
食事時でもないのに猫がペロペロと口元などをなめている場合、何らかの不安や葛藤の裏返しということが考えられます。ある感情が全く無関係の別の行動となって表れることを「転位行動(てんいこうどう)」と呼び 、「口元を舐める」のほか、「あくび」や「毛づくろい」といったバリエーションがあります。ただし、何の脈絡もなくしつこく口元をペロペロ舐めている場合は、何らかの口腔疾患にかかっている可能性がありますので、念のため獣医さんにご相談ください。
猫の歯・口の病気
不安や葛藤を描いたときに現れる転位行動の中で、最も多く見られるのは「自己指向性行動」(self directed behavior, SDB)というものです。これは自分の体に対して働きかける行動のことで、猫の口なめやセルフグルーミングのほか、他の動物においても広く観察されています。具体的には以下です。
動物の自己指向性行動(SDB)
- ネズミ ドブネズミに他のネズミの叫び声を聞かせたところ、セルフグルーミングの時間が延びた(→出典)。
- ヒヒ 優位の個体が近くにいると、アヌビスヒヒのSDBが40%増加した(→出典)。
- チンパンジー 集団飼育されている状況で他の個体の叫び声を聞かせたところ、チンパンジーのSDBが増加した(→出典)。
- アカゲザル エサへのアクセスが制限されている状況において、太もも外側や背中、わき腹といった場所へのセルフグルーミングが増えた(→出典)。
上記したのは動物における例ですが、実は人間も例外ではありません。
2000年に行われた実験によると、「不安傾向が強い人ほど自己指向性行動を始めとする転位行動が多く観察された」といいますので、この現象は動物全般において見られると考えた方が妥当なのかもしれません。わかりやすく言うと、人間がテストで難しい問題を考えているときに頭を掻きむしることと、猫がストレスや葛藤を抱いた時に突然自分の体を舐め始めることとは、それほど遠くないと言うことです。