トップ2023年・猫ニュース一覧1月の猫ニュース1月14日

猫を長生きさせる方法は?~ペット猫の寿命と死因統計から見る飼い主にできること

 死亡した後、原因を特定するための解剖に回された猫たちを元データとし、死因や寿命に影響を及ぼす因子がアメリカで調査されました。死因がわかれば猫を長生きさせるためのTIPSも見えてきます。

ペット猫の死因と寿命統計

 調査を行ったのはカリフォルニア大学デービス校。1989年から2019年までの期間、同大学付属の獣医療教育病院に死後解剖を目的として回されてきた患猫を対象とし、死因や寿命に関する統計データがまとめられました。選別条件は「飼い主がはっきりしているペット猫」で、除外条件は保護施設出身の猫、研究施設の猫、飼い主がはっきりしない猫とされました。
 上記条件でスクリーニングしたところ、3,511あった症例が最終的に3,108にまで絞り込まれたといいます。1年間の死後解剖数は2,288件(中央値)で、年々減少する傾向が見られました。主な調査結果は以下です。

患猫たちの基本属性

 解剖案件の割合は動物病院を受診した猫全体のうち4.59%(中央値)でした。また体重に関する記録があった2,962頭における中央値は4.0kg、年齢が判明した2,974頭における死亡時年齢の中央値は9.07歳でした。
不妊手術ステータス
  • 未手術のメス=176(5.66%)
  • 避妊済みのメス=1,239(39.86%)
  • 未手術のオス=216(6.95%)
  • 去勢済みのオス=1,476(47.49%)
品種
  • 品種不明=2,618(84.2%)
  • 純血種(26品種)=490(15.8%)
介入の有無
  • 安楽死=2,596(83.5%)
  • 自然死=512(16.5%)
 安楽死となった猫たちの死亡時年齢が中央値で9.21歳だったのに対し、自然死(=人為的な致死処置をしてない)した猫たちのそれは8.27歳となり、両者の差は統計的に有意とされました。

飼育環境

 飼育環境が判明した2,284頭のうち完全室内飼育が1,023(44.8%)、完全屋外飼育が190(8.3%)、内外半々が1,071(46.9%)という内訳でした。
 飼育環境別に猫全体の死亡時年齢を比較したところ、室内飼育が9.43歳、屋外飼育が7.25歳、半々が9.82歳となり「室内≒半々>室外」という統計格差が認められました(下グラフ中の矢印参照)。ただしこの勾配は猫の死亡時年齢を1歳以上に限定すると消えたそうです(室内飼育:9.98歳/屋外飼育:9.80歳/半々:10.09歳)。 猫の飼育環境別に見た死亡時年齢中央値比較グラフ  猫の性別および不妊手術ステータス別に見た飼育環境比率は以下です。
メスの避妊手術と飼育環境
メス猫の不妊手術ステータスと飼育環境一覧グラフ
  • 未手術のメス・室内飼育=38(42.22%)
    ・屋外飼育=12(13.33%)
    ・半々=40(44.44%)
  • 避妊済みのメス・室内飼育=458(49.09%)
    ・屋外飼育=1264(6.86%)
    ・半々=411(44.05%)
オス猫の去勢手術と飼育環境
オス猫の去勢手術ステータスと飼育環境一覧グラフ
  • 未手術のオス・完全室内飼育47(34.56%)
    ・完全室内飼育35(25.74%)
    ・半々154(39.71%)
  • 去勢済みのオス・完全室内飼育480(42.67%)
    ・完全室内飼育79(7.02%)
    ・半々566(50.31%)
 メス猫に関しては避妊手術の有無に関わらず飼育環境の比率に格差はみられませんでした。一方、オス猫に関しては去勢手術を受けておらず生殖能力を保った状態の猫が屋外飼育されている割合が高いと判定されました(上グラフの矢印参照)。

