詳細
調査を行ったのは、イギリス・ブリストル大学を中心としたチーム。2010年5月~2013年12月の期間、イギリス国内に暮らしている猫の飼い主を対象とし、生後12ヶ月齢なるまでの間、いったいどのような猫が交通事故に遭いやすいのかを前向きに調査しました。生後16週齢、6ヶ月齢、12ヶ月齢のタイミングでアンケート調査を行い、「猫が自由に外を出歩ける」という条件で絞り込んだところ、最終的に1,264人が残り、以下のような事実が明らかになったといいます。なお「OR」は「オッズ比」のことで、標準の起こりやすさを「1」としたときどの程度起こりやすいかを相対的に示したものです。数字が1よりも小さければリスクが小さいことを、逆に大きければリスクが大きいことを意味しています。
J. L. Wilson, T. J. Gruffydd-Jones, J. A. Murray, Veterinary Record (2017), doi: 10.1136/vr.103859
猫の交通事故リスク
- 交通事故遭遇率=3.9%(49件)
- 怪我なし=0%(0件)
- 治療不要の軽症=8.5%(4件)
- 要治療の重症=17%(8件)
- 死亡=74.5%(35件)
- 田舎に暮らしている=OR2.66
- 家が直線道路に面している=OR2.84
- 道端で狩りを行う=OR3.30
J. L. Wilson, T. J. Gruffydd-Jones, J. A. Murray, Veterinary Record (2017), doi: 10.1136/vr.103859
解説
放し飼いの割合が90%近いイギリスで2001年に行われた調査では、動物病院でカウントされた猫の死因のうち交通事故は4番目に多いとされています(Rochlitz et al. 2001)。また2015年に行われた調査では、5歳未満の猫の死因のうち最も多いのが外傷で、外傷の原因として最も多いのが交通事故だとされています(Neill et al. 2015)。仮に交通事故を生き延びたとしても、骨格に重い後遺症が残ったり神経系の障害が残ったりしますので、飼い主としては何としても可愛いペットの安全を確保したいところですね。
交通事故の予防法を含めた特記事項は以下です。
交通事故の予防法を含めた特記事項は以下です。
交通事故の遭遇率
全体における交通事故の遭遇率は3.9%(49/1,264)でした。この数値は過去の調査で報告されている12%(Rochlitz, 2003)よりも少ない値です。しかし本調査は猫の年齢層を12ヶ月齢以下に絞っているため、調査対象を全年齢層に広げると違った値が出るかもしれません。また前向き調査の途中で脱落した64頭の中には「猫が行方不明になってしまった」というものが含まれていました。行方不明の原因が交通事故だったとすると、全体における事故の遭遇率は若干上がるでしょう。
家の立地
直線的な道路に面している家は、面していない家に比べて2.88倍も交通事故のリスクを高めていました。過去に行われた調査(Rochlitz 2003)では、交通事故のうち半数近くは自宅の前の道もしくは自宅の近くで発生していると報告されています。おそらく、猫が家から外に出ようとするタイミング、もしくは外から家に帰ろうとタイミングで車にはねられるケースが多いのでしょう。
また一般的に、カーブの多い道路よりも直線的な道路の方が制限速度が高く設けられているため、仮に運転手が猫の姿に気づいてもブレーキが間に合わない可能性が大です。見通しが良いはずの直線道路で逆に事故のリスクが高まった理由はここにあるものと推測されます。
また一般的に、カーブの多い道路よりも直線的な道路の方が制限速度が高く設けられているため、仮に運転手が猫の姿に気づいてもブレーキが間に合わない可能性が大です。見通しが良いはずの直線道路で逆に事故のリスクが高まった理由はここにあるものと推測されます。
猫の狩猟習慣
道端でハンティングする習慣がある猫は3倍も事故に遭いやすいことが明らかになりました。道路脇の低木や茂みは、猫が大好きな小動物や昆虫が隠れやすい場所です。狩りに夢中になって車の存在に気づかなかったり、道路に飛び出した獲物を追いかけて車に轢かれてしまうという状況がはっきりと目に浮かびます。
猫の生活環境
都会に暮らしている猫よりも田舎に暮らしている猫の方が2.6倍ほど事故に遭いやすいことが明らかになりました。「田舎は交通量が少ないから事故に遭う危険性も少ないだろう」と思いがちですが、実際には逆のようです。この逆説の理由としては「飼い主が安全神話を盲信しており猫を放置している時間が長い」、「交通量が少なくて運転手がスピードを出している」、「1歳未満の猫はまだ車に慣れていない」などが考えられます。
猫の交通事故に関する逸話
逸話的に語られている以下のような説は、少なくとも今回の調査では確認されませんでした。
- 黒猫は運転手から見えにくくて事故に遭いやすい
- オス猫の方が事故に遭いやすい
- 暗い時間帯の方が事故が起こりやすい
- いつでも自由に外出できる猫の方が事故に遭いやすい
猫の交通事故を防ぐには?
調査チームは、猫を交通事故から守る最も確実な方法は完全室内飼いにすることだと推奨しています。ただし室内飼いにはそれなりのデメリットもあるため、事前に問題に対する対処法を知った上で飼育方法変えた方が良いとも。具体的には以下のようなページが役立つでしょう。
「猫に自然な行動させたい」というのは放し飼いを正当化している飼い主の常套句ですが、屋外を出歩いている猫の25頭に1頭は交通事故に会い、交通事故にあった猫のうち4頭に3頭は死んでしまうというデータを突き付けられた時、はたして同じ主張を堅持できるでしょうか。
完全室内飼いの手引
交通事故に遭った47頭(2頭は怪我の程度が分からなかったため除外)のうち、74.5%(35頭)は死に至るような大怪我でした。猫がひとたび事故に遭ってしまうと、4頭中3頭は助からないという計算になります。こうしたイギリスのデータをそっくりそのまま日本に輸入するわけにはいきませんが、大阪で行われた調査によると「1頭の屋外生活猫が1ヶ月間に事故等により死亡し回収される確率は4.24%」とかなり近い値が出ています(→詳細)。また負傷動物や路上死動物の数は、年間に殺処分されている猫の数をはるかに上回ると推測されています。「猫に自然な行動させたい」というのは放し飼いを正当化している飼い主の常套句ですが、屋外を出歩いている猫の25頭に1頭は交通事故に会い、交通事故にあった猫のうち4頭に3頭は死んでしまうというデータを突き付けられた時、はたして同じ主張を堅持できるでしょうか。