性が認められました。具体的にはウエットフードを1としたとき、ドライのORが0.067、ドライとウエットミックスのORが0.022という極端なものです(リスクが下がる)。ウエットばかり食べていると歯肉の病変が進むのかか、それとも歯肉の病変が進んだからウエットに切り替えたのかがはっきりしていませんので、この情報だけから「ウエットフード=悪」と決めつけることは難しいでしょう。
なお痛みとの連動は確認されませんでしたが、歯肉インデクスとフードタイプとの間に関連性が認められました。具体的にはウエットフードを1としたとき、ドライのORが0.067、ドライとウエットミックスのORが0.022という極端なものです(リスクが下がる)。ウエットばかり食べていると歯肉の病変が進むのかか、それとも歯肉の病変が進んだからウエットに切り替えたのかがはっきりしていませんので、この情報だけから「ウエットフード=悪」と決めつけることは難しいでしょう。
第2口腔パラメータと痛み
第2口腔パラメータに関してはすべての項目が痛みの度合いと連動していました。
「口腔内の不快感」はくちゃくちゃと口を鳴らす、前足で口元を執拗に引っ掻く、飼い主が触ろうとすると激しく抵抗するといった行動として現れます。「口臭」はたとえ口を開けていなくても、猫の口元をくんくん嗅いだだけでわかるでしょう。あるいは近くであくびをしたときに悪臭が自然と漂ってきて気づくこともあります。「流涎」はいわゆるよだれのことです。口の端からよだれがたれていたり、普段使っているベッドが唾液でべちょべちょになっていたら流涎が疑われます。「食物の捕捉困難」とはフードを口元に持っていくまで、「食物の保持困難」とは口の中に入れてから嚥下するまでのことです。口の中に痛みがあると、これら両方がスムーズにできないことは口内炎を経験した人ならすぐにわかるでしょう。
「口腔内の不快感」はくちゃくちゃと口を鳴らす、前足で口元を執拗に引っ掻く、飼い主が触ろうとすると激しく抵抗するといった行動として現れます。「口臭」はたとえ口を開けていなくても、猫の口元をくんくん嗅いだだけでわかるでしょう。あるいは近くであくびをしたときに悪臭が自然と漂ってきて気づくこともあります。「流涎」はいわゆるよだれのことです。口の端からよだれがたれていたり、普段使っているベッドが唾液でべちょべちょになっていたら流涎が疑われます。「食物の捕捉困難」とはフードを口元に持っていくまで、「食物の保持困難」とは口の中に入れてから嚥下するまでのことです。口の中に痛みがあると、これら両方がスムーズにできないことは口内炎を経験した人ならすぐにわかるでしょう。
飼い主としてできること
猫の歯には三叉神経から分岐する上顎神経と下顎神経が豊富に分布していますので、人間と同じような歯痛を経験していると考えるのが妥当です。しかし猫は痛みを隠すエキスパートですので、なかなか表には出してくれません。飼い主として注意すべきは痛い仕草を見せないからと言って痛みがないわけではないという認識を持つことでしょう。
歯のチェックをしたり専用のペインスケールで猫が感じている痛みの度合いを客観化することは、一般家庭ではちょっと難しいと思われます。幸い第2口腔パラメータの方は痛みとよく連動していますので、猫の摂食行動をよく観察していればすぐに気づくでしょう。体を押さえつけて無理やり口の中をチェックする代わりに習慣化しておけば、口腔疾患の早期発見と早期治療につながってくれます。
よだれを垂らした猫の姿を写真に撮って笑いものにしている人をよく見ますが、それは痛みのサインです。猫からのSOSにはちゃんと気づいてあげたいものですね。