猫が睡眠薬を誤飲したら
特殊な状況に置かれた飼い主の中には、猫用の睡眠薬を求める人がいます。例えば猫を飛行機や新幹線に乗せるため数時間だけおとなしくしてほしいとか、猫の寝付きが悪くて夜中に何度も起こしに来るとか、老猫が認知症(痴呆)を発症して夜鳴きがひどいなどです。しかし獣医師が処方した睡眠薬でも市販の睡眠改善薬でも、死亡を含めたさまざまな副作用が報告されていますので、自己判断で投与するのは絶対に厳禁です。
猫が人間用の睡眠薬を誤飲したとか、間違った量を投与したという場合、中毒に陥る危険性がありますので薬の種類と飲み込んだ量を確認した上で急いで動物病院を受診します。薬が効くまでの時間は早ければ10分ほどですので、症状が出る前に催吐、胃洗浄、輸液治療などを行う必要があります。受診が間に合わず症状が出てしまった場合は、最低でも半日(12時間)ほど入院して体調をモニタリングすることが必要です。 「猫の睡眠」でも解説したとおり、猫は細切れにして睡眠を取ります。夜中に何度も目を覚まして動き回るのは普通のことですので、安易に睡眠薬に頼る前に寝具やベッドを整えるなど、基本的な安眠対策を試してみて下さい。
猫が人間用の睡眠薬を誤飲したとか、間違った量を投与したという場合、中毒に陥る危険性がありますので薬の種類と飲み込んだ量を確認した上で急いで動物病院を受診します。薬が効くまでの時間は早ければ10分ほどですので、症状が出る前に催吐、胃洗浄、輸液治療などを行う必要があります。受診が間に合わず症状が出てしまった場合は、最低でも半日(12時間)ほど入院して体調をモニタリングすることが必要です。 「猫の睡眠」でも解説したとおり、猫は細切れにして睡眠を取ります。夜中に何度も目を覚まして動き回るのは普通のことですので、安易に睡眠薬に頼る前に寝具やベッドを整えるなど、基本的な安眠対策を試してみて下さい。
睡眠薬の種類と副作用
人間に対して処方される睡眠薬にはベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系、メラトニン受容体作動薬などがあります。また市販されている睡眠改善薬としてはジフェンヒドラミンが代表格です。それぞれ違った効果を有しており、猫が間違って食べてしまったり誤った量を投与した場合さまざまな副作用を引き起こしてしまいます。以下は学術論文等で報告されている一例です。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬
ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、脳内において神経細胞の抑制にかかわるGABA-A受容体に作用し、神経伝達物質の一種であるGABA(γ-アミノ酪酸)の働きを強めて鎮静や睡眠導入を促します。人間向けの精神安定剤(抗不安薬)や鎮静剤の成分としても使われていますが、乱用や依存症の危険性があるため医師の処方がないと使用できません。
ベンゾジアゼピンの副作用・人
人医学においては短時間型(半減期1~12時間)と中間型(半減期12~40時間)のベンゾジアゼピンは主として不眠症の治療に用いられますが、投薬の中止によって反跳性不眠(リバウンドの不眠症)が生じることがあります。また長時間型(半減期40~250時間)のベンゾジアゼピンは主として不安症の治療に用いられますが、高齢者や肝臓の機能が低下した人において体内に蓄積する危険性が指摘されています。
過剰摂取したときの主な症状は眼振、低血圧、運動失調、昏睡、呼吸抑制、心停止などです。
過剰摂取したときの主な症状は眼振、低血圧、運動失調、昏睡、呼吸抑制、心停止などです。
ベンゾジアゼピンの副作用・猫
猫に間違った量のベンゾジアゼピンを投与すると、中毒症状が引き起こされます。代表的な症状は元気消失、運動失調、震え、落ち着きをなくす、昏睡、瞳孔散大、多尿などです(:Bertini, 1996)。食欲が異常に亢進し、満腹状態でも食べ続けるといった副作用も一部で報告されています(:Mereu, 1976)。
また哺乳動物に対してベンゾジアゼピンを長期的に使用すると薬剤耐性がついて依存性が高まることが報告されています。投与をやめたときの禁断症状もあり、猫の場合は震え、筋トーヌスの亢進(力が入りっぱなし)、怒りっぽい、ささいな刺激を怖がる、瞳孔の散大、発声の増加などが報告されています(:O.Giorgi, 1988)。
人間向けに処方されたベンゾジアゼピン系睡眠薬を、猫が誤って飲み込んで中毒に陥るケースが報告されています。例えば2006年1月から2012年12月までの期間中、イタリア・ミラノにある中毒ヘルプセンターに寄せられたペットの症例を後ろ向きに参照したところ、中枢神経系に働きかける人間向け薬剤によるケースが14あり、そのうちベンゾジアゼピンを原因とするものが21.4%(3症例)を占めていたといいます(:Caloni, 2014)。
さらに猫に対して処方されたベンゾジアゼピンによる中毒症例もあります。アメリカ・ペンシルベニア大学の調査チームは、1986年から1995年の期間中、急性かつ小葉中心性の肝ネクローシス(ACHN)で死亡した猫合計9頭の症例を後ろ向きに参照し、原因が何であるかを検証しました。その結果、8頭ではベンゾジアゼピン系の薬剤を経口投与した履歴が確認されたといいます。投与の目的は粗相、猫同士の喧嘩、皮膚疾患、反復的な嘔吐の改善などで、投与前の段階で5頭はまったくの健康体だったとのこと。
