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猫向け回虫・条虫・鉤虫駆除製品「プロフェンダー®スポット」の効果と副作用

 猫の回虫、条虫、鉤虫駆除を目的として販売されている「プロフェンダー®スポット」。含まれている成分の効果から副作用までを論文と出典付きで詳しく解説します。

プロフェンダー®スポットとは?

 「プロフェンダー®スポット」はエモデプシド(emodepside)とプラジクアンテル(praziquantel)を有効成分とする猫向けの回虫・鉤虫・条虫駆除製品。日本国内ではスポットオン(ピペット滴下式)が動物医薬品として認可されています。

エモデプシドの効果

 エモデプシドはシクロデプシペプチド系に属する駆虫薬の一種。線虫類の神経細胞と筋肉の接合部に作用し、ラトロフィリン受容体と結合して正常な電気信号の流れを乱すことで、生きていく上で欠かせない「咽頭ポンピング機能」を阻害します。その結果、線虫類は栄養素を取り込むことができなくなり、全身が麻痺して最終的には死に至ります。この成分の主な駆虫対象は猫回虫です。
 体重1kg当たり3mgを滴下投与した場合、平均3.2日で血清濃度が最高値(32.2μg/L)に達し、平均9.2日で半減します。 ラットを対象とした調査では、大部分は代謝されないまま便の中に排出され、残りは脂肪組織を始め全身の器官に行き渡るとされています出典資料:EMA Factsheets)

プラジクアンテルの効果

 プラジクアンテルはピラジノイソキノリン系に属する駆虫薬の一種。線虫の体表から速やかに吸収された後、細胞粘膜におけるカルシウムイオンの透過性を変化させることで外皮を脆弱にし、最終的には麻痺から崩壊死を招きます。この成分の主な駆虫対象は鉤虫猫条虫、瓜実条虫、多包条虫(エキノコックス)です。
 体重1kg当たり12mgを滴下投与した場合、平均18.7時間で血清濃度が最高値(61.3μg/L)に達し、平均4.1日で半減します。ラットを対象とした調査では、肝臓において速やかに代謝され、もっぱら尿中に排出されるとされています出典資料:EMA Factsheets)

プロフェンダーの安全性

 プロフェンダー®スポット1mL中には有効成分としてエモデプシド21.43mgとプラジクアンテル85.75mgが含まれています。また不活性成分としてブチルヒドロキシアニソール、ソルケタール(イソプロピリデングリセロール)、乳酸が用いられています。以下は開発元であるバイエルが猫を対象として行った安全性試験の結果です出典資料:Bayer HealthCare LLC)
プロフェンダーの安全性・猫編
  • 経皮毒性・子猫生後7~8週齢の子猫48頭(オス24頭 | 0.5~0.9kg)を12頭ずつ4つのグループに分け、1つにはプラセボ(偽薬)、1つにはプロフェンダーを0.7mL、1つには2.1mL、1つには3.5mLを14日間隔で合計6回滴下投与した。その結果、高用量(3.5mL)グループの3頭で流涎(よだれ)と振戦(ふるえ)が見られたが、症状は一時的で自然回復した。
  • 経皮毒性・若齢猫生後7~8ヶ月齢の猫16頭(オス8頭 | 2.4~5.1kg)をランダムで2つのグループに分け、一方にはプラセボ、一方にはプロフェンダー(体重2.5kg以下には3.5mL | 5kg以下には7mL | 5kg超には11.2mL)を滴下投与した。その結果、プロフェンダーグループの2頭で流涎、1頭で振戦と元気喪失が見られたが、48時間以内に自然回復した。滴下部位の皮膚に異常は見られなかったが、一時的に被毛がごわごわした。両グループ間で摂食量や体重に違いは見られなかった。
  • 経口毒性・若齢猫生後7~8ヶ月齢の猫16頭(オス8頭 | 2.7~5.3kg)をランダムで2つのグループに分け、一方にはプラセボ、もう一方にはプロフェンダー(体重5kg未満には0.7mL | 5kg以上には1.12mL)を経口投与した。その結果、6頭で流涎、2頭で嘔吐が見られ、摂食量と体重の減少が見られた。症状は17日後には徐々に回復傾向を見せた。
  • 経口毒性・成猫生後8~12ヶ月齢の猫16頭(オス8頭 | 3.0~4.8kg)をランダムで2つのグループに分け、一方にだけプロフェンダー0.7mLを経口投与した。その結果、全頭で流涎が見られたほか、プロフェンダーグループでは投与から2~4時間後に2頭で振戦、1頭で歩行異常、1頭で呼吸異常が見られた。症状は自然回復した。
  • フィラリア陽性猫生後8~11ヶ月齢の猫36頭(オス18頭 | 2.1~4.9kg)をランダムで12頭ずつからなる3つのグループに分け、全頭に6匹のフィラリア成虫(オスメス3匹ずつ)を人為的に寄生させた上で、1つにはプラセボ、1つにはプロフェンダーを体重1kg当たり1倍量(0.4~1.0 mL)、1つには5倍量(1.8~4.5 mL)を1ヶ月に1回のペースで合計3回滴下投与した。その結果、1倍量グループの1頭が初日に流涎を示した。また5倍量グループの1頭が初日に流涎を示したほか、1頭で呼吸困難と元気喪失が見られた。試験終了後、体内におけるフィラリア成虫の数を調べたところ、プラセボが平均2.6匹だったのに対し、1倍量では1.1匹、5倍量では0.7匹と減少傾向を見せた。

