詳細
調査を行ったのは、ドイツ・ハノーヴァー大学医学校のチーム。人間を始めとする霊長類を対象として行われる「顔向けパラダイム」を利用し、猫にも右脳と左脳の優先順位があるのかどうかを検証するため、統一した環境内における音響実験を行いました。
こうした結果から調査チームは、猫にも霊長類と同じように顔向け仮説が通用するかもしれないと推測しています。ただし「馴れ」によって容易にその傾向は薄れ、また耳の位置によって大きな影響を受ける可能性は否めないとも。 The head turn paradigm to assess auditory laterality in cats: influence of ear position and repeated sound presentation.
Konerding WS, Zimmermann E, Bleich E, Hedrich H, Scheumann M. (2017) PeerJ 5:e3925 https://doi.org/10.7717/peerj.3925
- 顔向けパラダイム
-
被験者の後ろからさまざまな音を聞かせ、反射的に頭をどちらに向けるかを観察する実験。右を向いたときは右耳(左脳)を優先的に使い、左を向いたときは左耳(右脳)を優先的に使っているという理論が前提。
脳は右半球と左半球とに分かれており、前者は主に負の感情、後者は主に理性や正の感情を司っている。よって負の感情(恐怖や緊張)が喚起された時は右半球が活性化して支配領域である体の左側が優先的に使われ、逆に理性や正の感情(うれしい・楽しい)が喚起された時は左半球が活性化して支配領域である体の右側が優先的に使われるはず。
猫の顔の向きを変える因子
- 馴れ猫のリアクションを最初の7回とそれに引き続く7回とに分割して計算したところ、最初の7回では頭が左側に向く傾向が見出されました。
- 耳の位置観察場所は猫の頭がまっすぐ前を向くようにセッティングされていましたが、ぴったりと左右対称になる事は少なく、音を聞く前にどちらか一方に耳が傾いた状態でした。そして耳があらかじめ向いている方に頭全体を傾ける割合は、偶然レベルの50%をはるかに超える64%という高い値でした。
こうした結果から調査チームは、猫にも霊長類と同じように顔向け仮説が通用するかもしれないと推測しています。ただし「馴れ」によって容易にその傾向は薄れ、また耳の位置によって大きな影響を受ける可能性は否めないとも。 The head turn paradigm to assess auditory laterality in cats: influence of ear position and repeated sound presentation.
Konerding WS, Zimmermann E, Bleich E, Hedrich H, Scheumann M. (2017) PeerJ 5:e3925 https://doi.org/10.7717/peerj.3925
解説
顔向けパラダイムは哺乳動物において広く行われている実験です。例えば後ろから人の話し言葉を聞いているときの幼児は頭を右側に向ける(左脳優位)とか、リーサスモンキーやアシカは同種の動物の声が後ろから流れてきた時に限り頭を右側に向けて右耳を優先的に使うといった報告があります。またウォンバットに後ろから音を聞かせた所、最初は左側を向く傾向(右脳優位)が見られたものの、回数を重ねるごとにその傾向は薄らいでいったという報告もあります。今回の調査では、最初の7回において左側を向く傾向があるという傾向が観察されましたので、猫にも他の動物達と同じような脳半球仮説が通用するのかもしれません。哺乳動物が子獣の鳴き声を聞いた時、脳の内側膝状体といった聴覚伝導路や扁桃体が活性化するとされていますので、大脳新皮質の下にある辺縁系レベルで左右差がある可能性もあります。
猫の側性(体のどちらか一方を優先的に使うこと)に関しては利き手に関する調査が行われています。クイーンズ大学ベルファストのチームが行った調査では、利き手のある猫ほど自信がある、愛情深い、活動的、友好的という側面が強いと報告されています(→詳細)。また犬においては「効き鼻」の存在も示唆されています。イタリア・バリ大学が行った調査では「犬の匂いサンプルを嗅ぐ時は右の鼻腔を用い、人間の匂いサンプルを嗅ぐ時は左の鼻腔を用いる傾向が見出された」とのこと(→詳細)。
猫の鼻先に指を近づけたとき大抵は反射的にクンクンを嗅ぎますが、その時頭がどちらか一方に傾くことがあります。頭の向きを見ると、猫の右半球が活性化しているのか、それとも左半球が活性しているのかが分かるかもしれません。ただし嗅神経は脳内で交差していませんので、右鼻を優先に使っているときは右脳優位、左鼻を優先的に使っているときは左脳優位ということになりますので要注意です。一般的に、右脳は主に負の感情(恐怖や緊張)、左脳は正の感情(うれしい・楽しい)を司っているとされています。
猫の鼻先に指を近づけたとき大抵は反射的にクンクンを嗅ぎますが、その時頭がどちらか一方に傾くことがあります。頭の向きを見ると、猫の右半球が活性化しているのか、それとも左半球が活性しているのかが分かるかもしれません。ただし嗅神経は脳内で交差していませんので、右鼻を優先に使っているときは右脳優位、左鼻を優先的に使っているときは左脳優位ということになりますので要注意です。一般的に、右脳は主に負の感情(恐怖や緊張)、左脳は正の感情(うれしい・楽しい)を司っているとされています。