猫の生育・飼育環境と狩猟欲求
調査を行ったのはハンガリーにあるエトヴェシュロラーンド大学のチーム。猫が生まれて間もないときの生育環境や、成長してからの飼育環境が狩猟行動に及ぼす影響を確かめるため、ハンティングの場面を再現した3つの行動テストを行いました。
調査に参加したのは身体的なハンデを抱えていない6ヶ月齢以上の猫たち31頭。平均年齢は64.1ヶ月齢(5.34歳)、3頭を除きすべて不妊手術済みの短毛種です。飼育環境により猫たちを完全室内飼いの18頭と放し飼いの13頭に分け、飼い主の自宅内を実験場とし以下に述べる3種類のテストを短いインターバルを置いて10~18時の間に行いました。 具体的な手順と結果は以下です。
調査に参加したのは身体的なハンデを抱えていない6ヶ月齢以上の猫たち31頭。平均年齢は64.1ヶ月齢(5.34歳)、3頭を除きすべて不妊手術済みの短毛種です。飼育環境により猫たちを完全室内飼いの18頭と放し飼いの13頭に分け、飼い主の自宅内を実験場とし以下に述べる3種類のテストを短いインターバルを置いて10~18時の間に行いました。 具体的な手順と結果は以下です。
ボールテスト
飼い主は猫を優しく拘束し、実験者は大きさが異なる3種類のボール(10cm/6cm/3cm)を猫の目の前に転がして反応を見る。半分は「フリーテスト」から、残りの半分は「拘束テスト」からスタートし、1頭につきボール3種×手順2種の合計6テストを行う。
完全室内飼いの猫たちの方がボールに触ったり遊んだりするまでの待機時間が短い/ボールの大きさ、生育環境は待機時間と無関係
- フリーテスト実験者がボールを転がした(1m/秒)直後、飼い主が猫をリリースして1分間自由に遊ばせる
- 拘束テスト実験者がボールを転がす間、飼い主が猫を優しく拘束し続け、興味を持って自発的に目で追うかどうかを確認
完全室内飼いの猫たちの方がボールに触ったり遊んだりするまでの待機時間が短い/ボールの大きさ、生育環境は待機時間と無関係
釣り竿テスト
30cmのスティックの端に80cmのひもを結びつけ、さらにその先端に鳥の形をした柔らかいおもちゃを取り付ける。飼い主が猫を優しく拘束し、実験者が猫の背丈の2倍の高さで釣り竿を振り子のように動かした直後のタイミングでリリースして自発的な反応を観察する。猫がおもちゃの捕獲に成功したらすみやかに回収し、2分が経過するまで同じ動作を繰り返す。
【テスト結果】
おもちゃに反応を示さなかった4頭を除いた27頭が解析対象/母猫と過ごした時間が短い猫は8週間以上過ごした猫よりもおもちゃの捕獲に失敗する回数が多い/飼育環境は失敗回数と無関係
おもちゃに反応を示さなかった4頭を除いた27頭が解析対象/母猫と過ごした時間が短い猫は8週間以上過ごした猫よりもおもちゃの捕獲に失敗する回数が多い/飼育環境は失敗回数と無関係
音響テスト
「鳥のさえずり」「ねずみのチューチュー」「紙をクシャクシャ」「ビニール袋のカサカサ」という音を用意し、2分間のインターバルを置いて4種類をランダムで聞かせて猫の自発的な反応を観察する。
【テスト結果】
音の種類は探索行動に費やす時間に影響しない/音の種類に関わりなく完全室内飼いの猫たちの方が探索行動に移るまでの時間が短い/音の種類に関わりなく完全室内飼いの猫たちの方が探索行動に費やす時間が長い/母猫と8週間過ごした猫は「鳥のさえずり」に限り、探索に移るまでの時間が短い Inexperienced but still interested ? Indoor-only cats are more inclined for predatory play than cats with outdoor access
Muhzina Shajid Pyari, Stefania Uccheddu, Rita Lenkei, Peter Pongracz, Applied Animal Behaviour Science (2021), DOI:10.1016/j.applanim.2021.105373
音の種類は探索行動に費やす時間に影響しない/音の種類に関わりなく完全室内飼いの猫たちの方が探索行動に移るまでの時間が短い/音の種類に関わりなく完全室内飼いの猫たちの方が探索行動に費やす時間が長い/母猫と8週間過ごした猫は「鳥のさえずり」に限り、探索に移るまでの時間が短い Inexperienced but still interested ? Indoor-only cats are more inclined for predatory play than cats with outdoor access
Muhzina Shajid Pyari, Stefania Uccheddu, Rita Lenkei, Peter Pongracz, Applied Animal Behaviour Science (2021), DOI:10.1016/j.applanim.2021.105373
狩猟欲求の管理は屋内で
今回の調査では、放し飼いの猫に比べ完全室内飼いの猫の方が狩猟を模した遊びに対する欲求が強いことが明らかになりました。言い換えると、放し飼い猫の方が遊びに対して気乗り薄ということですが、理由としては「屋外行動で狩猟欲がある程度満たされている」「本物と偽物の違いを知っているのでおもちゃにそれほど興味がわかない」「怪我や反撃の危険性を経験しているので慎重になっている」「失敗経験を多く積んだせいで気分が乗らない」などが考えられます。
「満腹刈り」の適応的な意味は?
