詳細
調査を行ったのは、岩手大学農学部のチーム。オス猫(未去勢)のおしっこから抽出した成分と比較用の成分(クロロフォルム)を実験室内で別の猫に嗅がせた所、匂いを嗅ぐ頻度に関しては明白な違いがなかったものの、滞在時間と匂いを嗅いでいる時間に関しては尿抽出成分の時に顕著に伸びることが確認されたといいます。またフレーメン反応も頻繁に観察されました。
次に調査チームは、尿抽出成分を屋外環境下で使用した場合、実験室内と同じ結果が出るかどうかを検証しました。異なる3つの場所に隠しカメラを用意し、レンズの前方にガラス(抽出成分 or クロロフォルムを塗布)を設けて観察を行った所、「カメラによる猫の撮影数」、「ガラスを嗅いだ回数」、「訪問した猫の個体数」、「1日に複数回訪問した猫の個体数」、「日を変えて複数回訪問した猫の個体数」というすべての項目において「抽出成分」の方が多かったといいます。そしてこの格差は特に「カメラによる猫の撮影数」(10<65)と「ガラスを嗅いだ回数」(0<35)で顕著に見られました。
さらに調査チームは、抽出物の実験で用いた場所では、猫が決しておしっこや糞を残さないという奇妙な現象に着目しました。この現象に普遍性があるのかどうかを確かめるため、かねてから猫の往来が報告されている2つの場所を対象として実験を行った所、アパート(アメリカルイジアナ州/4日間)でも幼稚園の砂場(岩手県盛岡市/2週間)でも、尿抽出物を染み込ませた紙を設置していているときだけ、排便をせずにその場を立ち去ったといいます。 こうした結果から調査チームは、猫のおしっこに含まれるある種の成分は他の猫を惹きつける誘引剤としての機能を持つと同時に、排泄行動を抑止する忌避剤としての機能を併せ持っている可能性を示しました。誘引剤としては絶滅が危惧されるネコ科動物の生態調査に、忌避剤としては野良猫の糞尿被害に困っている人たちの「猫よけ」として役立つのではないかと期待されています。 Potential use of domestic cat (Felis catus) urinary extracts for manipulating the behavior of free-roaming cats and wild small felids
MasaoMiyazaki et al., Applied Animal Behaviour Science, doi.org/10.1016/j.applanim.2017.07.003
さらに調査チームは、抽出物の実験で用いた場所では、猫が決しておしっこや糞を残さないという奇妙な現象に着目しました。この現象に普遍性があるのかどうかを確かめるため、かねてから猫の往来が報告されている2つの場所を対象として実験を行った所、アパート(アメリカルイジアナ州/4日間)でも幼稚園の砂場(岩手県盛岡市/2週間)でも、尿抽出物を染み込ませた紙を設置していているときだけ、排便をせずにその場を立ち去ったといいます。 こうした結果から調査チームは、猫のおしっこに含まれるある種の成分は他の猫を惹きつける誘引剤としての機能を持つと同時に、排泄行動を抑止する忌避剤としての機能を併せ持っている可能性を示しました。誘引剤としては絶滅が危惧されるネコ科動物の生態調査に、忌避剤としては野良猫の糞尿被害に困っている人たちの「猫よけ」として役立つのではないかと期待されています。 Potential use of domestic cat (Felis catus) urinary extracts for manipulating the behavior of free-roaming cats and wild small felids
MasaoMiyazaki et al., Applied Animal Behaviour Science, doi.org/10.1016/j.applanim.2017.07.003
解説
猫のおしっこには他の猫を引き寄せると同時に排泄行為を抑止するという多面作用を有している可能性が示されました。今回の調査では「未去勢のオス猫」の尿が用いられましたが、去勢済みのオス猫や避妊済みのメス猫など、泌尿生殖系ステータスが異なる猫の尿でも同様の効果があるのかどうかは今後の研究で明らかになっていくでしょう。
誘引剤として
今調査ではオス猫のおしっこが持つ誘引剤としての効果を検証するため、同じネコ科に属するボブキャット(Lynx rufus)を対象とした実験も併せて行われました。
その結果、未加工のオス猫の尿、および尿の抽出成分のどちらでも、ボブキャットの匂い嗅ぎ行動とフレーメン反応を引き起こしたといいます。そしてこの反応はオスでもメスでも同じだったとも。
こうした観察結果から調査チームは、ネコ科動物の尿に含まれる固有成分が個体間の嗅覚コミュニケーションに役立っているのではないかと推測しています。具体的な成分としては「3-メルカプト-3-メチルブタノール」(3-meracpto-3-methylbutanol)と「3-メルカプト-3-メチルブチルフォーメート」(3-mercapto-3-methylbutyl formate)が想定されています。 野良猫を一旦捕獲して不妊手術を施した後元の場所にリリースする「TNR活動」では、猫を捕まえるためにしばしばエサやマタタビが用いられます。しかしこうした誘引剤に反応しない場合は、未去勢のオス猫のおしっこを用いてみると、案外うまく捕獲器に入ってくれるかもしれません。
こうした観察結果から調査チームは、ネコ科動物の尿に含まれる固有成分が個体間の嗅覚コミュニケーションに役立っているのではないかと推測しています。具体的な成分としては「3-メルカプト-3-メチルブタノール」(3-meracpto-3-methylbutanol)と「3-メルカプト-3-メチルブチルフォーメート」(3-mercapto-3-methylbutyl formate)が想定されています。 野良猫を一旦捕獲して不妊手術を施した後元の場所にリリースする「TNR活動」では、猫を捕まえるためにしばしばエサやマタタビが用いられます。しかしこうした誘引剤に反応しない場合は、未去勢のオス猫のおしっこを用いてみると、案外うまく捕獲器に入ってくれるかもしれません。
忌避剤として
2017年の調査では、猫が最も好むトイレはおしっこやうんちの痕跡がないまっさらな状態だと報告されています(→詳細)。今回の調査結果と合わせると、他の猫の排泄物はやはり忌避要因になるようです。家の中で飼い猫が粗相をして困っているという方は、トイレの数は頭数+1になっているか、トイレに他の猫の排泄の跡が残っていないかを確認したほうが良いでしょう。もし条件が揃っていない場合、猫がトイレを忌避している原因は単純に他の猫のおしっこ臭であるかもしれません。
一方、おしっこが持つ忌避剤としての性質を応用すれば、屋外環境において「猫の糞尿被害を防ぐために猫の糞尿を用いる」という一見矛盾するような対策が実現する可能性があります。ただし、忌避剤として用いるおしっこが人間にとってあまりにも不快な場合は本末転倒になります。また、例えある特定の場所での排泄を防げても、結局猫は別の場所で排泄をします。ですから野良猫の糞便問題を根本的に解決しているとは言えないでしょう。
現在猫よけとしては、超音波ノイズを発するセンサー式の機械や猫が嫌がるニオイ成分など、主として猫に嫌悪感を抱かせる商品が市販されています。もし将来的に猫の尿臭を忌避剤として応用できれば、猫の神経を逆なでせずにお引取り願う「交渉人」として機能してくれるかもしれません。その前にまず、尿に含まれるどの成分が猫の行動を方向づけているのかを確定する必要がありますが。