地域猫調査・東京都足立区編
調査を行ったのは帝京科学大学・理工学研究科のチーム。屋外に暮らす猫に不妊手術を施した上で、登録ボランティアが食事と最低限の医療を提供する「地域猫プログラム」の効果を検証するため、東京都内において2年間に渡る継続的なルートセンサスを行いました。
調査方法
調査地域となったのは足立区内の2地域。2015年7月から2017年6月までの2年間、地域猫プログラムが行われているルート(1.938 km)と行われていないルート(1.918 km)を定め、調査員が40分ほどかけてルート上を実際に歩き、屋外猫の目撃数や個体数を記録・推計していきました。
センサス(観察調査)が行われたのは1ヶ月のうち3日間だけで、1日は午前10時から12時までと午後4時から6時までの2回に分けられています(=1地域につき月6回のセンサス)。
センサス(観察調査)が行われたのは1ヶ月のうち3日間だけで、1日は午前10時から12時までと午後4時から6時までの2回に分けられています(=1地域につき月6回のセンサス)。
調査結果
2年に及ぶ調査の結果、両地域において以下のような違いが見られたといいます。
Kana Mitsui, Shusuke Sato, Yoshie Kakuma, Animals 2020, DOI:10.3390/ani10030461
目撃総数(2年累計/個体重複あり)
- 非実施エリア子猫116+成猫865=981頭
※2017年2月と4月を除き全ての月で子猫が目撃された - 実施エリア子猫7+成猫586=593頭
※2015年9月と10月、および2016年10月だけ子猫が目撃された
個体総数(2年累計/個体重複なし)
- 非実施エリア子猫84+成猫602(個体密度6.1頭/ha)
- 実施エリア子猫3+成猫352(個体密度3.7頭/ha)
推定個体数(1年目の1ヶ月)
- 非実施エリア112~188頭
- 実施エリア43~56頭
個体数(1ヶ月平均/個体重複なし)
- 非実施エリア成猫25.0 ± 5.1頭/子猫3.5 ± 2.4頭
- 実施エリア成猫14.6 ± 4.7頭/子猫0.1 ± 0.3頭
個体数変動
- 非実施エリア2015年11月が最多で2017年2月が最少/1年目だけ確認された猫は46頭(33%)/2年目から確認された新参猫は23頭(28%)
- 実施エリア2015年10月が最多で2017年1月が最少/1年目だけ確認された猫は15頭(34%)/2年目から確認された新参猫は13頭(17%)
その他(非実施:実施)
- 耳カット率15%:44%(※有意)
- 不健康率28%:7%(※有意)
※不健康=怪我、傷跡、鼻や目からの排出物、皮膚炎、脱毛、出血が少なくとも1つ見られること - 首輪装着率9%:7%
Kana Mitsui, Shusuke Sato, Yoshie Kakuma, Animals 2020, DOI:10.3390/ani10030461
地域猫活動に効果はあるの?
猫の個体数減少は実施エリアのほうがわずかに大きかったものの、非実施エリアでも同等の個体数減少が見られ、両者は統計的に非有意と判定されました。また猫たちの移住の決定因は地域そのものではなく「成猫であること」でした。
個体総数
個体総数(2年累計/個体重複なし)に関し、非実施エリアが子猫84+成猫602(個体密度6.1頭/ha)、実施エリアが子猫3+成猫352(個体密度3.7頭/ha)という格差が見られました。耳カット率は非実施エリア15%に対し実施エリア44%でしたので、不妊手術率が個体数制限に寄与しているものと推定されます。またこの仮説は子猫の目撃頻度(22ヶ月:3ヶ月)の大幅な差によっても部分的に裏付けられます。
個体数の変動
個体数変動に関し、両地域で漸減傾向を示しました。どちらの地域でも新たに加わった猫の数より地域から出ていった猫の数が多いことが原因だと考えられています。
地域から姿を消した猫たちが最終的にどこに行ったのかは定かではありません。誰かに拾われて飼い猫になったという想像もできますが、路上死の多さから考えると交通事故に遭ったとか病気にかかってどこかで動けなくなったと見積もるのが現実的でしょう。
また実施地域においては指定区域外にも頻繁に餌が置かれていたといいます。猫の密度を左右するのは食料の有無といいますので、他地域から新参猫が流入する理由はこうした無節操な餌やり(置き餌)をする人がいるからかもしれません。
また実施地域においては指定区域外にも頻繁に餌が置かれていたといいます。猫の密度を左右するのは食料の有無といいますので、他地域から新参猫が流入する理由はこうした無節操な餌やり(置き餌)をする人がいるからかもしれません。
健康状態
不健康率に関しては非実施エリア28%:実施エリア7%という統計的な有意差が確認されました。地域猫プログラムが猫の健康状態維持に寄与している可能性が伺えます。
ただし広島県尾道市の調査が示しているように、すべての地域で活動のクオリティが保たれているわけではないようです。こうした格差には猫の個体数、地域内の交通量、ボランティアの数、行政からの支援の有無、当該地域住人の活動に対する理解度などが関わっているのかもしれません。
ただし広島県尾道市の調査が示しているように、すべての地域で活動のクオリティが保たれているわけではないようです。こうした格差には猫の個体数、地域内の交通量、ボランティアの数、行政からの支援の有無、当該地域住人の活動に対する理解度などが関わっているのかもしれません。
今後の課題
地域猫プログラムが猫の健康状態を良好に維持し、個体数の抑制に寄与しうる可能性が確かめられました。その一方、餌や繁殖期のメスを求め、プログラムを実施していない地域から新たな猫(主としてオスの成猫)が流入する危険性も同時に浮上してきました。
実施地域と非実施地域がモザイク状に散在している限り、繁殖能力を備えた猫たちが広範囲を行き来しますので、個体数の減少には限界が来てしまうでしょう。すべての地域が共通意識を持って地域猫活動を行えば、当調査で見られたような他地域からの流入現象(バキューム現象)が緩和され、個体数の減少率も大きくなると推測されます。
実施地域と非実施地域がモザイク状に散在している限り、繁殖能力を備えた猫たちが広範囲を行き来しますので、個体数の減少には限界が来てしまうでしょう。すべての地域が共通意識を持って地域猫活動を行えば、当調査で見られたような他地域からの流入現象(バキューム現象)が緩和され、個体数の減少率も大きくなると推測されます。
屋外に暮らしている限り交通事故や病気のリスクからは逃れられません。地域猫活動の最終的な目標は危険な屋外で猫を管理し続けることではなく、猫の個体数を譲渡可能な数まで減らして室内飼育に移行することです。