遺伝子編集による低アレルゲン猫
実験を行ったのは米国ユタ国際大学と韓国慶尚国立大学校からなる共同チーム。実験の足がかりとなったのは20年ほど前からあった「猫アレルゲンのCH1とCH2の間にあるジスルフィド結合を分断すると人のIgEに対するアレルギー反応を減らすことができる」という予言、および2022年に実験室レベルで成功した遺伝子編集技術を用いたFel d 1の完全消去です。
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代理母が2頭の子猫を出産。T7EIアッセイおよびサンガーシーケンスで塩基配列を調べたところ、オス1頭(名:Heavy)でモザイク変異(受精卵から細胞が分裂し分化する過程である細胞に変異が生じて部分的に増殖・集団形成したもの)、メス1頭(名:Haemi)でヘテロ接合変異が確認された ↓
変異猫(HeavyとHaemi)をかけ合わせて生まれた猫(Alsik)の唾液中および被毛中Fel d 1をELISAで計測し、遺伝子変異を持たない野生型に比べて劇的に少ないことを確認 ↓
AlsikをCICT(cytoplasm injection clone technology)でクローン化
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生み出されたクローン猫Alsik-Cをマイクロサテライト分析し、オリジナルである低アレルゲン猫Alsikとの同一性を確認 Generation of Fel d 1 chain 2 genome-edited cats by CRISPR-Cas9 system
Lee, S.R., Lee, KL., Song, SH. et al., Sci Rep 14, 4987 (2024), DOI:10.1038/s41598-024-55464-0
上記した2つの知見にヒントを得たチームは、「生体内でジスルフィド結合を分断できたら、アレルゲン(Fel d 1)生成量が少ない猫が生まれるはずだ」という仮説の検証を行いました。実験の大まかな流れは以下です。
CRISPR-Cas9と呼ばれる技術を用い、猫の1細胞期胚に操作を加えてCH2遺伝子を編集。CH1とCH2の間にあるジスルフィド結合を分断した上で胚を代理母猫の卵管に移植↓
代理母が2頭の子猫を出産。T7EIアッセイおよびサンガーシーケンスで塩基配列を調べたところ、オス1頭(名:Heavy)でモザイク変異(受精卵から細胞が分裂し分化する過程である細胞に変異が生じて部分的に増殖・集団形成したもの)、メス1頭(名:Haemi)でヘテロ接合変異が確認された ↓
変異猫(HeavyとHaemi)をかけ合わせて生まれた猫(Alsik)の唾液中および被毛中Fel d 1をELISAで計測し、遺伝子変異を持たない野生型に比べて劇的に少ないことを確認 ↓
AlsikをCICT(cytoplasm injection clone technology)でクローン化
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生み出されたクローン猫Alsik-Cをマイクロサテライト分析し、オリジナルである低アレルゲン猫Alsikとの同一性を確認 Generation of Fel d 1 chain 2 genome-edited cats by CRISPR-Cas9 system
Lee, S.R., Lee, KL., Song, SH. et al., Sci Rep 14, 4987 (2024), DOI:10.1038/s41598-024-55464-0
ついに登場?低アレルゲン猫
「低アレルゲン猫」という概念は一昔前までは実証データを伴わないガセネタでしたが、遺伝子編集技術が発達した現代では必ずしも夢物語ではないようです。
猫の体への悪影響は?
猫のアレルゲンのうち最も発症頻度が高いFel d 1に関しては、ウサギのウテログロビンと共通性が高いことから、免疫調整や上皮防御など何らかの生理的な役割を担っている可能性が示唆されています。ですから体内における明確な存在意義がわからないまま遺伝子レベルでノックアウトしてしまうと、思わぬ健康被害が出てしまうかもしれません。
今回の調査では不測の悪影響を確認するため4つの候補領域に絞り込んで解析しましたが、オフターゲット効果は認められませんでした。
今回の調査では不測の悪影響を確認するため4つの候補領域に絞り込んで解析しましたが、オフターゲット効果は認められませんでした。
- オフターゲット効果
- 本来の標的(on-target)とは異なる別の分子(off-target)を阻害あるいは活性化してしまう効果
猫アレルギー対策の新たな選択肢?
近年の猫アレルギー対策としては、抗Fel d 1抗体を含んだワクチンを人に接種して症状を軽減するとか、卵黄由来の免疫グロブリン(IgY)を含んだフードを猫に給餌することでFel d 1の生成量を抑えるといった方法が開発されています。今回の方法が実用化すると、「そもそもアレルゲンを出さない猫を作る」という画期的な選択肢が加わることになります。
遺伝子をいじくる工程は自然繁殖の流儀から著しく隔たっており心理的抵抗が強いですが、ペットをクローン化するビジネスが成立する国もあるようですので、近い将来「ハイポアレジェニック・キャット」が富裕層向けに売り出される可能性は否めません。
遺伝子をいじくる工程は自然繁殖の流儀から著しく隔たっており心理的抵抗が強いですが、ペットをクローン化するビジネスが成立する国もあるようですので、近い将来「ハイポアレジェニック・キャット」が富裕層向けに売り出される可能性は否めません。