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嫌がる猫に首輪は必要か?~種類・目的から危険性・効果まで

 飼い猫に首輪をしている人がいますが、そもそも何を目的としているのでしょうか?首輪に潜む危険性を考え合わせたとき、本当に必要と言えるのでしょうか?各種のデータとともに判断する際のヒントをご紹介します。

猫向け首輪の種類

 猫用の首輪を機能面から分類したときの大まかなタイプは以下です出典資料:Calver, 2013)。なお頭部への接触を防ぐ目的で装着される医療用の「エリザベスカラー(Eカラー)」はかなり特殊な例なので除外してあります。
猫用首輪のタイプ
  • 固定型首輪固定型とは引っ張っても取れないタイプの首輪のことです。ベルトの素材は丈夫なナイロンや皮革などで、ジョイント部はプラスチックや金属のバックルによって締められています。猫の首輪の種類~伸びたり外れたりしない固定型
  • リリース型首輪リリース型とは強い力で引っ張るとジョイント部分が自然に外れるタイプの首輪のことです。「クイックリリース」「セーフティバックス」「安全カラー」などとも呼ばれ、バックル付近もしくはバックルと逆側に力がかかると外れる仕組みになっています。 猫の首輪の種類~外圧によって容易にジョイント部が外れるリリース型
  • 伸縮型首輪伸縮型とはベルトが伸縮性素材でできた首輪のことです。引っ張っても伸びるだけでジョイント部が外れることはありません。変則的に「シュシュ」のようなデザインの商品もあります。猫の首輪の種類~圧力に応じてベルトが伸び縮みする伸縮型
 固定型やリリース型に関しては猫の首と首輪の間に人の指が2本入るくらいの締め具合がちょうどよいとされています。

猫に首輪をする理由・目的

 猫に首輪を装着する理由は国や地域の法規制、個人の飼育スタイル、居住地域の環境などによって変わります。代表的な目的は以下です出典資料:Arhant, 2022)
首輪の理由・目的
  • 個体識別猫を多頭飼育している一般家庭、もしくは多くの保護猫を一箇所で世話しているシェルター施設において、個体を識別するために首輪が用いられることがあります。
  • 居場所認識猫の首輪に鈴を装着し、家の中での居場所がすぐわかるようにしている人がいます。人によってはうっかり踏んでしまうことを予防するという意味合いがあるかもしれません。
  • 行動記録室内における猫の行動をモニタリングするための高周波デバイスの土台として首輪が利用されることがあります。猫の室内モニタリングデバイス「Catlog」
  • 迷子対策万が一迷子になった際の再会率を高めるため、首輪に反射材をつけたり飼い主情報を記載することがあります。
  • 寄生虫予防首輪の中にノミやダニに対する予防効果を持った成分が練りこまれていることがあります。
  • 電子キー猫の首輪から発せられる何らかの信号を電子キーとしているグッズがあります。例えばキャットフラップ(猫用扉)や個体識別型フィーダーなどです。壁に取り付けられた猫用扉(キャットフラップ)
  • トラッキングデバイス屋外行動を許容している国や地域においては、猫の首輪にGPS機能を持たせて迷子対策や行動調査のトラッキングデバイスとして利用している人がいます。
  • 生態系保護猫を屋外に放すことが習慣化している国や地域においては、捕食行動を減らすことを目的として首輪が用いられることがあります。鈴をつけただけの単純なものから、赤ちゃんのよだれかけのようなデザインで被捕食動物の危機感を煽り、逃走行動を促すようなものまであります。さまざまな調査報告があるものの、その効果に関しては疑問です。 狩猟防止アイテムは外猫の行動範囲までは減らしてくれない よだれかけのような形をした猫の狩猟抑制アイテム「CatBib」
  • おしゃれただ単に可愛いからとかおしゃれだからという理由で猫に首輪を装着する人もいます。

