詳細
口内細菌叢と口内の病変とは密接な関係にあります。過去に行われた研究では、ポルフィロモナスなどを含む「バクテロイデス門」の嫌気性グラム陰性桿菌が、猫の歯肉で液性免疫反応を引き起こし、歯周病につながっているのではないかと推測されてきました。また博物館や動物園の標本を対象として行われた調査では、1960年代以前、猫の歯が溶けてなくなってしまう歯根吸収はあまり見られなかったと言います。さらに、すべての歯を抜いたにもかかわらず、潰瘍性口内炎が改善しなかったという症例があることから、この病気にも何らかの形で口内細菌叢が関わってると推測されています。このように猫の口内細菌叢は、口の中に発生する様々な病変に大なり小なり関わっているようです。
今回の調査を行ったオーストラリア・シドニー大学の調査チームは、上記したような事実から「食事内容が猫の口内細菌叢を変化させ、疾患の原因になっている」という仮説を立て、次世代シーケンシングと呼ばれる最新技術を用いて、猫の口の中に含まれる細菌のDNAを精査しました。調査の対象となったのは10頭のペット猫。半数にはドライフードだけを、残りの半数にはウェットフードだけを与え、口内細菌叢にどのような変化が現れるかを観察しました。具体的な給餌内容は以下です。
Christina J. Adler, Richard Malik, et al. 2016
食餌内容の違い
- ドライフードシリアルベースで水分量が少ない | 押出成形法(エクストルード) | 低タンパク低脂肪で高炭水化物 | 油とリン酸でコーティング
- ウェットフード未調理の鶏肉orラム肉or牛肉 | 缶入り | 骨がついていることもあり | 水分含量が70%前後と多い | 高タンパク高脂肪低炭水化物
食餌と口内細菌叢の関連性
- 両グループ共通 食事内容にかかわらず、3つの門で全シークエンスの76%が占められていた。具体的には「バクテロイデス門=31%」、「フィルミクテス門=24%」、「プロテオバクテリア門=21%」。さらに細菌を411の操作的分類単位に分割した所、「ポルフィロモナス属=14.9%」、「トレポネマ属=5.1%」、「フシバクテル属=4.5%」の順で多かった。年齢が上がるにつれて細菌の多様性は増した。
- ドライフードグループのみ 2つの食事の間では23の操作的分類単位に統計的な違いが見られ、そのうち65%はドライフードグループで多かった。具体的には「アクチノバシラス属」、「アコレプラスマ属」、「トレポネマ属」、「ポルフィロモナス属」など。ドライフードを食べている猫の方が口内細菌叢が多様で、また量も多かった。
- ウェットフードグループのみ 2つの食事の間では23の操作的分類単位に統計的な違いが見られ、そのうち35%はウェットフードグループで多かった。具体的には「プロテオバクテリア門」など。
Christina J. Adler, Richard Malik, et al. 2016
解説
キャットフードが市場に登場し始めた1970年代以降、歯根吸収や歯周病が増えだしたという事実から、食事内容の変化が口内病変と関わってる事は間違いないようです。病変の原因になっているのは、食事に含まれるマクロ栄養かもしれません。例えば野生の猫では2%と言われている炭水化物の摂取割合は、キャットフードを食べているペット猫では12%以上だと言われています。ですから完全肉食動物の猫に高炭水化物食を与えること自体が、口腔内の健康を悪化させる可能性は大いにあるでしょう。
食習慣の変化が病変の原因になっている可能性も否定できません。獲物を捕まえて食べる野生の猫は、鳥の羽根を食いちぎったり、骨から肉を削ぎ落とす過程で、歯の表面についたプラークを自然と除去します。一方、出来合いのフードを軽く噛んで飲み込むだけのペット猫は、咀嚼による歯磨き効果を得られず、また唾液の分泌量も変化します。結果として、悪玉の細菌が過剰に繁殖してしまう口内環境を作ってしまう可能性があります。
調査チームは、口内細菌叢の変化と歯周病との因果関係を解明するためには、同じ年齢で歯周病の度合いだけが違う猫を対象とした比較調査が必要であると述べています。ただし、たったひとつの食事パターンだけで猫を飼育している人がほとんどいないため、被験猫を最低50頭集めるだけで一苦労とのこと。
調査チームは、口内細菌叢の変化と歯周病との因果関係を解明するためには、同じ年齢で歯周病の度合いだけが違う猫を対象とした比較調査が必要であると述べています。ただし、たったひとつの食事パターンだけで猫を飼育している人がほとんどいないため、被験猫を最低50頭集めるだけで一苦労とのこと。