猫の埋葬によるSFTS感染
2023年、 国立感染症研究所が発行している「Japanese Journal of Infectious Diseases」において、猫の死体を埋葬した高齢女性がSFTSに感染するという症例が短報という形で報告されました。明白な噛み傷や引っかき傷を介さない特異な症例であるため以下で簡単にご紹介します。
2022年1月、3歳から4歳くらいのオスの地域猫が体調を崩した様子で民家にやってきた。日頃から餌を与えていた83歳(当時)の女性はこの猫を見つけ、捕獲して動物病院へ連れて行った。猫は39.5℃の高熱、脱水、黄疸、白血球減少を示していたが、即座には診断が下されないまま発症から7日目に死亡。遺体は女性が自宅の庭に埋葬した。
埋葬から9日後、今度は女性の方が発熱、倦怠感、下痢、白血球減少(1270/μL)、好中球減少(890/μL)といった症状を示し始めた。発症から7日目に顆粒球コロニー刺激因子を処方したが白血球数に好転は見られず、9日目になって宮崎大学へと回された。
病院ではRT-PCR検査でSFTSウイルスのRNAおよびELISA検査で抗体陽性反応を検出し、最終的にSFTSと診断された。幸運にも女性は発症から29日目、回復転院した。
猫の埋葬から40日後、死体を掘り返して肝臓からRNAを検出し、女性の血清と比較照合したところ、ウイルスの塩基配列が100%同一と判明。系統発生的には2013年に宮崎県内で単離されたウイルスと最も近かった(SPL105A Miyazaki2013, 99.83%)。
女性への聞き取りを通し猫に噛まれたり引っ掻かれたりした記憶がないことから、埋葬時に猫の遺体から流れ出た血液を素手で触ったことが感染ルートと推定された。 Possible Transmission of Severe Fever with the Thrombocytopenia Syndrome Virus to an Individual Who Buried an Infected Cat
Hirohisa Mekata, Takeshi Kawaguchi, Japanese Journal of Infectious Diseases(2023) , DOI:10.7883/yoken.JJID.2022.425
埋葬から9日後、今度は女性の方が発熱、倦怠感、下痢、白血球減少(1270/μL)、好中球減少(890/μL)といった症状を示し始めた。発症から7日目に顆粒球コロニー刺激因子を処方したが白血球数に好転は見られず、9日目になって宮崎大学へと回された。
病院ではRT-PCR検査でSFTSウイルスのRNAおよびELISA検査で抗体陽性反応を検出し、最終的にSFTSと診断された。幸運にも女性は発症から29日目、回復転院した。
猫の埋葬から40日後、死体を掘り返して肝臓からRNAを検出し、女性の血清と比較照合したところ、ウイルスの塩基配列が100%同一と判明。系統発生的には2013年に宮崎県内で単離されたウイルスと最も近かった(SPL105A Miyazaki2013, 99.83%)。
女性への聞き取りを通し猫に噛まれたり引っ掻かれたりした記憶がないことから、埋葬時に猫の遺体から流れ出た血液を素手で触ったことが感染ルートと推定された。 Possible Transmission of Severe Fever with the Thrombocytopenia Syndrome Virus to an Individual Who Buried an Infected Cat
Hirohisa Mekata, Takeshi Kawaguchi, Japanese Journal of Infectious Diseases(2023) , DOI:10.7883/yoken.JJID.2022.425
屋外動物との接し方
小さな傷口に注意
考えられるのは、自分でも気づかないような小さな傷口からウイルスが入り込んだという可能性です。一例としては指先のささむけ、耳かきを使ったときについた外耳道のミクロトラウマ、睡眠中にガリガリとかいた頭皮の傷などがあります。感染ルートとしては「ウイルスを含んだ猫の血液や唾液を素手で触る→ウイルスが手についた状態のまま自分の傷口を触る→ウイルスが血流に入る→感染」などが想定されます。
外猫との接触では防護を
SFTSは西日本に集中しており、今回の症例報告がなされた宮崎県はエンデミックエリアの1つです。
感染リスクが高い地域においてはマダニだけでなく、マダニと接触する可能性があるあらゆる生物が媒介動物になり得ます。獣医療関係者や外猫と接する機会が多い人(保護ボランティア・TNR・地域猫活動)は特に気をつける必要があるでしょう。「差別しているようで嫌!」という感情的な理由で適切な防護を怠ると、感染によって猫を助けるために必要な人的リソースが削られ、救われる猫たちの数が結果的に減ってしまいます。これでは猫も人も幸せになれませんね。
屋外作業における基本はダニ対策。外猫と接するときは擦り傷や引っかき傷ができないよう、厚手の福や手袋で防護しましょう。