腋窩絞扼外傷の病態と症状
腋窩絞扼外傷(axillary entrapment injury)とは首輪が脇の下にずれこむことで生じる外傷のこと。首輪自体による摩擦ストレスの他、締め付けによる血流不足で組織が崩壊し、皮膚が広範囲にわたってめくれあがります。
受傷部位には線維性の肉芽組織が形成され、毛包や夾雑物のほか傷口から滲出した膿性の分泌液が貯まり、時としてひどい悪臭を放ちます。
一般的な外傷に比べて治りにくいとされる理由には、可動域が広い肘および肩関節の動きによる慢性的な機械ストレス
、傷口で繁殖した細菌が形成するバイオフィルム、免疫不全を引き起こす疾患(FIV | FeLV etc)による治癒の遅延などが想定されていますが、因果関係に関する十分な検証はなされていません。
CHRONIC AXILLARY
WOUNDS IN CATS: What do we know and how should we manage them?
Journal of Feline Medicine and Surgery (2023), Rodrigo Domingues Paulino and John M Williams, DOI:10.1177/1098612X231162880
Journal of Feline Medicine and Surgery (2023), Rodrigo Domingues Paulino and John M Williams, DOI:10.1177/1098612X231162880
腋窩絞扼外傷の原因
腋窩絞扼外傷の治療・予後
以下は腋窩絞扼外傷に対する一般的な治療手順です。長いときは完治まで2ヶ月を要します。
初期治療
- 傷口の洗浄生理食塩水を用いて傷口を洗い流し、夾雑物や細菌を物理的に除去します。
- 傷口の掻爬洗浄液では十分に流しきれない組織が付着している場合は、傷口のデブリードマン(壊死した組織の除去, 掻爬)を行います。
- 傷口の保護傷口が悪化したり病原体と接することを防ぐため、保護(ドレッシング)を行います。
- 抗菌薬治療皮膚が損壊して無防備になった部位から病原体が侵入した場合を想定し、二次感染を防ぐための抗菌薬治療を行います。取り急ぎ広域スペクトラムを投与した後、感受性検査の結果を待ってピンポイントの投薬に切り替えます。
離開を防ぐ
- 傷口の縫合損壊した傷口を塞ぐため、軽症の場合は縫合を行って離開部分をつなぎ直します。
- 網移植網(もう)とは消化管に付随する腹膜のひだのことで、脂肪細胞、線維芽細胞、リンパ球などから構成されています。傷口におけるデッドスペースを減らし血液やリンパ液の供給を適正化して癒着と血管新生を促すため、縫合に先立って網移植が行われることもあります。
- 皮膚弁移植皮膚弁(スキンフラップ)とは脇腹や肘の余った皮膚のこと。傷口を覆うため、余剰皮膚をフラップとして利用することがあります。
猫における首輪の必要性は慎重に吟味する必要があります。少なくとも放し飼いや迷子にしないよう注意しましょう。