詳細
2017年7月24日、厚生労働省健康局は都道府県の衛生主管部長や日本獣医師会などに対して「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に係る注意喚起について」(→PDF)と題された通達を出し、ペット動物から人間に致死率の高い感染症が移ってしまう可能性があることを指摘しました。この背景には、50代の女性が「SFTS」を発症した猫に噛まれて死亡したという症例があるようです。「SFTS」の基本情報、および女性の死亡事例に関する概要は以下です。
SFTSについて
- どのような病気? SFTSウイルスが体内に侵入することにより、重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome: SFTS)が引き起こされる病気。日本では2013年1月に最初の症例が確認された。2017年時点で発症が確認されているのは日本、中国、韓国の3国のみ。
- 診断 特異的な症状がないため、臨床所見や血液検査だけから診断を下すことは不可能。確定診断には地方衛生研究所や国立感染症研究所によるウイルス学的検査が必要。なおSFTSは感染症法上の「四類感染症」に位置付けられてるため、SFTSと診断された場合は最寄りの保健所に届け出る義務がある。
- 症状 6日~14日間程度の潜伏期間を経て、発熱、食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛といった消化器症状が出現する。その他、頭痛、筋肉痛、リンパ節腫脹、呼吸不全といったインフルエンザ様症状が出たり、神経症状(意識障害・けいれん・昏睡)や出血症状(歯肉出血・紫斑・下血)が出現することもある。
- 感染経路✓マダニ→人
✓動物→人
✓人→人 どのパターンにしても、感染生物の血液や体液が傷口などを通して人の血流に入ることが必要。
人間への感染が確認されているマダニはフタトゲチマダニとタカサゴキララマダニ。ウイルスを保有している、もしくはかつて体内にウイルスを保有していた(抗体が存在する)ことが確認されている哺乳動物には、猫、犬、シカ、イノシシ、アライグマ、タヌキ、アナグマ、イタチ、ニホンザル、ウサギなどがいる。また中国や韓国では、患者血液との直接接触が原因と考えられる人から人への感染事例も報告されている。 - 致命率 2014~2016年の推計では、致命率は約20%(※致命率=ある特定の病気にかかったと診断された患者のうち、一定の期間内に死亡した患者の割合)。
- 治療 有効な治療法はない。症状が重症化しないよう対症療法を行い、患者の免疫力がウイルスを駆逐してくれるのを待つしかない。
SFTS死亡事例
解説
発生から1年たって急に症例が報告されるというのはおかしな話ですが、おそらく2017年に入り、ペットとして飼われている猫や犬がSFTSを発症した事例が立て続けに確認されたことをきっかけとして警戒を強めたのだと考えられます。「知っていたのになぜ教えてくれなかったんだ!」という非難をかわすため予防線を張ったと見ることもできるでしょう。犬、および猫の感染事例は以下です(→出典)。
過去に行われた調査により、感染動物の糞便やおしっこにはウイルスが含まれていることが確認されています。しかし涙、鼻汁、唾液といったその他の体液に関しては「おそらく」含まれているだろうという漠然とした事しかわかっていません。「噛まれたぐらいではウイルスが移らないのではないか?」という印象を持ってしまいますが、よくよく考えると、猫には「自分の股間を舐める」、犬には「自分のうんちを食べる」という習性があります。つまり唾液にウイルスが含まれていようがいまいが、上記したような習性を通して糞便に含まれるウイルスが口の中に移動してしまう可能性を否定できないのです。 女性の死亡事例により、これまで理論上だった「ペットから人へのSFTS感染」という可能性が現実的なものとなりました。飼い主として気をつけるべき事は分けて解説してありますので、以下のページをご参照ください。
ペット動物とSFTS
- 猫の感染事例 SFTSの流行地に暮らすペット猫が、発熱、消化器症状を呈して来院。血液および直腸スワブからSFTSウイルスが分離されたため入院。入院から2週で自力回復し、4週目には退院した。回復期にむけて抗体値の上昇が見られた。猫への感染経路は不明だが、室内と屋外を行き来できる状況だったことから、外でマダニに刺されたものと推定される。
- 犬の感染事例 雑種4歳(避妊メス)が元気消失と食欲不振を主訴として来院。発熱や消化器症状など猫のSFTSと類似した症状を示していた。急性期にはウイルス血症が見られたものの、その後IgM抗体、IgG抗体値が上昇。免疫力で自力回復した。多くの犬は感染しても症状を示さない「不顕性感染」だと考えられるが、宿主の免疫状態によっては発症する可能性がある。
過去に行われた調査により、感染動物の糞便やおしっこにはウイルスが含まれていることが確認されています。しかし涙、鼻汁、唾液といったその他の体液に関しては「おそらく」含まれているだろうという漠然とした事しかわかっていません。「噛まれたぐらいではウイルスが移らないのではないか?」という印象を持ってしまいますが、よくよく考えると、猫には「自分の股間を舐める」、犬には「自分のうんちを食べる」という習性があります。つまり唾液にウイルスが含まれていようがいまいが、上記したような習性を通して糞便に含まれるウイルスが口の中に移動してしまう可能性を否定できないのです。 女性の死亡事例により、これまで理論上だった「ペットから人へのSFTS感染」という可能性が現実的なものとなりました。飼い主として気をつけるべき事は分けて解説してありますので、以下のページをご参照ください。