詳細
調査を行ったのは麻布大学獣医学部が中心となった共同チーム。統一された環境内に暮らしているオス猫36頭(年齢中央値4歳 | 平均体重3.9± 0.6kg)とメス猫19頭(年齢中央値4歳 | 平均体重3.2± 0.5kg)を対象とし、糞便中に含まれる揮発性有機物質に性差があるのかどうかを検証しました。食事内容に極端な偏りが出ないよう10種類の中からランダムで選ばれた1種類を給餌した上で糞便サンプルを採取し、「GC/MS」と呼ばれる解析機器を用いて中に含まれる揮発性有機物質を調べました。その結果、合計24種類の物質が検出され、以下のような事実が明らかになったといいます。
Katsuji Uetake, Tomonari Abumi, Takehito Suzuki, Shin Hisamatsu, Minoru Fukuda, JOURNAL OF APPLIED ANIMAL RESEARCH, 2018 VOL. 46, NO. 1, 766?770, doi.org/10.1080/09712119.2017.1398656
猫の糞便に見られる性差
- 含まれている物質の数に性差はない
- 1-ブタノールの量はオス猫の方が多い
- オス猫に限り年齢とともに増える成分が6つある
Katsuji Uetake, Tomonari Abumi, Takehito Suzuki, Shin Hisamatsu, Minoru Fukuda, JOURNAL OF APPLIED ANIMAL RESEARCH, 2018 VOL. 46, NO. 1, 766?770, doi.org/10.1080/09712119.2017.1398656
解説
過去に行われた調査では、見知らぬ猫の糞便と親しい猫の糞便の尿を嗅ぎ分けることができると報告されていますので(Nakabayashi et al., 2012)、鋭敏な猫の鼻にかかれば今回の調査で報告された揮発性有機物質の違いを検知することはお手の物かもしれません。つまり分子の匂いを嗅いだだけで性別とおおまかな年齢くらいはわかるということです。
糞便の中に個人情報を忍ばせる理由としては、オス猫に対するものとメス猫に対するものが考えられます。
まずオス猫に向けたメッセージとして、オスが運良く繁殖期に入ったメス猫のコロニーを見つけ、一時的なハーレム状態を作ったという場面を想像してみましょう。オス猫は自分の遺伝子を残すため、ライバルの存在を排除しなければなりません。そんな時、コロニーの周辺部に自分の糞便を残しておけば、「ここは俺のハーレムだぞ!」という目印になり、他のオス猫に対する脅しになるかもしれません。ちょうど家の玄関に警備会社のシールを貼ることで「勝手に入ると大変なことになりますよ!」と警告を発するようなものです。この場合、糞便はオス猫同士の争いを予防すると同時に、自分の遺伝子を残す確率を高めるよう機能していると考えられます。
一方、メス猫に対しては自分の「男っぷり」をアピールするという意味合いがあるかもしれません。去勢していないオス猫の尿中には、「コーキシン」および「フェリニン」と呼ばれる成分が著しく高い濃度で含まれており、メス猫に対する誘引剤として機能しているのではないかと推測されています。これと同様、6つの揮発性物質を通して糞便の中に自分の年齢に関する情報を入れておけば、メス猫に対して自分の若さと精力をアピールできるのではないでしょうか。ちょうど思春期に入った男子が異性を意識し、突然コロンをつけ始めるようなものです。 おしっこに含まれる成分を残すことを「マーキング」(marking)というのに対し、糞便を残す行為は「ミドニング」(middening)と呼ばれます。しかし猫においては「ミドニング」がそもそも存在しているのかどうかがはっきりしておらず、「体の大きなオス猫は自分のホームレンジ中心部に近い場所の糞便を積極的に覆い隠す」(Ishida and Shimizu, 1998)という報告があるなど、結論は出ていません。猫がミドニングするかどうかを決めるのは、近くにメス猫がいるかどうか、そしてメス猫が繁殖期に入っているかどうかという因子なのかもしれません。例えば家で飼っているオス猫に不妊手術を施している場合、ほとんどの猫は自分のウンチに砂をかけて覆い隠すと思われます。性腺を切除して性欲自体がなくなったため、同性をライバル視したり異性に対して自分の男っぷりをアピールする必要がなくなったと考えればすんなりと説明がつきます。
まずオス猫に向けたメッセージとして、オスが運良く繁殖期に入ったメス猫のコロニーを見つけ、一時的なハーレム状態を作ったという場面を想像してみましょう。オス猫は自分の遺伝子を残すため、ライバルの存在を排除しなければなりません。そんな時、コロニーの周辺部に自分の糞便を残しておけば、「ここは俺のハーレムだぞ!」という目印になり、他のオス猫に対する脅しになるかもしれません。ちょうど家の玄関に警備会社のシールを貼ることで「勝手に入ると大変なことになりますよ!」と警告を発するようなものです。この場合、糞便はオス猫同士の争いを予防すると同時に、自分の遺伝子を残す確率を高めるよう機能していると考えられます。
一方、メス猫に対しては自分の「男っぷり」をアピールするという意味合いがあるかもしれません。去勢していないオス猫の尿中には、「コーキシン」および「フェリニン」と呼ばれる成分が著しく高い濃度で含まれており、メス猫に対する誘引剤として機能しているのではないかと推測されています。これと同様、6つの揮発性物質を通して糞便の中に自分の年齢に関する情報を入れておけば、メス猫に対して自分の若さと精力をアピールできるのではないでしょうか。ちょうど思春期に入った男子が異性を意識し、突然コロンをつけ始めるようなものです。 おしっこに含まれる成分を残すことを「マーキング」(marking)というのに対し、糞便を残す行為は「ミドニング」(middening)と呼ばれます。しかし猫においては「ミドニング」がそもそも存在しているのかどうかがはっきりしておらず、「体の大きなオス猫は自分のホームレンジ中心部に近い場所の糞便を積極的に覆い隠す」(Ishida and Shimizu, 1998)という報告があるなど、結論は出ていません。猫がミドニングするかどうかを決めるのは、近くにメス猫がいるかどうか、そしてメス猫が繁殖期に入っているかどうかという因子なのかもしれません。例えば家で飼っているオス猫に不妊手術を施している場合、ほとんどの猫は自分のウンチに砂をかけて覆い隠すと思われます。性腺を切除して性欲自体がなくなったため、同性をライバル視したり異性に対して自分の男っぷりをアピールする必要がなくなったと考えればすんなりと説明がつきます。