ビタミンD中毒の病態・症状
猫のビタミンD中毒とは、生きていく上で欠かせない微量分子であるビタミンのうち、油に溶ける性質を有した「ビタミンD」を過剰に摂取することで発症する病態のことです。
ビタミンD中毒の病態
猫は人間と違い、皮膚内で日光からビタミンDを自家合成できません。自然環境における獲物(ネズミやウサギ)の体内に豊富に含まれているため、あえて合成できない体質を発達させたものと考えられています。しかしペット猫のほとんどはキャットフードを主食としているため、人為的にビタミンDを摂取させないと欠乏症に陥って骨が弱ってしまいます。「総合栄養食」と称される製品にビタミンDが添加されている理由はこれです。
ペットフードに含まれるビタミンD3(コレカルシフェロール)は摂取後すみやかに吸収され、肝臓において25-ヒドロキシコレカルシフェロール(カルシジオール)に変換された後、 腎臓において1,25-ジヒドロキシコレカルシフェロール(カルシトリオール)に再変換されて生理活性を有するようになります。
活性化したビタミンDは消化管におけるカルシウムの吸収を促しますので、過剰摂取した場合は血中のカルシウム濃度が高まる高カルシウム血症が引き起こされます。水溶性ビタミンとは違い、尿とともにすみやかに体外に排出されないことも過剰症の一因です。
活性化したビタミンDは消化管におけるカルシウムの吸収を促しますので、過剰摂取した場合は血中のカルシウム濃度が高まる高カルシウム血症が引き起こされます。水溶性ビタミンとは違い、尿とともにすみやかに体外に排出されないことも過剰症の一因です。
ビタミンD中毒の症状
猫がビタミンDを過剰に摂取して中毒(過剰症)に陥った場合、元気喪失、脱水、多呼吸といったありふれた症状のほか、以下のような症状を示すようになります。
猫のビタミンD中毒症状
- 血液・血清生化学的症状血中ビタミンD、カルシウム、リン、尿素窒素(BUN)、クレアチニン濃度がすべて上昇
- エックス線での症状全身の骨密度が上昇し、各種器官への石灰沈着が認められる
- 組織学的症状肺、気管、腎、心臓、大動脈、消化管、脈絡叢、骨などほぼ全身の臓器の血管壁に石灰が著明に沈着
ビタミンD中毒の原因
猫におけるビタミンD中毒の原因は、ほとんどが過剰摂取です。主に以下のようなルートが報告されています。
以下はAAFCO(アメリカ飼料検査官協会)が公表している猫におけるビタミンDの摂取基準量です。水溶性ビタミンとは違い脂溶性ビタミンには過剰症がありますので、上限値が設けられています。なおカッコ内は成長期や妊娠・授乳期にある猫を対象とした時の数値です。
1990年代に米国で行われた調査では、キャットフードに含まれるビタミンD濃度がNRC基準の55倍に相当する極端な製品が含まれていたとか、特に海産素材を用いたウエットフードはNRC基準の30倍に相当するビタミンDを含んでいたと報告されています(:T.R.Sih, 2001)。また食事中に推奨量の30倍に達するビタミンDを摂取したリンクス(※ネコ科動物の一種)40頭中28頭で腎不全と全身性の石灰沈着が見られたとの報告もあります(:Lopez, 2016)。
さらに日本国内でも1990年代初頭、ペットフードに含まれるビタミンDによって腎不全と全身の石灰沈着を発症した猫21頭の症例が報告されています。この報告におけるフード内の含有濃度は、湿重量100gあたり6,370IUという非常に高いものでした(:Morita, 1995)。
農林水産省が行う製造業者への抜き打ち検査は、重金属、カビ毒、農薬などペットフードへの使用が禁止されている成分を対象としたものです。ビタミンDが過剰に含まれていないかどうかはそもそもチェックがなされておらず、各業者の管理体制に任されています。しかしアメリカ食品医薬品局(FDA)では今もなお、散発的にビタミンDの過剰添加によるリコールが発動されていることから、それほどまれなケースではないと考えられます。
ビタミンD摂取ルート
- 食餌・キャットフード
- ビタミンD製剤の過剰投薬
- 殺鼠剤
- サプリメントの誤飲誤食
- 乾癬用の軟膏を舐め取る
以下はAAFCO(アメリカ飼料検査官協会)が公表している猫におけるビタミンDの摂取基準量です。水溶性ビタミンとは違い脂溶性ビタミンには過剰症がありますので、上限値が設けられています。なおカッコ内は成長期や妊娠・授乳期にある猫を対象とした時の数値です。
AAFCOのビタミンD摂取基準量
- フードの乾燥重量1kg中280(280)IU~30,080(30,080)IU
- フード100kcal中7(7)IU~752(752)IU
1990年代に米国で行われた調査では、キャットフードに含まれるビタミンD濃度がNRC基準の55倍に相当する極端な製品が含まれていたとか、特に海産素材を用いたウエットフードはNRC基準の30倍に相当するビタミンDを含んでいたと報告されています(:T.R.Sih, 2001)。また食事中に推奨量の30倍に達するビタミンDを摂取したリンクス(※ネコ科動物の一種)40頭中28頭で腎不全と全身性の石灰沈着が見られたとの報告もあります(:Lopez, 2016)。