迷子対策としての首輪の効果

 「首輪をする理由・目的」で解説した通り、迷子対策を目的として首輪を装着するパターンがあります。しかし過去のデータを見る限り、首輪の装着が飼い主との再会率を高めているとは言えないようです。
 例えば迷子になった時点で迷子札をもっていた猫18頭のうち、迷子札が再会のきっかけになった割合はわずか5.6%(1/18)だったとか、迷子札をもっていた猫19頭のうちそれが再会のきっかけになった割合はわずか5.3%(1/19)で、迷子札の有無と再会率との間に格差はなかったといった報告があります出典資料:Slater, 2012 | 出典資料:Lord, 2007)
 ではなぜ首輪の装着が思ったように再会率の向上につながらないのでしょうか? 庭に掲示された迷子猫の捜索願

首輪の高い紛失率

 首輪を装着していても屋外で紛失してしまえば、飼い主情報とともに失われて再会率は高まりません。
 538頭の猫たちを対象とした観察実験では、6ヶ月間で36%の首輪が擦り切れてヨボヨボになったといいます出典資料:Load, 2010)。タイプ別では固定型が24%、リリース型が16%、伸縮型が60%となり、この格差は有意と判断されました。また外れる確率に関しても固定型が14%、リリース型が39%、伸縮型が53%で有意差と判断されました。つまり猫が首輪を外そうと四苦八苦しているうちにベルト部分が擦り切れて高い確率で外れてしまうということです。
 さらに、飼い主が気づかないうちに首輪が外れていた181頭に限定して調べを進めたところ、固定型が33%、リリース型が69%、伸縮型が52%だったといいます。このデータから猫が足で首輪に圧力を加えることでリリース機構が作動し、勝手に外れてしまうものと推測されます。
 43頭の猫を対象とした別の調査では、わずか7日間のうちに9頭(21%)が紛失したといいますので、外れるまでに必ずしも長い時間を要するわけではないようです出典資料:Hanmer, 2017)
 上記したように猫の首輪はかなり短期間のうちに外れてしまうリスクを抱えていますので、迷子になっている時間が長引くほど飼い主情報が失われて再会できる可能性も低下してしまいます。

首輪と猫の捕獲率

 迷子猫と飼い主が再会するためには「猫のIDを読み取れる第三者に保護されること」および「保護した第三者に飼い主が接触すること」の両条件が必要になります。ではそもそも、猫が首輪を装着していると誰かに保護される確率は高まるのでしょうか?
 猫がたまたま誰かの敷地内に迷い込み、なおかつ他人の接触を許すほど人馴れしている場合は、家主が首輪に記載された飼い主情報を読み取る可能性が高まるかもしれません。あるいは地域猫活動が盛んな区域においては、首輪をつけた見慣れぬ猫を見かけると積極的に捕まえて飼い主情報を探してくれるかもしれません。
 しかし見知らぬ世界に迷い込んだ恐怖感から、猫が人目につかないよう草むらに隠れていたらどうでしょう?この場合、いくら首輪に飼い主情報が含まれていたとしても、それを読み取る第三者との接点がありませんので全くの無意味になります。
 さらに道端を歩いている首輪付きの猫を見た人が、迷子猫ではなく単なる放し飼いと勘違いしたらどうでしょう?この場合、保護どころか逆に「誰かの飼い猫でしょ」と見なされて積極的に放置される危険性すらあります。
 首輪をしていることで猫の捕獲率が高まらない限り、飼い主との再会率も高まりません。首輪の装着と捕獲率との間に明白な関連性がない限り「首輪をしているから迷子になっても大丈夫」という考えは根拠のない思い込みということになります。

猫の首輪に潜む危険性

 どのタイプだろうと、猫の首輪は決して100%安全ではありません。例えば首輪に関連した症例の発生率(ある一定期間中に発生した新患の割合)に関し、英国内で4年間を調査対象とした報告では0.17%(26/15,000例)、豪州内で3年間を調査対象とした別の報告では0.34%(15/4,460例)とされています出典資料:Brinkley, 2007 | 出典資料:Calver, 2013)
 では首輪がもたらす危険には一体どのようなものがあるのでしょうか?