FeLVとFIV

 イエネコにおいて高い感染率が確認されているレトロウイルス(FeLVとFIV)と寿命との関連性が検証されました。多変量解析の結果、「FeLV陽性+未手術」という組み合わせが生存期間の短縮に関連していました。

FeLV

 猫白血病ウイルス(FeLV)と飼育環境の両方の情報が揃っていた1,296頭を調べた結果が以下です。
飼育環境とFeLV陽性率
  • 室内飼育=592頭/陽性率4.56%
  • 屋外飼育=106頭/陽性率14.15%
  • 半々=598頭/陽性率6.02%
 FeLV陽性率に関しては室内飼育と半々飼育が同等でしたが、室外飼育は統計的に両者よりも高いと判定されました。また死亡時年齢に関し、FeLV陽性猫が3.89歳だったのに対しFeLV陰性猫が8.70歳で、統計的に有意な差と判定されました。さらに患猫たちを1歳以上に限定しても、FeLV陽性猫4.28歳、FeLV陰性猫9.42歳という統計差が依然として残りました。

FIV

 猫エイズウイルス(FIV)と飼育環境の両方の情報が揃っていた1,133頭を調べた結果が以下です。
飼育環境とFIV陽性率
  • 室内飼育=530頭/陽性率4.72%
  • 屋外飼育=91頭/陽性率9.90%
  • 半々=512頭/陽性率5.47%
 FeLVとは違いFIVは飼育環境による陽性率の格差は認められませんでした。また死亡時年齢に関し、FIV陽性猫が9.19歳だったのに対しFIV陰性猫が8.65歳とわずかな差が見られたものの、統計的には非有意と判定されました。さらに1歳以上に限定してもFIV陽性猫9.38歳、FIV陰性猫9.26歳と有意差は認められませんでした。

不妊手術

 多変量解析の結果、「避妊メス」もしくは「去勢オス」という項目が生存期間の延長と関連していました。
 死亡時の年齢中央値に関し、未手術メスが1.05歳だったのに対し避妊済みメスは10.28歳と極端な差が見られ、両者の間には統計的に有意な差が認められました。またメス猫の年齢を1歳以上に限定した場合も未手術メスが4.68歳に対し避妊済みメスが10.48歳でやはり有意差が残りました。
 同じく死亡時の年齢中央値に関し、未去勢オスが0.79歳だったのに対し去勢済みオスは9.55歳と極端な差が見られ、両者の間には統計的に有意な差が認められました。またオス猫の年齢を1歳以上に限定した場合も未去勢オスが3.67歳に対し去勢済みオスが9.84歳でやはり有意差が残りました。

猫の死因・臓器別分類

 猫の死亡につながったと推測される部位を臓器単位で大別したところ以下のような内訳になりました。「全身」は複数の臓器が同時に障害された状態を指します。
猫の死因・臓器別
臓器別に見た猫の死亡原因一覧グラフ
  • 全身=21.7%
  • 泌尿=13.9%
  • 呼吸=11.4%
  • 神経=10.6%
  • 消化器=10.0%
  • 心血管=9.6%
  • 内分泌=5.6%
  • 肝胆=5.1%
  • 筋骨格=3.8%
  • 造血=3.4%
  • 皮膚=2.5%
  • 生殖=0.7%
  • 眼科=0.2%
 メス猫に関しては皮膚、内分泌、造血を除くすべてのカテゴリで死亡時年齢が未手術<避妊済みという勾配を示しましたが、1歳以上に限定した場合、消化器、肝胆、筋骨格、呼吸、泌尿で見られた統計差が消えたといいます。しかし未手術>避妊済みという勾配が見られたカテゴリは1つもありませんでした。
 オス猫に関しては皮膚、内分泌、生殖、造血、肝胆を除くすべてのカテゴリで死亡時年齢が未去勢<去勢済みという勾配を示しましたが、1歳以上に限定した場合、心血管、筋骨格、泌尿で見られた統計差が消えたといいます。しかし未去勢>去勢済みという勾配が見られたカテゴリは1つもありませんでした。