プロフェンダーの危険性・副作用

 ラットを対象とした実験ではエモデプシドの急性経口毒性は体重1kg当たり500~1,000mg、急性経皮毒性は2,000mg超と推計されています。また13~14週間に渡って給餌して得られたNOAEL(有害反応が見られない最大量)は体重1kg当たり1日0.73~1.1mg、妊娠中のメスから得られた母体内胎子のNOAELは0.5mgです。一方、プラジクアンテルのラットにおける急性経口毒性は体重1kg当たり2,840mgとされています出典資料:SAFETY DATA SHEET)
 猫を対象としたフィールド調査では、ヨーロッパの様々な国に暮らす合計606頭の猫にプロフェンダーが滴下投与されました。その結果、以下のような割合で副作用が見られたといいます出典資料:Bayer HealthCare LLC)
プロフェンダーの副作用・猫編
猫向け駆虫薬「プロフェンダー」による副作用の種類と割合一覧
  • なめる=3.0%
  • ひっかく=2.5%
  • よだれ=1.7%
  • 元気喪失=1.7%
  • 脱毛=1.3%
  • ナーバス=1.2%
  • 嘔吐=1.0%
  • 下痢=0.5%
  • 目への刺激=0.5%
  • ふるえ=0.2%
 欧州医薬品局(EMA)のファクトシートでは副作用の発生率が0.01%程度で「非常にまれ」とされていますが、実験室内ではなく家庭内でペット猫に滴下した場合、誤って成分をなめとってしまうことが多いのかもしれません。上記した以外では滴下部がごわごわになり、最長で2日間ほど白い残滓がとどまったという報告があります。また製品の効能として明記されていないものの、フィラリアの成虫に対する駆除効果が確認されています。猫の体内に成虫がいる状態で投与してしまった場合、ばらばらになった虫体が心臓、肺、脳の血管につまり、最悪のケースでは塞栓症を引き起こしてしまう危険性はあるでしょう。
 日本国内における副作用は、死亡例を含めたものが動物医薬品データベース内でちらほらと報告されています。しかしどのケースも製品との因果関係があやふやだったり、使用法を遵守しないいわゆる「オフラベル」の使い方が原因になった可能性もあるため、本当に引き金になったのかどうかは不明です。オフラベルの一例を挙げると「用量を守らなかった」「産まれて間もない若齢の猫に使った」「使用期限の過ぎた古い商品を使った」「滴下部をなめてしまった」などです。

プロフェンダー®スポット

 「プロフェンダー®スポット」はエモデプシドとプラジクアンテルを有効成分とする猫向けの線虫駆除製品。対象生物は猫回虫、猫鉤虫、猫条虫、瓜実条虫、多包条虫(エキノコックス)です。スポットオン(滴下式)で、滴下後は皮膚から血流に乗ってすみやかに全身に行き渡り、主として消化管の中に生息している各種の線虫類を駆除します。海外では犬向けのチュアブル(経口投与)タイプが流通していますが、日本国内においては猫向けのスポットオン商品しかありません。 【公式】プロフェンダー®スポット プロフェンダーの製品パッケージ一覧

プロフェンダー®スポットの使い方

  • いつから使える?使用条件は7週齢以降、体重0.5kg以上とされています。
  • 使用頻度は?1回投与すれば9割以上の確率で線虫類を駆除できます。投与から数週間後に便検査などを行い、まだ虫卵が確認されるような場合は最低2週間あけてから再投与します。
  • 使用期間は?ノミやダニのように通年性で投与する必要はありません。
  • 料金は?動物病院、猫の体の大きさ(体重)、体重に連動したピペットのサイズ、使用頻度によって合計費用は変動しますが、病院で処方される1本の料金はSサイズなら500~600円程度、Mサイズなら700~800円程度、Lサイズなら1,000~1,200円程度です。なお要指示薬には指定されていませんが、獣医師による診察と処方が理想とされます。
  • 付け方は? 猫の肩甲骨間の被毛をかき分け、使い切りのピペットを皮膚に直接滴下して使います。
  • 使用量は? 製品1mL中に含まれるエモデプシドの量は21.43mg、プラジクアンテルの量は85.75mgです。有効最低量は、体重1kg当たりエモデプシドが3mg、プラジクアンテルが12mgとされており、猫の体重に合わせて以下のような使用基準が設けられています。なお体重が8kg以上ある場合は一番大きい1.12mLピペット(L)ともう1つ別の1サイズを体重に合わせて与えます。
    ✓0.5~2.5kg未満→0.35mL(S)
    ✓2.5kg~5.0kg未満→0.7mL(M)
    ✓5.0kg~8.0kg未満→1.12mL(L)
  • 使用上の注意は?使用する際の注意点は「用法(7週齢以降)や用量を厳守すること」「獣医師の指示に従って与えること」「猫以外には使用しないこと」「使用期限が過ぎたものを使わない」などです。滴下前は皮膚と被毛がよく乾いていることを確認し、滴下後は乾くまで触らないことも指示されています。なおフィラリア成虫がいる猫には使用できません。最悪のケースでは塞栓症につながりますので、自己判断で投与する前に必ずフィラリア検査を受けてください。

