肛門嚢腺の臭いと排泄行動
実験を行ったのはフランスにある情報分子化学の研究所(IRSEA)。猫の排泄行為に影響を及ぼす因子が何であるかを突き止めるため、猫の肛門嚢腺から分泌された成分を用いたトイレの選好実験を行いました。
実験1
33頭の猫たち(未去勢オス10+未手術メス10+去勢オス5+避妊メス8)を性別、年齢、体重を元に4つのグループに分け、各グループを4つのキャッテリ(猫の居住区画)のいずれかに振り分けて排泄行動を2週間に渡って観察しました。具体的な内訳は以下です。
Animals (2022) 12(7) 896, Naima Kasbaoui, Cecile Bienboire-Frosini, et al., DOI:10.3390/ani12070896
キャッテリの内訳
- キャッテリ1未手術メス10頭/平均2歳4ヶ月/トイレ11個
- キャッテリ2未去勢オス10頭/平均2歳4ヶ月/トイレ11個
- キャッテリ3高齢猫6頭/7歳4ヶ月~14歳3ヶ月/トイレ7個
- キャッテリ4肥満猫7頭/8~13歳/トイレ8個
肛門嚢腺分泌物の影響
- 排泄(尿+便)総重量溶媒のみ:93g>分泌物入り:84g
- 便重量溶媒のみ:25g>分泌物入り:18g
Animals (2022) 12(7) 896, Naima Kasbaoui, Cecile Bienboire-Frosini, et al., DOI:10.3390/ani12070896
実験2
実験室内に2つのトイレを置き、どちらか一方には分泌成分を含んだスプレーを、残ったもう一方には溶媒だけを含んだスプレーを吹きかけ、猫たちの自発的な排泄行動を観察しました。
合計31頭(未去勢オス10+未手術メス10+去勢オス4+避妊メス7)を23時間に渡って観察したところ、分泌物スプレーの有無によって以下のような違いが見られたといいます。
Naima Kasbaoui, Miriam Marcet-Rius et al., Animals 2022, 12(7), 938, DOI:10.3390/ani12070938
肛門嚢腺分泌物の影響
- 排泄(尿+便)重量溶媒のみ:70g>分泌物入り:20g
- 尿重量溶媒のみ:50g>分泌物入り:20g
Naima Kasbaoui, Miriam Marcet-Rius et al., Animals 2022, 12(7), 938, DOI:10.3390/ani12070938
トイレの失敗予防は掃除と換気
実験1と2の結果を平たく言い換えると、肛門嚢の分泌成分を含んだスプレーを猫砂に噴霧した場合、そのトイレが避けられるとなります。
猫は自分以外の排泄物が嫌い
過去に行われた別の実験では、オス猫の尿に含まれる特定成分が排泄行動を阻害することが確認されています。今回の調査結果から考えると肛門嚢腺に含まれる何らかの成分にも同等の効果があるようです。
私たち人間が公衆トイレを利用するとき、前に使った人の排泄物や臭いが残っているとすぐにその場から逃げ出し、別の個室に駆け込みます。猫の嗅覚は人間よりかなり高性能ですので、先客の残り香を嫌う傾向は人間と同等か、もしくはそれ以上に強いのかもしれません。
トイレの失敗を防ぐ方法
せっかく買ったトイレを猫が使ってくれないとか、トイレの外でよく粗相をするという場合、トイレの中に何らかの忌避要因があると考えるのが順当です。
過去の調査結果や今回の調査結果を考えると、特に多頭飼育家庭において猫のトイレの失敗を予防する最善策はおしっこであれうんちであれ出したらすぐに片付けるということになるでしょう。トイレがドーム型の場合、排泄物の揮発成分が中にこもってしまいますので、カバーを取って換気するという配慮も必要かもしれません。
少し面倒くさい気もしますが、カーペットや布団の上で粗相をして交換を余儀なくされるよりは遥かにマシというものです。また古くから言われている「トイレの数は猫の数+1」を実践していると、仮に1つのトイレが臭いによって避けられてももう1つのトイレが安全弁になってくれますので、トイレ事故を防ぐことができます。
過去の調査結果や今回の調査結果を考えると、特に多頭飼育家庭において猫のトイレの失敗を予防する最善策はおしっこであれうんちであれ出したらすぐに片付けるということになるでしょう。トイレがドーム型の場合、排泄物の揮発成分が中にこもってしまいますので、カバーを取って換気するという配慮も必要かもしれません。
少し面倒くさい気もしますが、カーペットや布団の上で粗相をして交換を余儀なくされるよりは遥かにマシというものです。また古くから言われている「トイレの数は猫の数+1」を実践していると、仮に1つのトイレが臭いによって避けられてももう1つのトイレが安全弁になってくれますので、トイレ事故を防ぐことができます。
今回の知見は猫よけへの応用が想定されています。屋外では野良猫による糞尿被害予防、室内では家財道具への排泄予防となるでしょう。