猫は食欲がない状態でも狩猟行動に勤しむ「満腹狩り」という行動を頻繁に見せます。目的を持たない運動はエネルギーの無駄ですので生きていく上では不利に働くはずですが、なぜこのような行動パターンが本能に残っているのでしょうか?
最もありそうな仮説は「日頃から練習を積んでおくと本番での狩猟成功率が上がる」というものです。当調査では母猫と長く過ごした子猫におけるおもちゃの捕獲率が高く、生後まもなく母猫と離れた子猫のそれは低いことが判明しました。また母猫と8週間以上すごした猫は「鳥のさえずり」に対する素早い反応を見せました。こうした事実から、母猫が手本を示しながら子猫に狩猟の方法を教えたという状況が推定されます。古典的な調査でも「母猫が生きた獲物を持ち帰って子猫に狩猟の練習をさせる」という行動パターンが報告されています(:Ewer, 1969)。
最もありそうな仮説は「日頃から練習を積んでおくと本番での狩猟成功率が上がる」というものです。当調査では母猫と長く過ごした子猫におけるおもちゃの捕獲率が高く、生後まもなく母猫と離れた子猫のそれは低いことが判明しました。また母猫と8週間以上すごした猫は「鳥のさえずり」に対する素早い反応を見せました。こうした事実から、母猫が手本を示しながら子猫に狩猟の方法を教えたという状況が推定されます。古典的な調査でも「母猫が生きた獲物を持ち帰って子猫に狩猟の練習をさせる」という行動パターンが報告されています(:Ewer, 1969)。
屋外での狩猟はストレスフル
猫本来の行動を促すため放し飼いにするという話をよく耳にしますが、ちょこまかと動き回る生き物をターゲットとした場合の捕獲成功率はそれほど高くありません。つまりストレス解消のために行っている放し飼いが、実は重大な怪我や欲求不満につながりうるということです。猫の狩猟本能を満たしてあげるために重要なのは、猫が怪我を負わない安全な場所でしっかりと「ゲットした!」という感覚を与えることです。
脳の特定部位を電気的に刺激すると逃避行動や捕獲行動を示すことが確認されています。要するに生命に直結する行動パターンはハードワイヤに組み込まれているということです。長い時間をかければこうした先天的プログラムを退化させることができるかもしれませんが、現時点では猫の脳内に狩猟行動が本能的な欲求として組み込まれていると考えた方が現実的でしょう。食欲や睡眠欲と同等に扱い、飼い主がしっかりと欲求の管理をしてあげることが必要です。
室内で狩猟の成功体験を
猫の狩猟欲求を管理するのは室内で十分です。過去に行われた調査では猫の狩猟行動を促す駆動員として「若齢」「スリム体型」「農場近く」という項目が報告されています。農場で見かけやすい鳥、ネズミ、虫の動きをおもちゃでうまく再現してあげれば、屋内においても十分に狩猟本能を満たしてあげることができるでしょう。何回かに1回は必ず猫に獲物を捉えさせ「うまくいった!」という成功体験を与えてください。これが欲求解消につながります。