詳細
調査を行ったのはヘブライ大学のチーム。2004~2015年の期間、大学付属教育病院で肝リピドーシスと診断された猫を対象とし、発症の危険因子および死亡の危険因子が何であるかを統計的に検証しました。ここで言う「肝リピドーシス」(脂肪肝)とは、肝臓から採取した組織サンプルのうち、脂肪の占める割合が50%を超えている状態のことです。
発症リスク
肝リピドーシスを発症した猫71頭と閉塞性の下部尿路疾患の調査で用いられた85頭の猫を比較した所、発症リスクとして以下のような項目が浮かび上がってきました。
- 性別オス猫が24頭(34%/1頭を除いて去勢手術済み)だったのに対しメス猫は47頭(66%/すべて避妊手術済み)と過半数を占め、統計的にメス猫に多いと判断されました。
- 年齢対照グループの年齢中央値が3.5歳だったのに対し疾患グループのそれは7歳で、統計的に高齢で発症しやすいと判断されました。
- ライフスタイル対照グループでは屋外にアクセスできる猫が多く、疾患グループでは室内飼いが多く確認されました。
- 食生活対照グループではウェットフードが多く、疾患グループではドライフードが多く確認されました。
- 季節性対照グループと比較して、春に受診する割合が有意に低いと判断されました。
死亡リスク
肝リピドーシスを発症した71頭のうち、治療によって延命に成功した44頭と死亡した27頭(病死18頭+安楽死9頭)とを比較した所、死亡リスクとして以下のような項目が浮かび上がってきました。ここで言う「死亡」とは「病院を受診してから60日以内に死亡もしくは安楽死が施された猫」のことです。
Sharon Kuzi et al., Veterinary Record(2017), doi:10.1136/vr.104252
- 年齢生存グループの年齢中央値が6歳だったのに対し死亡グループの中央値は8歳で、統計的に死亡グループのほうが高齢であると判断されました。
- 臨床症状死亡グループでは元気消失や流涎(よだれ)が多く見られました。特に元気消失や沈うつといった症状は肝機能不全と密接に連関していました。
- 受診時の検査項目死亡グループでは貧血、血清アルブミン・総タンパク質・総コレステロール値が低い、クレアチンキナーゼ(CK)活性が高いなどの傾向が見られ、最終的に「低コレステロール血症」が最も信頼のおける予見因子と判断されました。また肝機能不全に関し、生存グループ(29%, 13/44頭)よりも死亡グループ(59%, 16/27頭)の方が多いと判断されました。
- 入院期間中の検査項目死亡グループでは低アルブミン血症、高アンモニア血症、高ビリルビン血症が有意に多く観察されました。また神経学的異常や低血圧も死亡グループと連関していました。逆に生存グループではケトン体の一種であるβ-ヒドロキシ酪酸(BHBA)の血清濃度が高いという傾向が見られました。
- 治療法食道チューブで強制給餌した場合、肝機能障害を発症するリスクが他の給餌法に比べて7.8倍に高まり、死亡率が有意に高まりました。また治療開始から5日以内に十分なカロリーを提供できなかった場合も死亡率が高まることが明らかになりました。
Sharon Kuzi et al., Veterinary Record(2017), doi:10.1136/vr.104252
解説
肝リピドーシスを発症した猫たちでは全般的に「不妊手術済み」、「室内飼い」、「もっぱらドライフード」という特徴が見られました。これらのデータが示しているのは、「肥満」がリスクファクターになっているという可能性です。しかし猫の体型をBCSで分類したところ、やせ気味、標準体型、太り気味の猫たちの間で発症率に格差は見られませんでした。調査チームは、長引く食欲不振によって体重が自然に減少したか、もしくは猫の太りすぎを気にした飼い主が事前にダイエットを行ったため、体重格差が消えてしまったのではないかと推測しています
肝リピドーシスを発症していない猫(3.5歳)と発症した猫(7歳)との間では年齢中央値に3.5歳という大きな格差が見られました。また生存例(6歳)と死亡例(8歳)との間では年齢中央値に2歳という格差が見られました。こうしたことから「高齢」がリスクの1つと言えそうです。目安として、6歳を過ぎたころから肝リピドーシスのリスクが高くなると考えておいたほうが無難でしょう。
発症した猫のうちメスが66%を占め、統計的に有意であると判断されました。メス猫はすべて手術済みだったことから、避妊手術が肥満につながり、肝リピドーシスのリスクを高めているものと推測されます。メス猫のリスクが高いことは確かですが、オス猫の飼い主も十分な注意が必要です。近年行われた調査では、早期去勢手術グループでは運動量の低下、そして晩期去勢手術グループでは運動量の低下と摂食量の増加両方によって肥満につながりやすくなる可能性が報告されています(→詳細)。
肝リピドーシスを発症した猫のうち20%では、発症前の段階でストレスを引き起こすようなイベントを経験していました。具体的には「引っ越し」、「食事の変更」、「飼い主の休暇」、「新しいペットとの同居」、「飼い主の変更」、「屋外環境へのアクセス」などです。猫はデリケートな動物ですので、人間の感覚を安易に当てはめたり、冒険好きな犬と同等視したりするのは危険と言えるでしょう。ストレスから食欲不振に陥り、肝リピドーシスの発症を後押ししてしまうかもしれません。
発症猫たちの基礎疾患としては膵炎(55.5%)や胆管肝炎(35.4%)が多く見られました。またよく見られた症状は以下です。
肝リピドーシス発症猫の症状
- 食事の拒絶=61頭(86%)
- 嘔吐=54頭(76%)
- 体重減少=51頭(72%)
- 食欲不振 =50頭(70%)
- 活動性の減少=50頭(70%)
- 元気消失・沈うつ=30頭(42%)
- 便秘=7頭(10%)
- 下痢=5頭(7%)