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猫の屋外行動を制限する「囲い網」の効果~猫にも飼い主にも大きなメリットあり

 猫の自由な屋外行動を制限する製品として、近年「囲い網」が注目を集めています。具体的にどのような種類があり、一体どのような効果があるのでしょうか?

猫の放し飼いと「Cat wars」

 猫を放し飼いにすることは交通事故や感染症のリスクを高め、猫自身の健康を著しく損なうことが確認されています。また近年は生態系に対する悪影響が数多くの調査によって報告されるにつれ、環境保全という観点からも猫の放し飼いは望ましくないという声が上がり出しており、中には各種のEU法規に違反しているという見解すら出されています。最近になって耳にするようになった「Cat wars」(猫を巡る戦争)とは、猫を外に出す人とそれに反対する人との間で見られる論争のことです。 外猫の狩猟捕食行動は野生動物と生態系への脅威 猫を放し飼いにしてはいけない理由  猫を放し飼いにする人の主張は多くの場合「散策や狩猟行動など猫の自然な行動を促している」「運動不足やストレス解消になる」といったものですが、こうした主張は猫の健康と安全および屋外の環境と生態系を犠牲にして成り立っているのが現状です。
 イギリスにあるリンカーン大学の調査チームは、両者の衝突を緩和する方法の1つとして提案されている「囲い網」(Cat Enclosure)に着目し、このアイテムが猫の健康と福祉にどのような影響を及ぼしうるかを検証しました。
Introducing a Controlled Outdoor Environment Impacts Positively in Cat Welfare and Owner Concerns: The Use of a New Feline Welfare Assessment Tool.
de Assis LS, Mills DS. Front Vet Sci. 2021;7:599284. Published 2021 Jan 11. DOI:10.3389/fvets.2020.599284

猫の「囲い網」による影響

 調査に参加したのは「ProtectaPet®」という囲い網製品を購入した18歳以上の猫の飼い主。具体的な種類は以下です。
  • キャットフェンス(325人)塀の上に反り返ったフェンス(猫返し)を後付けして猫の脱走を防止する製品。猫の自由な屋外アクセスを制限する製品~キャットフェンス
  • キャットエンクロージャ(41人)フェンスと猫返しが最初から一体になっており、フェンスごと地面に設置する製品。 猫の自由な屋外アクセスを制限する製品~キャットエンクロージャ
  • キャティオ(13人)フェンスを箱型に組み立てて庭に設置する製品。 猫の自由な屋外アクセスを制限する製品~キャティオ
 飼い主や猫の基本属性のほか、自宅に設置する前と後でどのような変化が起こったかを尋ねる合計36項目のアンケートを行い、猫の健康と福祉に一体どのような影響を及ぼしたのかを検証しました。その結果、猫と飼い主に以下のような変化が確認されたといいます。

囲い網と猫の変化

 囲い網を設置した後、囲いの中で過ごす時間が猫の「ポジティビティ」に強く影響すると同時に、「メンテナンス行動」に弱く影響することが確認されました。複数の回答をまとめたこれら2つの主要素は、猫の健康と福祉が改善したことを示唆する項目です。なお「そもそもうちの猫にはなかった(見られなかった)」という回答は前後の比較ができないためグラフから除外されています。

健康問題

 「健康問題」は身体もしくは行動に何らかの問題を抱えた状態で、設置前後の変化では「上昇・増加(緑)<低下・減少(赤)」という大小関係が理想です。グラフは健康問題と最も関係が強い7つの設問に対する回答を表しています。 囲い網設置後に見られた猫の変化~健康問題

怖がり

 「怖がり」は社会的事物(人や他の動物)もしくは非社会的事物(生物以外)に対して恐怖心を見せる状態で、設置前後の変化では「上昇・増加(緑)<低下・減少(赤)」という大小関係が理想です。グラフは怖がりと最も関係が強い5つの設問に対する回答を表しています。 囲い網設置後に見られた猫の変化~怖がり

ポジティビティ

 「ポジティビティ」は猫がポジティブな感情を抱いている状態を示す広い概念で、設置前後の変化では「低下・減少(赤)<上昇・増加(緑)」という大小関係が理想です。グラフはポジティビティと最も関係が強い3つの設問に対する回答を表しています。 囲い網設置後に見られた猫の変化~ポジティビティ

メンテナンス行動

 「メンテナンス行動」は猫が健康維持のため、もしくは本能に従って発現する行動のことで、設置前後の変化では「低下・減少(赤)<上昇・増加(緑)」という大小関係が理想です。グラフはメンテナンス行動と最も関係が強い4つの設問に対する回答を表しています。 囲い網設置後に見られた猫の変化~メンテナンス行動

囲い網と飼い主の変化

 各設問に対し飼い主が「非常に心配」もしくは「極度に心配」と回答した割合の合算値です。赤グラフが「設置前」、青グラフが「設置後」を表しています。放し飼いに伴う各種のリスクが減るのに連動し、飼い主の側の心配も大幅に減少していることが一目でわかります。 囲い網設置後に見られた飼い主の心境変化~放し飼いに伴う心配が大幅に減少

囲い網は「Cat wars」の休戦協定?

 市販の囲い網(ProtectaPet®)を購入した人々を対象としたアンケート調査により、製品の導入が猫の健康と福祉を改善すると同時に、飼い主が抱いている各種の不安を大幅に軽減することが判明しました。予備的な調査結果ですが「Cat wars」に休戦をもたらす可能性を秘めていますので、猫にとっても人にとっても明るいニュースと考えて良いでしょう。

未知の部分もあり

 今回得られた知見を一般化するまでには、超えなければならないいくつかのハードルがありそうです。まず囲い網を購入できるのは庭を持っている人だけです。また囲い網を買おうとするのはそれなりに経済力があり、また猫の健康と福祉にそれなりの関心を持った飼い主です。
 調査チームは過去に行われた別の調査結果と比較し、アンケートの対象となった人々は完全にランダムで選んだ場合とおおむね一致すると言及しているものの、少なからぬ割合を占める「経済力が乏しい飼い主」や「猫の健康と福祉に無関心な飼い主」を、サンプル選別の時点で除外してしまっている可能性は否定できません。

確実なのは猫の安全性

 囲い網の購入によって飼い主の不安や心配が激減している事実から言えるのは、猫の行き先を限定することで安全が確保されるということです。
 アンケート調査を通し、これまでの飼育歴の中で猫が路上で怪我を負ったことがあると回答した人が56.4%(216/383)、さらに怪我がもとで猫が死んでしまったと回答した人はそのうち82.4%(178/216)にまで達することが明らかになりました。猫を放し飼いにする人は「自然な行動を促している」「運動不足やストレス解消になる」などと主張しますが、人間で例えると運動不足を解消するため屋上の縁を命綱なしでウォーキングするようなものです。健康増進につながっても前提となる命がなくなっては元も子もありませんね。
 物件と同じように人間にも「ペット不可の飼い主」がいます。交通事故や病気の危険性をそもそも知らなかったり、知っているのに無視して無責任な放し飼いをしている人の真似しないようにご注意下さい。
近い将来、囲い網という選択肢があるのに放し飼いをしている人がいたら「あなた飼い主としての努力を怠っていますね」と言えるようになるでしょう。なお囲い網の一種「キャティオ(CATIO)」については以下のページで詳しく解説してあります。 猫用のパティオ「CATIO」について