トップ2024年・猫ニュース一覧5月の猫ニュース5月13日

猫の脇の下の温度は深部体温と連動する

 猫の深部体温を計測する際は直腸温が採用されます。しかし何らかの理由で猫が強く抵抗した場合、肛門の代わりとなる部位が必要となります。果たしてあるのでしょうか?

深部体温を反映する体部位は?

 調査を行ったのはトルコにあるBurdur Mehmet Akif Ersoy Universityのチーム。体のさまざまな部位で計測した体温が、深部体温の指標とされる直腸温と比較してどの程度互換性があるかを確かめるため、非接触型の赤外線体温計および接触型のデジタル体温計を用いた前向き調査を行いました。

調査対象と方法

 調査に参加したのは臨床上健康と判断されたペット猫5頭(避妊済みメス2+去勢済みオス3)。体重は2~6kg、年齢は1~6歳です。
 計測は全て猫が普段暮らしている家の室内で飼い主の手によって午後5~7時の間に行われました。室内環境は直射日光を避けて室温20~22°C、湿度51~65%の範囲内に統一されました。
 計測はまず接触を伴わない赤外線体温計で30cm離した地点から耳介→角膜→内眼角→歯茎→掌球の順で行われ、次に接触を伴うデジタル温度計で腋窩→直腸と行われました。 赤外線機器による猫の体温計測  腋窩計測では尾側から左腋窩に温度計が差し込まれ、直腸計測では肛門から2cm地点にある粘膜に密着させるように温度計が差し込まれました。

調査結果

 1部位につき44回の計測を行い、最終的に7部位で308回の計測データが集められました。平均値と中央値を棒グラフにしたものが以下です。 猫の体の様々な部位で計測された体温の体温の平均値と中央値  直腸温との関連性を調べた結果、腋窩(直腸温+0.26℃)において強い関連性、角膜(直腸温-1.45℃)において中等度の関連性が認められた一方、その他の部位においては弱い関連性しか認められませんでした。
Evaluating alternative temperature measurement sites in cats within a home environment: A comparison with rectal temperature
Dogukan Polat, Latif Emrah Yanmaz, Vet Med Sci. 2024;10:e1423, DOI:10.1002/vms3.1423

直腸の代わりは脇の下で

 深部体温は食道もしくは肺温度を計測するのがゴールドスタンダードとされています。しかし家庭であれ動物病院であれ侵襲性の高い特殊な温度計を用いることは実用的とは言えず、簡便さから直腸温が広く代用されています。

腋窩計測のメリット

 深部体温の指標として広く採用されている直腸温が万能かと言うとそういうわけでもありません。計測時の拘束ストレス、器具の不適切な使用と管理による感染の危険性、猫の抵抗に伴う粘膜損傷などがデメリットの一例です。また器具の挿入の深さ、便・空気・局所血流による干渉を受けやすいという点もネックになります。
 今回の調査では「腋窩」において直腸温との強い関連性が認められ、計測の代替部位として最も適している可能性が浮上しました。例えば動物病院では環境ストレスが大きく、また温度計挿入による異物感が強く猫が強く抵抗するため、直腸で体温を測れない状況が少なからず発生します。そんなときは代わりに脇の下に体温計を差し込み、それに0.2℃を足せばかなり深部体温に近い値を計測できると期待されます。 猫の腋窩温度計測

腋窩計測の注意点

 計測時間に関しては直腸温が17.34(± 0.89)秒だったのに対し腋窩が46.72(± 1.16)秒と倍以上の開きがありました。計測時間が長い分、猫を拘束する時間も長くなりますので、ストレスのかからない環境と保定が重要となります。
 また今回の調査に参加したのはあくまでも臨床上健康な正常体温の猫たちです。直腸温と腋窩温の連動が、高体温や低体温時にも見られるかどうかを確定するには別の補強調査が必要となるでしょう。
 さらに猫が肥満体だと皮下脂肪の干渉によって正確な体温が測れませんので、「普通体型以下」が計測の条件となります。
腋窩による体温測定は家庭内で猫の平熱を記録する際に有用となります。猫のバイタルサインから「正常」を知ろう!