猫の死因・病態生理学的分類

 猫の死亡につながったと推測される病態生理学的な側面を大別したところ以下のような内訳になりました。
猫の死因・病理別
病態生理学的に分類した猫の死亡原因一覧グラフ
  • がん=35.8%
  • 感染=17.5%
  • 変性=12.0%
  • 不明=10.4%
  • 炎症=6.6%
  • 外傷=4.7%
  • 代謝=4.2%
  • 虚血=3.9%
  • 先天=2.7%
  • 中毒=2.2%
  • 栄養=0.1%
 メス猫に関しては変性、虚血、代謝、がん、中毒を除くすべてのカテゴリで死亡時年齢が未手術<避妊済みという勾配を見せましたが、1歳以上に限定した場合、炎症と先天の有意差が消えたといいます。しかし未手術>避妊済みという勾配が見られたカテゴリは1つもありませんでした。
 オス猫に関しては虚血、代謝、がんを除くすべてのカテゴリで死亡時年齢が未手術<去勢済みという勾配を見せましたが、1歳以上に限定した場合変性、炎症、代謝の統計差が消えたといいます。しかし未手術>去勢済みという勾配が見られたカテゴリは1つもありませんでした。

猫の死因・診断名分類

 猫の死亡につながったと推測される最終的な診断名で大別したところ以下のような内訳になりました。上位4つの死因だけで全体の58.52% を占めています。FIPは致死率が高いことで知られる猫伝染性腹膜炎の略称です。
猫の死因・診断名別
診断名で分類した猫の死亡原因一覧グラフ
  • がん=35.7%
  • 腎不全=10.8%
  • FIP=6.7%
  • 心臓病=5.2%
  • 外傷=3.9%
  • 神経疾患=3.4%
  • 血栓症=3.2%
  • 上部消化管=2.1%
  • 肝リピドーシス=2.0%
  • 脳髄膜炎=1.3%
 がんが確認された症例およそ1,300のうちがんが死因となっていた割合が8割を超えていたのに対し、腎臓疾患が確認された症例およそ2,000のうち腎臓疾患が死因となっていた割合はおよそ2割でした。
Longevity and mortality in cats: A single institution necropsy study of 3108 cases (1989-2019)
Michael S. Kent ,Sophie Karchemskiy, PLoS ONE 17(12): e0278199, DOI:10.1371/journal.pone.0278199

猫の寿命を延ばすには?

 当調査の元データはさまざまな条件でふるいがけされていますので、猫全体の縮図というわけではありません。例えば死亡時年齢の中央値である「9.07歳」は、ペットフード協会が公開した2022年における日本の飼い猫の平均寿命推定値「15.62歳」とはあまりにもかけ離れています。データを直輸入するのは早計ですが、その一方で地域や時代を超えても普遍(不変)と思われる項目がいくつか見受けられました。

データの偏りについて

 まず当調査内では具体的には以下のような項目によってデータが選別されています。日本国内の猫たちにそっくりそのまま転用はできないので注意が必要です。

死後解剖に回された猫だけ

 元データとなったのは死後解剖に回されたおよそ5%の猫だけです。必然的に二次診療施設や救急外来を経由した猫の比率が多くなると考えられます。こうした施設を利用できるのは「経済的に余裕のある家庭」「猫の命を重んずる家庭」ですので、逆に「経済的に余裕のない家庭」や「猫の命を軽んじている家庭」のデータが反映されにくくなっています。
 また落下、咬傷、虐待、交通事故など死因が明らかなケースはそもそも死後解剖に回される機会が少ないので、こうしたケースが死因比率に正しく反映されていない可能性があります。

