トップ2018年・猫ニュース一覧4月の猫ニュース4月26日

猫が頭や首を血が出るほど引っかく原因はストレス

 猫が自分の後ろ足を使い、血が出るくらい頭の横や首を引っかいている場合、かなりストレスが溜まっている証拠かもしれません(2018.4.26/フランス)。

詳細

 調査を行ったのはフランスにある獣医病院アルフォール校が中心となったチーム。猫が自分の後ろ足で付けた傷により潰瘍が生じ、激しい炎症を起こしてしまう「特発性潰瘍性皮膚炎」が、実はストレスによって引き起こされているという仮説を検証するため、皮膚炎を発症した猫(去勢済みのオス5頭+未去勢のオス1頭+避妊済のメス7頭 | 年齢中央値31ヶ月齢)と健常な猫(去勢済のオス15頭+避妊済のメス20頭 | 年齢中央値7歳)を対象とした比較調査を行いました。
特発性潰瘍性皮膚炎(IUD)
潰瘍性皮膚炎とは猫が後ろ足で頭や首のあたりを引っかき、表皮を貫いて潰瘍性の病変が生じた状態のこと。医学的な検査を行っても原因を突き止められない場合は頭に「特発性」(とくはつせい=原因不明)という言葉が付けられる。猫が自分の体を過剰に引っかく原因がわからない場合、特発性という言葉が当てられてきた
 調査チームはまず、家畜動物の福祉の度合いを測るときに用いられている「Welfare Quality®」および「AWIN」と呼ばれる指標を転用し、健常猫と患猫の生活環境を数値化しました(ベスト0~ワースト21 | 健常猫7に対し患猫16)。次に患猫にだけ環境エンリッチメントを施し、症状や福祉の度合いが改善するかどうかを検証しました。
環境エンリッチメント
猫の自然な行動を促すよう以下の環境整えてあげること。いつでも餌や水にアクセスできる、窓辺で日向ぼっこできる、甘えたいときに甘えられるなど。
 その結果、すべての猫で掻痒症が2日以内に改善し、病変部がみるみる治っていったといいます。唯一改善を見せなかった1頭に関しては、飼い主が医師の指示にしっかり従っていないことが原因でした。福祉スコアに関しても導入前の16から導入後(15~90日後)は6に低下し、健常猫の「7」と同レベルにまで改善しました。また、症状の改善は92%(12/13頭)で12~24ヶ月持続したそうです。 猫の行動性潰瘍性皮膚炎~側頭部に病変ができたケース  こうした結果から調査チームは、従来特発性(=原因不明)と呼ばれていた潰瘍性皮膚炎は、猫の日常的な行動様式を変化させることで改善が期待できることから「行動性潰瘍性皮膚炎」と改称することが望ましいとしています。
From Feline Idiopathic Ulcerative Dermatitis to Feline Behavioral Ulcerative Dermatitis: Grooming Repetitive Behaviors Indicators of Poor Welfare in Cats
Emmanuelle Titeux, Front. Aet. Sci., 16 April 2018, doi.org/10.3389/fvets.2018.00081

解説

 特発性潰瘍性皮膚炎に対する従来の治療法には、患部の皮膚を部分的に切除するというものがありました。しかし皮膚に原因があるわけではないため、全く改善が見られなかったというのが現状です。他の治療法にはエリザベスカラーによる物理的な遮断や糖質コルチコイドの投与などがありましたが、エリザベスカラーを24時間ずっとつけっぱなしにしておくのは現実的ではありませんし、副作用がある糖質コルチコイドを定期的に投与することも理想的とは言えません。
 今回行われた調査により、猫が不必要に自分の体を引っかいてしまう原因はストレスである可能性が高まりました。治療法は「ストレス管理」ですので、従来のように皮膚を切断する必要も長期的に薬を投与する必要もありません。これは猫の体にとっても心にとっても優しいアプローチ法といえるでしょう。 猫の心因性脱毛症は、口が届きやすい太腿外側や腹部に生じる  ストレスが原因で発症する猫の病気としては、自分の前足や腹部を過剰になめ続ける「心因性脱毛症」が有名です。自分の体を舐めることも後ろ足で自分の体を引っかくこともグルーミングの一種と考えられていますので、今回テーマになった「潰瘍性皮膚炎」と「心因性脱毛症」はきょうだいの関係と言えるでしょう。ただし猫は1日のうちおよそ4%をグルーミングに費やし、そのうちスクラッチ(引っかき)が占めるのはわずか1~2%とされていますので、心因性脱毛症よりは気づかれにくいかもしれません。 猫がしっぽをかじるのは心因性脱毛症のサインかも
 猫の自然な行動を促す「環境エンリッチメント」としては、具体的に以下のような内容が指示されました。
環境操作によるストレス管理
  • エサや水に自由にアクセスできるようにする
  • 窓辺、庭、バルコニーに自由に行き来できるようにする
  • 猫用ドアを設けて自由に外出できるようにする
  • 猫の体を無理やり拘束しない
  • 猫が求めたときだけコンタクトする
  • コンタクトしたときはおやつなどを与える
  • 食事、睡眠、排泄は同居猫に邪魔されない場所を確保する
  • 定期的に新しいおもちゃを提供する
  • 高い場所を用意する
  • 休憩場所を用意する
 ほとんどの項目は今すぐにでも実践できる簡単なものですが庭、バルコニー、屋外へのアクセスはデメリットを伴いますので推奨されません。具体的には「庭」が脱走、「バルコニー」が落下、「屋外」が迷子や交通事故などです。猫のストレスが軽減されても、病気にかかったり怪我をしたり死んでしまっては何にもなりませんので、なるべくその他の項目で対応するようにしましょう。皮膚症状を示していなかった健常猫のうち28%(10/35頭)は完全室内飼いでしたので、屋外へのアクセスが環境エンリッチメントの必須項目というわけではありません。 迷子猫の探し方 放し飼いが招く猫の死
 潰瘍性皮膚炎の特徴は「後ろ足で引っかく範囲の病変」と「他の皮膚疾患が見当たらない」という点です。病変部は側頭部や頚部が大半で、まれに肩甲骨の間にも現れます。猫がしきりに頭や首を引っかくけれども、今ひとつ原因がわからない場合はひとまず病院に行って皮膚疾患にかかっていないかどうかを確認してもらいましょう。もし原因らしきものが見当たらない場合は「特発性」ということになりますが、気休めに薬を投与する前に、今回の調査で行われたような環境エンリッチメント試してみてください。 猫の行動性潰瘍性皮膚炎~顎の下に病変ができたケース 猫の行動性潰瘍性皮膚炎~耳の下に病変ができたケース  何らかのストレスが原因になっている場合、数日以内に無意味な引っかき行動が消えてくれるはずです。室内の具体的なセッティングの仕方に関しては以下のページで詳しくまとめてありますのでご参照ください。 猫のストレスチェック 猫が喜ぶ部屋の作り方