耳としっぽによる猫の会話
自身の体を用いたコミュニケーションパターンに関する調査を行ったのはフランスのアルフォール国立獣医学校のチーム。クイ=サン=フィアクルにある保護施設内に設けられた2600平方メートルの敷地内に暮らす29頭の猫たちを対象とし、2006年の2月(週5回×3週)と9月(週5回×2週)、8→12→14→18時のタイミングで1時間ずつ猫たちの行動を調査員が観察して合計100時間に及ぶデータを集めました。調査の眼目は「耳としっぽの組み合わせ」という従来の猫研究では軽視されていた点です。
交流を始める猫を「発信側」、交流を受ける猫を「受信側」と定義し、猫同士および猫と人間との間で見られたコミュニケーションをカウントしていったところ、調査期間中に前者は254回、後者は104回確認されたと言います。その他の用語解説は以下です。
用語とその定義
- 耳の位置区分
- しっぽの位置区分
- ネガティブ逃げる・避ける・威嚇する・攻撃するなど敵対的行動全般
- ニュートラル/ポジティブ接近を許す・鼻挨拶・アロラビング(体のこすりつけ)・アログルーミング(相互毛づくろい)
耳としっぽの出現パターン
観察の結果、理論上は全部で36通りの組み合わせがあるものの、実際に見られたのは16通り(44.4%)だけだったといいます。
特に多かったパターンは発信側のしっぽが下向きで交流を開始するケース77.6%(197/254)、および双方のがしっぽ下向きで交流を開始するケース75.6%(192/254)でした。逆に極端に少なかったのは双方のしっぽがともに上向きだったケースで、出現頻度はわずか2.4%(6/254)だったといいます。
その他、受信側の「耳直立+しっぽ下向き」という組み合わせが理論値よりも多く観察されたほか、双方の耳位置に強い相関関係が確認されました。具体的には発信側の耳が直立以外の場合、受信側の耳位置もそれにシンクロする確率が高いというものです。
一方、人との交流に関しては「耳直立+しっぽ上向き」という組み合わせが97.8%を占め、しっぽが下向きの場合は常に耳が直立以外だったといいます。
その他、受信側の「耳直立+しっぽ下向き」という組み合わせが理論値よりも多く観察されたほか、双方の耳位置に強い相関関係が確認されました。具体的には発信側の耳が直立以外の場合、受信側の耳位置もそれにシンクロする確率が高いというものです。
一方、人との交流に関しては「耳直立+しっぽ上向き」という組み合わせが97.8%を占め、しっぽが下向きの場合は常に耳が直立以外だったといいます。
交流の感情価
196の交流中、ポジティブと評価された回が43.9%、逆にネガティブと評価された回が56.1%でした。
ポジティブと評価されやすかったのは「双方の耳が直立」「受信側のしっぽが下向き」という組み合わせのときで、逆にネガティブと評価されやすかったのは「双方の耳の位置が別々」「双方の耳の位置がともに直立以外」「発信側のしっぽ下向き+耳直立/受信側のしっぽ下向き+耳直立以外」という組み合わせの時だったといいます。 Heads and Tails: An Analysis of Visual Signals in Cats,Felis catus
Deputte, B.L.; Jumelet, E.; Gilbert, C.; Titeux, E., Animals 2021, 11, 2752, DOI:10.3390/ani11092752
ポジティブと評価されやすかったのは「双方の耳が直立」「受信側のしっぽが下向き」という組み合わせのときで、逆にネガティブと評価されやすかったのは「双方の耳の位置が別々」「双方の耳の位置がともに直立以外」「発信側のしっぽ下向き+耳直立/受信側のしっぽ下向き+耳直立以外」という組み合わせの時だったといいます。 Heads and Tails: An Analysis of Visual Signals in Cats,Felis catus