プロフェンダー®スポットの効果

 以下は各種の寄生虫に対する「プロフェンダー®スポット」の駆虫効果を検証した調査結果です出典資料:Bayer HealthCare LLC)

猫回虫(成虫)への効果

 猫回虫に自然感染した20頭(オス8頭)の猫たちをランダムで2つのグループに分け、一方にだけプロフェンダーの基準量を滴下投与しました。10日後に腸管内の寄生数を確認したところ、プラセボ(偽薬)グループにおける幾何平均が10.6匹だったのに対し、プロフェンダーグループでは0匹で、駆虫効果は100%と算定されました。
 また猫回虫を人為的に寄生させた32頭(オス16頭 | 6~7ヶ月齢 | 2.1~4.4kg)を8頭ずつからなる4つのグループに分け、1つにはプラセボ(偽薬)、1つにはプロフェンダー基準量の1/2倍量、1つには1倍量、1つには2倍量を滴下投与しました。10日後に寄生数を確認したところ、プラセボの幾何平均が26.5匹だったのに対し、プロフェンダーグループは滴下濃度にかかわらず0匹だったといいます。

猫回虫(幼体・未成熟虫)への効果

 猫回虫のL4幼体と未成熟虫に感染した32頭(オス16頭 | 12~13週齢 | 1.3~1.9kg)の猫たちを8頭ずつからなる4つのグループに分け、2つにはプラセボ、1つには寄生から14日後のタイミングでプロフェンダー基準量、1つには寄生から24日後のタイミングでプロフェンダー基準量を滴下投与しました。投与から5日後のタイミングで虫体数を比較したところ、プラセボではL4幼体が12~15匹、未成熟虫が28.2匹寄生していたのに対し、プロフェンダーグループは滴下のタイミングに関わらずどちらも0匹(駆虫率100%)だったといいます。

鉤虫(成虫)への効果

 鉤虫に自然感染した20頭(オス2頭 | 6ヶ月齢~3歳 | 2.1~4.5kg)の猫たちをランダムで2つのグループに分け、一方にだけプロフェンダーの基準量を滴下投与しました。10日後に寄生数を確認したところ、プラセボ(偽薬)グループの幾何平均が16.8匹だったのに対し、プロフェンダーグループのそれは0匹(駆虫率100%)だったといいます。

鉤虫(幼体と未成熟虫)への効果

 鉤虫のL4幼体と未成熟虫に人為的に寄生させた32頭(オス17頭 | 11~16週齢 | 0.7~2.2kg)の猫たちを8頭ずつ4つのグループに分け、2つにはプラセボ、1つには寄生から7日後のタイミングでプロフェンダー基準量、1つには寄生から14日後のタイミングでプロフェンダー基準量を滴下投与しました。投与から5日後のタイミングで寄生数を比較したところ、プラセボグループのL4幼体数が29.4~137.8匹だったのに対し滴下グループのそれが1.8~1.9匹で、駆虫率は95.3%~98.7%と算定されました。またプラセボグループの未成熟虫数が76.1匹だったのに対し滴下グループのそれが1.9匹で、駆虫率は97.6%だったとも。

猫条虫への効果

 猫条虫の寄生が確認された20頭(オス5頭 | 1.7~4.6kg)の猫たちをランダムで2つのグループに分け、一方にだけプロフェンダーの基準量を滴下投与しました。11日後に寄生数を比較したところ、プラセボグループの幾何平均が2.6匹だったのに対しプロフェンダーグループのそれが0匹で、駆虫率は100%と算定されました。

瓜実条虫への効果

 瓜実条虫に自然感染した40頭(オス15頭 | 2.1~4.2kg)の猫たちをランダムで10頭ずつからなる4つのグループに分け、1つにはプラセボ(偽薬)、1つにはプロフェンダー基準量の1/2倍量、1つには1倍量、1つには2倍量を滴下投与しました。10日後に寄生数を比較したところ、プラセボグループの幾何平均が8.5匹だったのに対し1/2倍量グループのそれが1.3匹で、駆虫率は84.4%と算定されました。また残りの滴下グループにおける駆虫率はともに100%だったとも。
添付文書には記載されていませんが、フィラリアの成虫に対し若干の駆虫効果があります。滴下前に必ず検査を受け、フィラリアが寄生していないことを確認してください。自己判断で使用すると、最悪のケースでは分解した虫体により塞栓症が引き起こされます。