さらに日本国内でも1990年代初頭、ペットフードに含まれるビタミンDによって腎不全と全身の石灰沈着を発症した猫21頭の症例が報告されています。この報告におけるフード内の含有濃度は、湿重量100gあたり6,370IUという非常に高いものでした(:Morita, 1995)。
農林水産省が行う製造業者への抜き打ち検査は、重金属、カビ毒、農薬などペットフードへの使用が禁止されている成分を対象としたものです。ビタミンDが過剰に含まれていないかどうかはそもそもチェックがなされておらず、各業者の管理体制に任されています。しかしアメリカ食品医薬品局(FDA)では今もなお、散発的にビタミンDの過剰添加によるリコールが発動されていることから、それほどまれなケースではないと考えられます。
ビタミンD中毒の検査・診断
猫のビタミンD中毒における症状は元気喪失、脱水、多呼吸など、これといった特徴のないものです。「なんとなく元気がない」と気づいた飼い主が猫を動物病院に連れていき、原因を特定するため血液検査、尿検査、超音波検査、エックス線検査といった一般的な検査が行われます。
多くの場合、エックス線画像もしくはCT画像で体内に不自然な石灰化が見られることから高カルシウム血症が疑われ、血中カルシウム濃度を上昇させる以下のような病気が鑑別されます。
ビタミンD中毒が確定したら、飼い主に詳しい問診を行い、猫がどこから過剰摂取したのかを明らかにしていきます。
多くの場合、エックス線画像もしくはCT画像で体内に不自然な石灰化が見られることから高カルシウム血症が疑われ、血中カルシウム濃度を上昇させる以下のような病気が鑑別されます。
高カルシウム血症の原因
- 副甲状腺機能亢進症
- カルシウムの過剰摂取
- ビタミンDの過剰摂取
- がん
- 骨の病気
- 極端な運動不足
ビタミンD中毒が確定したら、飼い主に詳しい問診を行い、猫がどこから過剰摂取したのかを明らかにしていきます。
ビタミンD中毒の治療・予防
急性中毒なら完治する可能性もありますが、長期的に摂取し続けた慢性症例の場合、気づいたときにはすでに腎臓がボロボロになっていることも少なくありません。猫のビタミンD中毒では主に以下のような治療が行われます。
フードの中断
軟膏薬、ビタミンサプリメント、殺鼠剤(遅効性殺鼠剤にはネズミの毛細血管内にカルシウムを沈着して血行障害を発生させるためビタミンDが大量に含まれている)の誤飲誤食が原因の場合は、再発を予防するため猫が絶対にアクセスできないよう慎重に管理します。ビタミンD製剤の投与を原因とする医原性中毒の場合は投薬を速やかに中止します。
原因としてキャットフードの関与が疑われる場合はひとまず現在与えているフードの給餌を中止して別のフードに切り替えてみます。フードのサンプルをラボに送ってビタミンD濃度を測定するのは時間もお金もかかりますので、担当獣医師と共にFAMIC(独立行政法人農林水産消費安全技術センター)に通報し、成分分析やメーカーへの立入検査をしてもらうという流れが現実的でしょう。場合によっては自主回収やリコールが行われます。
原因としてキャットフードの関与が疑われる場合はひとまず現在与えているフードの給餌を中止して別のフードに切り替えてみます。フードのサンプルをラボに送ってビタミンD濃度を測定するのは時間もお金もかかりますので、担当獣医師と共にFAMIC(独立行政法人農林水産消費安全技術センター)に通報し、成分分析やメーカーへの立入検査をしてもらうという流れが現実的でしょう。場合によっては自主回収やリコールが行われます。
高カルシウム血症の治療
ビタミンDを過剰摂取すると腸管からのカルシウム吸収量が増え、急性の高カルシウム血症が引き起こされます。ひとまず猫を入院させ、輸液療法によって血中カルシウム濃度が自然に低下するのを待ちます。
改善が見られない場合は利尿薬やリン(カルシウムの吸収を遅らせる)のほか、腎臓でのカルシウムの吸収を低下させる薬や、破骨細胞による骨吸収を抑制する薬が投与されます。
改善が見られない場合は利尿薬やリン(カルシウムの吸収を遅らせる)のほか、腎臓でのカルシウムの吸収を低下させる薬や、破骨細胞による骨吸収を抑制する薬が投与されます。
腎不全の管理
大量のビタミンDを長期的に摂取していた場合、腎臓を含めた全身にすでに石灰が沈着していると考えられます。ひとたび障害された腎組織は元に戻りませんので、以降はこれ以上腎不全が悪化しないよう管理していく必要があります。
特定のペットフードとの因果関係を明確に証明できればメーカーを訴えることもできますが、それほど簡単ではありません。
特定のペットフードとの因果関係を明確に証明できればメーカーを訴えることもできますが、それほど簡単ではありません。
加齢と共に有病率が増える腎不全には、フードに含まれるビタミンDが密かに関係しているのではないかと疑う声もあります。6歳を過ぎたら半年に1回のペースで健康診断を受けて早期発見に努めましょう。