Deputte, B.L.; Jumelet, E.; Gilbert, C.; Titeux, E., Animals 2021, 11, 2752, DOI:10.3390/ani11092752
猫とは耳、人とはしっぽで交流
観察結果から調査チームは猫同士のコミュニケーションにおいては耳の位置が重要で、猫と人のコミュニケーションにおいてはしっぽの位置が重要なのではないかと推論しています。
猫同士の交流においては、発信側の耳が直立以外の場合、受信側の耳位置もそれにシンクロする確率が高いという事実が確認されました。相手の耳のポジションを確認することで自分の出方を決めているのでしょうか。
一方、人との交流に関しては「耳直立+しっぽ上向き」という組み合わせが97.8%と大部分を占めました。過去の調査報告では「上向きのしっぽは親愛シグナルであり、争いを予防するための儀式的な行動である(:Cafazzo and Natoli, 2011)」とされているものの、少なくとも成猫同士の交流において上向きのしっぽはほぼ出現しないようです。子猫が母猫にすり寄るときに頻繁に見られる特徴的な行動であることから、調査チームは猫が人間のことを優位者、母猫代わりの世話係、もしくは母猫そのものと認識している可能性が高いと指摘しています。 ライハウゼンが1975年に作成した古典的な姿勢パターンで上向きのしっぽがネガティブなサインとして1つだけしか描かれていないこと、および猫はそもそも目が悪いため、耳としっぽの両方を同時に捉えてコミュニケーションシグナルとして解釈している可能性が低いことなどから、猫同士の交流においてはしっぽよりも耳の位置の方がはっきりと気持ちを反映しているとしています。
ちなみに人為的に折れ耳を固定されたスコティッシュフォールドのシルエットを猫の目から見ると以下のようになります。 少なくともニュートラルもしくはポジティブな感情価を表す直立耳ではないため、他の猫には「不機嫌そうだな」「なんか敵対的だな」「感じ悪いやつだ」と解釈される可能性が高いでしょう。骨軟骨異形成という病気のみならず、重要なコミュニケーションツールまで奪っている状態ですので、早急に繁殖を禁止しなければなりません。
猫同士の交流においては、発信側の耳が直立以外の場合、受信側の耳位置もそれにシンクロする確率が高いという事実が確認されました。相手の耳のポジションを確認することで自分の出方を決めているのでしょうか。
一方、人との交流に関しては「耳直立+しっぽ上向き」という組み合わせが97.8%と大部分を占めました。過去の調査報告では「上向きのしっぽは親愛シグナルであり、争いを予防するための儀式的な行動である(:Cafazzo and Natoli, 2011)」とされているものの、少なくとも成猫同士の交流において上向きのしっぽはほぼ出現しないようです。子猫が母猫にすり寄るときに頻繁に見られる特徴的な行動であることから、調査チームは猫が人間のことを優位者、母猫代わりの世話係、もしくは母猫そのものと認識している可能性が高いと指摘しています。 ライハウゼンが1975年に作成した古典的な姿勢パターンで上向きのしっぽがネガティブなサインとして1つだけしか描かれていないこと、および猫はそもそも目が悪いため、耳としっぽの両方を同時に捉えてコミュニケーションシグナルとして解釈している可能性が低いことなどから、猫同士の交流においてはしっぽよりも耳の位置の方がはっきりと気持ちを反映しているとしています。
ちなみに人為的に折れ耳を固定されたスコティッシュフォールドのシルエットを猫の目から見ると以下のようになります。 少なくともニュートラルもしくはポジティブな感情価を表す直立耳ではないため、他の猫には「不機嫌そうだな」「なんか敵対的だな」「感じ悪いやつだ」と解釈される可能性が高いでしょう。骨軟骨異形成という病気のみならず、重要なコミュニケーションツールまで奪っている状態ですので、早急に繁殖を禁止しなければなりません。
猫がかぎしっぽの場合、上向きしっぽは見えにくいですが、たいていは「猫なで声」を出しながら人間の足元にすり寄ってきますのでそれほど誤解はないでしょう。