猫の歯周病と酸化ストレス
調査を行ったのはイランにあるテヘラン大学獣医学科のチーム。歯周病の重症度と全身性疾患との関連性を確かめるため、両者をつなぐ「酸化ストレス」に焦点を絞った回顧調査を行いました。
調査対象
調査の対象となったのは2022年から23年にかけ、テヘラン大学獣医教育病院で身体検査、ラボ検査、腹部超音波検査を同日内に行った50頭の猫たち。うち25頭は中等度(PAL:2~3mm)~重度(PAL3mm超)の歯周炎が3歯以上で見られた患猫群、残りの25頭は年齢、性別、品種にばらつきが出ないよう選別された歯周炎を抱えていない対照群とされました。両群とも「臨床上健康」が条件です。
すべての猫から橈側皮静脈を通して血液を採取すると同時に、歯肉縁下の歯垢を採取して細菌培養が行われました。血清検査項目の中で酸化ストレスに直結するものは以下です。
酸化ストレスの指標
- 総抗酸化能(TAC)生体内で働く様々な抗酸化物質を総合的に評価する指標。抗酸化物質には尿酸、アスコルビン酸(ビタミンC)、グルタチオンなどが含まれる
- 総酸化能(TOS)血中に含まれる酸化性物質の総称
- グルタチオン還元型グルタチオン(GSH)が酸化ストレスを受けて酸化型グルタチオン(GSSG)に変換される性質を利用し、GSHとGSSGの比率から酸化ストレスの度合いを測る
調査結果
調査の結果、歯周病を抱えた患猫群と対照群との間で、統計的に以下のような有意差が認められました。
歯周インデクスはすべての酸化要素と有意な正の相関が認められ、総じて抗酸化要素より酸化要素(TOSやOSI)の方が酸化ストレスの状態を忠実に反映する傾向が認められました。 Moderate to advanced periodontitis contributes to increased oxidative stress in cats: a case-control study
Moosavian, H., Gholikhani, M., Tamai, I.A. et al., BMC Vet Res 20, 248 (2024), DOI:10.1186/s12917-024-04110-y
患猫群 vs 対照群
- 歯周炎群>対照群・総酸化能(TOS)
・GSSG
・GSSG:GSH比率
・酸化ストレス指標(OSI=TOS:TAC) - 歯周炎群<対照群・総抗酸化能(TAC)
歯周インデクスはすべての酸化要素と有意な正の相関が認められ、総じて抗酸化要素より酸化要素(TOSやOSI)の方が酸化ストレスの状態を忠実に反映する傾向が認められました。 Moderate to advanced periodontitis contributes to increased oxidative stress in cats: a case-control study
Moosavian, H., Gholikhani, M., Tamai, I.A. et al., BMC Vet Res 20, 248 (2024), DOI:10.1186/s12917-024-04110-y
酸化ストレスによる全身への影響
総抗酸化能(TAC)は活性酸素種(ROS)の中和能力や酸化バランスの維持能力を示す指標で、総酸化能(TOS)は酸化ストレスの上昇と組織ダメージの可能性を示す指標です。患猫群でTAC低値およびTOS高値が認められたという事実は、歯周病が酸化ストレスへの脆弱性を促してしまう可能性を強く示唆するものです。
歯周病による影響
歯周病の局所に対する影響としては口腔鼻腔瘻、エンド・ペリオ(歯内歯周)病変、眼科異常、骨髄炎、口腔がんなどがあります。
一方、歯周病の全身に対する影響としては、人では心筋梗塞、犬では肝臓、腎臓、左房室弁の変性・炎症性病変、心内膜炎などが報告されています。また猫では歯周炎の重症度と総グロブリン、ALT、IgG、貧血、低アルブミン血症が相関しており、腎機能低下や慢性腎臓病のリスクファクターになっていることが先行調査で示されています。
一方、歯周病の全身に対する影響としては、人では心筋梗塞、犬では肝臓、腎臓、左房室弁の変性・炎症性病変、心内膜炎などが報告されています。また猫では歯周炎の重症度と総グロブリン、ALT、IgG、貧血、低アルブミン血症が相関しており、腎機能低下や慢性腎臓病のリスクファクターになっていることが先行調査で示されています。
全身波及のメカニズム
猫に対して歯科治療を行った後、炎症性マーカーが著明に改善したという報告および当調査の結果(TOS高値+TAS低値)を総合すると、口腔内で発生する局所的な歯周病が全身に影響を及ぼしうることは否定しづらい事実のようです。なぜ局所病変が全身に波及してしまうのでしょうか?
歯周病は歯垢のバイオフィルムを起源とし、歯周辺の炎症と支持組織の破壊が進行します。その過程で活性酸素種(ROS)が過剰生成され、酸化ストレスが発生して酵素活性の変化、脂質の過酸化、蛋白とDNAダメージ蓄積、遺伝子発現異常が生じ、結果として糖尿病、心血管疾患、神経変性性疾患、がんのリスクを高めます。
このような過程を経て口腔内の局所病変が全身に悪影響を及ぼすものと推測されています。
歯周病は歯垢のバイオフィルムを起源とし、歯周辺の炎症と支持組織の破壊が進行します。その過程で活性酸素種(ROS)が過剰生成され、酸化ストレスが発生して酵素活性の変化、脂質の過酸化、蛋白とDNAダメージ蓄積、遺伝子発現異常が生じ、結果として糖尿病、心血管疾患、神経変性性疾患、がんのリスクを高めます。
このような過程を経て口腔内の局所病変が全身に悪影響を及ぼすものと推測されています。
歯周病変は口の中のみならず、酸化ストレスを通じて全身に影響を及ぼす怖い病気です。デンタルクリーニング>日常的な歯磨き>歯磨き効果のあるおやつやフードの優先順位で猫の口内健康を維持しましょう。