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猫のバイタルサインから「正常」を知ろう!~血圧、心拍数、呼吸数、体温のチェック方法

 猫が健康であるかどうかはバイタルサインに現れることがあります。バイタルサインとは血圧、心拍数、呼吸速度、体温といった客観的なデータを総括した概念です。自宅でも簡単にできますのでチェック方法を覚えて練習しておきましょう!

バイタルチェックの注意点

 猫のバイタルサインをチェックする習慣を持っていれば、体調不良や病気に気づきやすくなります。バイタルサインとは、あらゆる生体内で客観的に観察される数値を総括した概念のことです。当ページでは、家庭でもチェックしやすい血圧、心拍数、呼吸速度、体温の4項目について解説します。猫との触れ合いを兼ね、週に1回程度の割合で行うようにしましょう。
 なおバイタルサインチェックを行う際の注意点は以下です。こうした注意を怠ると、数値に誤差が生じてしまいます。またバイタルサインは体調不良の可能性を示すものであり、病気の診断に用いるものではありません。異常が見つかった際の本格的な診察は必ず獣医さんに任せてください。
バイタルチェックの注意点
  • 猫がリラックスしているときに行う
  • 猫と親しい人が行う
  • 室温は暑すぎず寒すぎず
  • 運動後は避ける
  • 明らかな病気の時は避ける

体温のチェック方法

 1歳を超えた成猫の平熱は深部体温で37.7~39.2℃です。子猫ではやや低く、出生時で34.7~37.2℃、生後1週間で36.1~37.8℃に保たれています。自力で体温維持ができるようになるのは3週齢頃からです。
 体温を知る最も簡単な方法は、猫を抱っこすることです。抱っこしたとき、いつもより火照っている感じがしたら高体温を、逆に温かさを感じない場合は低体温を疑います。日ごろからよく猫と触れ合っていれば、体温の変化に比較的気付きやすくなるでしょう。 猫の体温測定~直腸式と耳式  より正確な体温を知りたい場合は、体温計を用います。肛門から直腸温度を測定する場合は、ペット用体温計の先端にワセリンなどをつけ、お尻の穴から挿し込みます。しかしこの方法は、猫が嫌がることがあったり、衛生面での問題が発生することもありますので、獣医さんに任せた方がよいでしょう。2024年の調査では、脇の下(腋窩)の温度が直腸温とよく連動していると報告されていますので、猫の左腋窩にデジタル体温計を40秒ほど挟み、計測温度に「0.26℃」をプラスすると実際の深部体温に近くなります。詳しい内容は以下のページをご覧ください。 猫の脇の下の温度は深部体温と連動する  直腸も脇の下も難しい場合は、家庭向けに耳で測定するペット用体温計が売られていますのでこちらで代用します。
ストレスと鼓膜温  鼓膜の温度を赤外線センサーで計測する「耳式体温計」を使用する場合は、左耳を計測した方がよいでしょう。不思議なことに、ストレスを感じているときの猫の鼓膜温は、なぜか右側だけが高くなるといいます。ですから、心理的な影響によるブレを排除した正確な体温を測る際は、耳式体温計を左の鼓膜に当てたほうがよいと思われます。Laterality: Asymmetries of Body, Brain and Cognition

呼吸数のチェック方法

 猫の正常な呼吸数は1分間で20~30回です。
 猫の呼吸数は、休んでいるときにおなかの上下動を見れば簡単にわかります。15秒間の呼吸数を4倍する方法は不正確になりやすいため、最低でも30秒間の呼吸数をカウントした方がよいでしょう。ただし運動の直後や、レム睡眠(浅い眠り)に入ってるときには、呼吸がやや乱れることがあります。正確を期すため、穏やかに眠っているときやぼんやりと外を眺めているときを狙って観察してみましょう。もしおなかの上下動がはっきりしない場合は、寝ている猫の鼻先にティッシュペーパーの切れ端を垂らすという方法でも構いません。息を吐き出すたびにティッシュが揺れますので、その揺れた数を呼吸数としてカウントします。 猫の呼吸数は腹部の上下動をカウントする

