詳細
調査を行ったのはフランスにある獣医病院アルフォール校が中心となったチーム。猫が自分の後ろ足で付けた傷により潰瘍が生じ、激しい炎症を起こしてしまう「特発性潰瘍性皮膚炎」が、実はストレスによって引き起こされているという仮説を検証するため、皮膚炎を発症した猫(去勢済みのオス5頭+未去勢のオス1頭+避妊済のメス7頭 | 年齢中央値31ヶ月齢)と健常な猫(去勢済のオス15頭+避妊済のメス20頭 | 年齢中央値7歳)を対象とした比較調査を行いました。
Emmanuelle Titeux, Front. Aet. Sci., 16 April 2018, doi.org/10.3389/fvets.2018.00081
- 特発性潰瘍性皮膚炎(IUD)
- 潰瘍性皮膚炎とは猫が後ろ足で頭や首のあたりを引っかき、表皮を貫いて潰瘍性の病変が生じた状態のこと。医学的な検査を行っても原因を突き止められない場合は頭に「特発性」(とくはつせい=原因不明)という言葉が付けられる。
- 環境エンリッチメント
- 猫の自然な行動を促すよう以下の環境整えてあげること。いつでも餌や水にアクセスできる、窓辺で日向ぼっこできる、甘えたいときに甘えられるなど。
Emmanuelle Titeux, Front. Aet. Sci., 16 April 2018, doi.org/10.3389/fvets.2018.00081
解説
特発性潰瘍性皮膚炎に対する従来の治療法には、患部の皮膚を部分的に切除するというものがありました。しかし皮膚に原因があるわけではないため、全く改善が見られなかったというのが現状です。他の治療法にはエリザベスカラーによる物理的な遮断や糖質コルチコイドの投与などがありましたが、エリザベスカラーを24時間ずっとつけっぱなしにしておくのは現実的ではありませんし、副作用がある糖質コルチコイドを定期的に投与することも理想的とは言えません。
今回行われた調査により、猫が不必要に自分の体を引っかいてしまう原因はストレスである可能性が高まりました。治療法は「ストレス管理」ですので、従来のように皮膚を切断する必要も長期的に薬を投与する必要もありません。これは猫の体にとっても心にとっても優しいアプローチ法といえるでしょう。
ストレスが原因で発症する猫の病気としては、自分の前足や腹部を過剰になめ続ける「心因性脱毛症」が有名です。自分の体を舐めることも後ろ足で自分の体を引っかくこともグルーミングの一種と考えられていますので、今回テーマになった「潰瘍性皮膚炎」と「心因性脱毛症」はきょうだいの関係と言えるでしょう。ただし猫は1日のうちおよそ4%をグルーミングに費やし、そのうちスクラッチ(引っかき)が占めるのはわずか1~2%とされていますので、心因性脱毛症よりは気づかれにくいかもしれません。
猫の自然な行動を促す「環境エンリッチメント」としては、具体的に以下のような内容が指示されました。
環境操作によるストレス管理
- エサや水に自由にアクセスできるようにする
- 窓辺、庭、バルコニーに自由に行き来できるようにする
- 猫用ドアを設けて自由に外出できるようにする
- 猫の体を無理やり拘束しない
- 猫が求めたときだけコンタクトする
- コンタクトしたときはおやつなどを与える
- 食事、睡眠、排泄は同居猫に邪魔されない場所を確保する
- 定期的に新しいおもちゃを提供する
- 高い場所を用意する
- 休憩場所を用意する