不快感・ストレス

 首に装着された異物のせいで猫が強い不快感を抱いてしまうことがあります。
 例えば英国内で113人の飼い主を対象とした調査では、26%の人が猫の怪我もしくは不快感を理由に装着をやめたといいます出典資料:Thomas, 2014)。また首輪の装着をやめた210人の飼い主を対象とした調査では、その理由に関し9%が「猫が首輪を嫌ったから」、5%が「猫が鈴を嫌ったから」と回答しています出典資料:Load, 2010)

皮膚の病変

 猫に装着した首輪が皮膚病変(痛み・紅斑・痂皮・水疱・毛玉・脱毛)の原因になってしまうことがあります。
 首輪に含まれる何らかの成分に対してアレルギー反応が起こってしまうパターンのほか、 首輪の摩擦で皮膚が炎症を起こしてしまうパターンや首の違和感を解消しようとして猫自身が後ろ足でガリガリと引っ掻いてしまうパターンがあります。

首絞め事故

 子猫に首輪を装着したまま迷子にしてしまうと、体の大きさと首輪のサイズが少しずつ合わなくなり、結果として首しめ縄のような状態になってしまいます。

首吊り事故

 室内だろうと屋外だろうと、首輪が何かに引っかかって首吊り状態になってしまうことがあります。
 リリース型の首輪であっても、想定通りの方向に圧力がかからず首吊り状態になってしまうケースが少なくないため、「安全カラー」という名称自体が誤解を招く危険なものであるという指摘もあります。

たすき掛け事故

 首輪を外そうともがいた挙句、ベルト部分が脇の下に挟まってちょうど「たすき掛け」のような状態になってしまうことがあります。
 伸縮型に多いイメージがありますが、538頭の猫たちを対象とした半年に及ぶ観察実験では、固定型でもリリース型でもこの事故が同レベルで起こることが確認されています出典資料:Load, 2010)。また少数ながら怪我が原因で死亡した例も報告されています出典資料:RSPCA, 2021)ずれた首輪が脇の下に挟まり皮膚が壊疽を起こしてしまった飼い主不明の野良猫

猿ぐつわ事故

 首輪を外そうともがいた挙句、口(下顎)にベルト部分が引っかかってちょうど猿ぐつわのような状態になってしまうことがあります。また他の猫が装着した首輪に噛み付くことで下顎に引っかかってしまう可能性もあります。受傷部位は唇、歯、歯茎などです。

首輪は本当に必要?

 猫に首輪を装着する理由が何であれ、首輪が内包する危険性を考え合わせた上で差引勘定する必要があります。

首輪事故はどこでも起こる

 屋外だろうと室内だろうと「首輪に潜む危険性」で紹介したような事故は起こりえます。ただ単にファッションやインスタ映えのためだけに蝶ネクタイやリボンタイプの首輪を装着しているのでしたら、飼い主が得られるものより猫が被るデメリットの方が上回ってしまうのではないでしょうか。

迷子対策には限界あり

 「単なるファッションじゃない。猫が万が一迷子になったときの対策として首輪をつけているんだ」という場合、首輪の装着と猫の捕獲率が連動していない限り、飼い主との再会率は高まらないことは理解しておく必要があります。「首輪をつけているから迷子になっても大丈夫!」という安易な思い込みから猫を放し飼いにしている人は、そのうち足をすくわれるでしょう。

首輪で交通事故は防げない

 首輪に関連した患猫の発生率は0.17%~0.34%で多くが軽症例であるのに対し、猫の急患を受け付けている英国内の医療機関における交通事故の発生率は4.2%とされています出典資料:Conroy, 2019 )
 首輪を付けていようといまいと猫が屋外にいる限り交通事故、感染、虐待のリスクは常につきまといますので、まずは「猫を放し飼いにしない」「猫を迷子にしない」ことが最重要です。この大前提を守った上で「首輪をする理由・目的」をじっくり考え、本当に必要かどうかを判断すれば猫に強要するストレスや危険性を最小限に抑えられるでしょう。 猫を放し飼いにしてはいけない理由 首輪を装着した猫の横顔