ペット猫だけ

 元データとなったのは飼い主がはっきりしている飼い猫だけです。保護施設の猫や外猫のデータはそもそも含まれていませんので、飼い主がいない猫の寿命や死因を推定する時に当データを転用することはできません。

安楽死が多い

 日本では最後の最後まで看病することが自然な美徳と解釈されますが、欧米では安楽死の割合が高いため人為的な医療措置が寿命を短縮化させています。死亡時年齢の中央値「9.07歳」と、日本の飼い猫の平均寿命推定値「15.62歳」に大きな格差が見られる理由は、安楽死が欧米ほど一般化していないからかもしれません。

不妊手術による寿命の延長

 犬においては不妊手術と寿命の関係性があいまいで、性別、犬種、体の大きさなどによってプラスに作用する可能性とマイナスに作用する可能性の両方が複数の調査で示されています。一方、猫に関しては不妊手術と寿命延長の関係性が、少なくとも犬に比べるとはっきりしている印象を受けます。
 当調査ではメス猫の死亡時年齢中央値に関し未手術1.05歳:避妊済みメス10.28歳という、一瞬目を疑うような極端な格差が見られ、1歳以上に限定してもなお統計差が残りました。またオス猫の死亡時年齢中央値に関し未去勢0.79歳:去勢済み9.55歳という統計差が認められ、1歳以上に限定してもやはり統計差が消えませんでした。
 オスにしてもメスにしても、不妊手術がホルモンなどを通じて身体に直接的な影響を及ぼして長命を促しているのか、それとも不妊手術が何らかの中間要因を介して寿命に作用しているのかははっきりしていません。後者の一例としては「未手術→繁殖期の鳴き声やスプレーが煩わしいので外に出す→屋外で寄生虫や感染症にかかったり外傷を受ける→寿命短縮」などが挙げられます。 オス猫の去勢とメス猫の避妊手術

FeLVによる寿命の短縮

 猫において高い感染率が確認されているFIVとFeLVに関しては、FeLVの方でだけはっきりとしたマイナス作用が確認されました。具体的にはFeLV陽性猫の死亡時年齢中央値3.89歳に対し、FeLV陰性猫8.70歳という大きな寿命格差として現れています。
 飼育環境とFeLV陽性率を調べた結果、室内飼育の陽性率が4.56%、屋外飼育のそれが14.15%、半々飼育のそれが6.02%でしたので、屋外飼育(=放し飼い)がFeLVへの感染率を高め、全体の寿命を短縮化しているものと推測されます。オス猫でのみ確認された「未手術個体の屋外飼育率が高い」という特徴を考え合わせると、「繁殖能力を保ったオス猫が放浪→メスを巡って他のオス猫と争う→ケンカ中に体液を介してFeLVに感染」というルートも浮かんできます。 猫白血病ウイルス感染症

屋外飼育による寿命の短縮

 屋外に自由にアクセスできる放し飼いという飼育スタイルが猫の寿命を短縮化している可能性が示されました。具体的には室内飼育の死亡時年齢中央値が9.43歳、半々飼育が9.82歳、屋外飼育が7.25歳というもので、2歳以上短くなっています。
 飼育スタイルと寿命の関係性は日本でも確認されており、ペットフード協会が毎年更新している統計データでも、すべての年で例外なく「室内飼育>屋外飼育(=屋外アクセス可能な猫全般)」という寿命勾配が認められており、短縮幅はやはり2歳ほどです。 屋外にアクセスできる猫では、完全室内飼いの猫より2歳ほど寿命が短い  屋外には寄生虫、感染症、交通事故、虐待などの危険がいっぱいですので、国を問わず猫の寿命が縮んでしまうのは自明です。猫を危険の中に放り出して「環境エンリッチメント」などと開き直る飼育方法を、当サイト内でネグレクトという動物虐待の一種とみなしている理由はここにあります。放し飼いのリスクについては以下のページで詳述していますのでご参照ください。 猫を放し飼いにしてはいけない理由