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猫の品種によって利き手にかたよりはあるのか?

 過去に行われた調査により個体レベルでは確認されている猫の利き手。行動特性に特徴があるとされるラグドール、ペルシャ、メインクーン、ベンガルを対象とした観察を行ったところ、品種レベルでも利き手がある可能性が示されました。

猫の品種と利き手の有無

 調査を行ったのは北アイルランドにあるクイーンズ大学ベルファストの心理学チーム。過去に行われたいくつかの調査により個体レベルで確認されている猫の側性(laterality=利き手があること)が、品種レベルで見た時にも存在しているかどうかを検証しました。猫の利き手を確かめる際に用いたのは「Catit Senses Food Maze」と呼ばれる知育玩具で、おもちゃの中に隠したおやつを取る時、猫が一体どちらの手を優先的に用いるかを確認しました。 取りにくい場所にあるおやつをどちらの手で取るかに「利き手」が出る  調査に参加したのは大学やブリーダーが飼育している普通のペット猫。平均年齢は2.8歳(1~9歳)で、性別と不妊手術の有無に偏りが出ないように選別されました。内訳はペルシャ14頭、ベンガル12頭、ラグドール15頭、メインクーン15頭です。ペルシャは怖がり、ベンガルは攻撃的、ラグドールメインクーンはあまり情動が喚起されない落ち着いた品種の代表として選ばれました。
 1頭につき50回のトライアルを行い、完全左利き(50回全て左手を用いる)~完全右利き(50回全て右手を用いる)までの間で猫たちの利き手を評価していったところ、以下のような結果になったといいます。
猫の利き手と関連因子
  • 左利きは25頭(44.6%)
  • 右利きは20頭(35.7%)
  • 両利きは11頭(19.6%)
  • 両利き(利き手なし)の猫よりも利き手を持つ猫の方が多かった
  • 利き手のある猫に限ってみた時、右と左に統計的な差はなかった
  • ベンガル、ラグドール、メインクーンは利き手を持つ個体が多かった
  • ラグドール、メインクーン、ペルシャに利き手の偏りは見られなかった
  • ベンガルだけは左利きに偏っていた
  • オス猫はメス猫よりも左利きが多かった
  • メス猫はオス猫よりも右利きが多かった
猫の品種別に見た利き手の割合
Laterality as a Tool for Assessing Breed Differences in Emotional Reactivity in the Domestic Cat, Felis silvestris catus
Deborah L. Wells, Louise J. McDowell, Animals 2019, 9(9), 647, https://doi.org/10.3390/ani9090647

ベンガルは左利き?

 利き手の有無に関しては非常に多くの動物種で確認されています。例えば種という大きなレベルで見た時は霊長類、ザトウクジラ、オウムなどが明白な側性を有しているとされます。また個体という小さなレベルで見た時はヒツジ、ウマ、イヌ、ある種の昆虫などが側性を有している可能性が示されています。猫の側性に関しても非常に多くの調査が行われてきましたが、種という大きなレベルでは確認されておらず、せいぜい個体レベル止まりです。つまり人間のように世界中どこに行ってもおよそ9割の人が右利きという極端な隔たりが見られないということです。
 今回の調査では「両利き(利き手なし)の猫よりも利き手を持つ猫の方が多い」ことが確認されましたが、調査対象となった品種が4つと少なく、また全体の個体数も56頭と少ないため、この結果を猫全体に拡大して解釈するのは早計でしょう。 ベンガルで確認された利き手の偏りはヤマネコの攻撃性による影響かも  新しく得られた知見は、品種レベルで見た時利き手に偏りがあるかもしれないという点です。具体的にはベンガルにおいて83.3%もの個体が左利きであることが確認されました。この極端な偏りの背景として想定されているのが「情動価理論」(emotional valence theory) です。
情動価理論
右脳は恐怖やストレスで活性化し、左脳は恐怖心を抑制すると同時に探索行動を促す。その結果、怖がりな個体は優位脳とは逆の左手(左足)を優先的に用い、泰然とした個体は優位脳とは逆の右手(右足)優先的に用いるようになる。
 ベンガルはベンガルヤマネコ(P. bengalensis)とイエネコ(F. catus)のハイブリッドですので、野生の気質がやや色濃く残っているのかもしれません。品種レベルで見た時の行動特性として「攻撃性が高い」とか「狩猟が好き」と評されることが多いといった報告もあります (Hart, B.L., 2013)。脅威に対する恐怖反応(逃走)や攻撃反応(闘争)が生じた時、もっぱら右脳が活性化するのだとすると、攻撃的と評されることが多いベンガルにおいて脳と逆側の左手(左足)を優先的に使う傾向が見られるというのは理にかなっています。
過去に行われた調査では「猫は緊張すると左の耳を優先的に使う」とか「猫の耳(鼓膜)は恐怖やストレスを感じると温度が上がる」と言った報告があります。人間と同様、猫も状況に応じてどちらか一方の脳を優先的に使うメカニズムを持っているのでしょう。