心拍数のチェック方法

 猫の正常な心拍数に関しては、資料によってばらつきがあります。単純に最大値と最小値を取ると、1分間で120~220拍、15秒で30~55拍といったところです。 猫の心拍の数え方~心臓と大腿動脈のおおまかな位置  猫の心臓は、左前足の肘を脇腹にくっつけたあたりにあります。そこに指先を当てるとわずかな心拍数を感じ取ることができますので、それをカウントします。60秒間フルで数えてもよいですし、15秒間の脈拍だけ数え、それを4倍しても構いません。また聴診器を持っている場合はそちらを用いたほうがより正確でしょう。ただし猫がゴロゴロのどを鳴らしているときは、振動で微妙な心拍がかき消されてしまうことがありますので要注意です。
 他の方法としては、大腿動脈(だいたいどうみゃく)を触診するという方法もあります。まず猫がゴロンと横になったとき、床に接している方の足をターゲットとします。これは心臓より低く、また床に対して圧迫しやすいためです。ターゲットが決まったら、人差し指と中指を揃え、股間から太ももの内側に沿って少しずつ下にずらしてみましょう。慣れてくると、筋肉と筋肉の境目あたりにわずかな拍動を感じることができるはずです。拍動を触知できたら、60秒間数えるか、15秒数えてそれを4倍します。ただし人間の「白衣高血圧」同様、猫が緊張していると心拍数に誤差が生じる危険性がありますので、計測するのは猫がリラックスしているときに限定して下さい。
白衣高血圧  「白衣高血圧」とは、診察室に入り白衣を着た医師や看護師を目の前にすると、緊張感から血圧が上昇してしまう現象のことです。猫でも緊張感があると、血圧や心拍数に変化が生じる可能性がありますので、リラックス時以外の計測は避けるようにします。

血圧のチェック方法

 猫の正常な血圧は収縮期血圧で117~132mmHg、拡張期血圧で78~96mmHgの範囲内と想定されています。780頭の猫を対象としてイギリスで行われた大規模調査では、収縮期血圧の中央値が「120.6(110.4~132.4)mmHg」となっていますので、ひとつの目安になるでしょう(→詳細)。ただし猫の血圧に関しては万国共通の正常値がないため、今後変動する可能性もあります。詳しくは猫の高血圧症をご参照ください。
 正確な血圧は人間と同様、カフ(腕輪)を巻きつけて測定しますが、巻きつける場所には、前足、しっぽ、後ろ足と言ったバリエーションがあります。計測方法や計測頻度に関しては国際猫医学会(ISFM)がガイドラインを公開していますので、こちらの記事をご参照ください。
 家庭でもできる簡易血圧チェック法は、「キャピラリテスト」(Capillary refill time)です。正確には「毛細血管再充満時間テスト」と言いますが、長ったらしいので当ページ内では「キャピラリテスト」と呼ぶことにします。 毛細血管再充満時間テスト~歯茎と肉球  やり方は、まず猫の口を開き歯茎を指で押します。すると血液が押し出されて白くなるはずです。白くなったらすかさず指を離します。血液が戻り歯ぐきが再び赤くなるまでの時間を測ってみましょう。正常であれば2秒未満で戻ります。もし2秒以上かかるようでしたら血圧の低下、脱水、ショック、低体温などの可能性が考えられますので、獣医さんに相談しましょう。
 また正確性には欠けますが、肉球で代用するという方法もあります。猫の前足を心臓より高い位置に持っていき、指先で白くなるまで押してみましょう。指を離して2秒以内に赤みが戻れば正常です。ただしこの方法は肉球がピンク色の猫限定であり、茶色~黒っぽい肉球の猫には使えません。
 さらに難易度が高い方法としては「足背動脈触診法」というものもあります(→詳細)。これは猫の足の甲にある動脈を触診することで低血圧を見分けるというものです。2016年に行われた調査では、「足背動脈の脈拍を触知できない場合、超音波ドプラ血圧計での実測値が75mmHg以下の低血圧である確率が85%」という結果が出ています。ただし足背動脈の脈拍は極めて微弱であるため、行う際は自分自身の指の脈動と誤認しないよう十分注意しなければなりません。