投与から7~13日経過したタイミングで重度の肝細胞壊死と急性肝不全の症状が現れ、5頭では膵臓、5頭では心臓、5頭では腎臓における合併症が確認されました。症状が現れた後、4日以内に全頭が死亡するか安楽死という厳しい転帰をとったといいます。
こうしたデータから調査チームは、猫においてはベンゾジアゼピンの投与によって急性型の肝ネクローシスが引き起こされる危険性があるため、十分注意する必要があるとしています。ちなみに薬の投与量は体重1kg当たり1日0.23~0.82mgでした(:D.Hughes, 1996)。
また哺乳動物に対してベンゾジアゼピンを長期的に使用すると薬剤耐性がついて依存性が高まることが報告されています。投与をやめたときの禁断症状もあり、猫の場合は震え、筋トーヌスの亢進(力が入りっぱなし)、怒りっぽい、ささいな刺激を怖がる、瞳孔の散大、発声の増加などが報告されています(:O.Giorgi, 1988)。
人間向けに処方されたベンゾジアゼピン系睡眠薬を、猫が誤って飲み込んで中毒に陥るケースが報告されています。例えば2006年1月から2012年12月までの期間中、イタリア・ミラノにある中毒ヘルプセンターに寄せられたペットの症例を後ろ向きに参照したところ、中枢神経系に働きかける人間向け薬剤によるケースが14あり、そのうちベンゾジアゼピンを原因とするものが21.4%(3症例)を占めていたといいます(:Caloni, 2014)。
さらに猫に対して処方されたベンゾジアゼピンによる中毒症例もあります。アメリカ・ペンシルベニア大学の調査チームは、1986年から1995年の期間中、急性かつ小葉中心性の肝ネクローシス(ACHN)で死亡した猫合計9頭の症例を後ろ向きに参照し、原因が何であるかを検証しました。その結果、8頭ではベンゾジアゼピン系の薬剤を経口投与した履歴が確認されたといいます。投与の目的は粗相、猫同士の喧嘩、皮膚疾患、反復的な嘔吐の改善などで、投与前の段階で5頭はまったくの健康体だったとのこと。
投与から7~13日経過したタイミングで重度の肝細胞壊死と急性肝不全の症状が現れ、5頭では膵臓、5頭では心臓、5頭では腎臓における合併症が確認されました。症状が現れた後、4日以内に全頭が死亡するか安楽死という厳しい転帰をとったといいます。
こうしたデータから調査チームは、猫においてはベンゾジアゼピンの投与によって急性型の肝ネクローシスが引き起こされる危険性があるため、十分注意する必要があるとしています。ちなみに薬の投与量は体重1kg当たり1日0.23~0.82mgでした(:D.Hughes, 1996)。
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬とは、ベンゾジアゼピン系と化学構造が異なっているにも関わらず、ベンゾジアゼピン系と薬理学的によく似た作用をもたらす薬の総称です。ベンゾジアゼピン系と同様、神経伝達物質の一種であるGABA(γ-アミノ酪酸)の働きを強めて鎮静や睡眠導入を促します。
非ベンゾジアゼピン系の副作用・人
人医学においては超短時間型(作用時間は2~4時間で効果のピークが1時間未満)が主として入眠障害の治療に用いられます。しかし投薬をやめた場合の反跳作用(眠りに入りにくくなる)と離脱症状が報告されており、また乱用の危険性もあるため医師の処方がないと使用できません。
非ベンゾジアゼピン系の副作用・猫
メラトニン受容体作動薬
メラトニン受容体作動薬とは、覚醒と睡眠リズムに関わるメラトニン受容体に作用して体内時計を調整する睡眠薬の一種です。
メラトニンは脳内にある松果体と呼ばれる部位で作られるホルモンの一種で、視床下部に働きかけることで自律神経の働きを調節しています。午後8時(20時)ごろから分泌されて夜間の1~2時に最大値となり、明け方に減少するという日内リズムを持っており、体内時計のリズムを整えることから「睡眠ホルモン」の異名を持ちます。
メラトニン受容体は上記メラトニンが特異的に結合する部位のことで、体温を低下させて睡眠を促すMT1受容体と体内時計を同調させるMT2受容体が視床下部・視交叉上核にあります。メラトニン受容体作動薬はこれら2種類の受容体に働きかけることで、体内時計のリズムを整えて自然な眠りを誘発する作用を有しています。内因性のメラトニンと比較したときの受容体への結合能力は数倍です。
メラトニンは脳内にある松果体と呼ばれる部位で作られるホルモンの一種で、視床下部に働きかけることで自律神経の働きを調節しています。午後8時(20時)ごろから分泌されて夜間の1~2時に最大値となり、明け方に減少するという日内リズムを持っており、体内時計のリズムを整えることから「睡眠ホルモン」の異名を持ちます。
メラトニン受容体は上記メラトニンが特異的に結合する部位のことで、体温を低下させて睡眠を促すMT1受容体と体内時計を同調させるMT2受容体が視床下部・視交叉上核にあります。メラトニン受容体作動薬はこれら2種類の受容体に働きかけることで、体内時計のリズムを整えて自然な眠りを誘発する作用を有しています。内因性のメラトニンと比較したときの受容体への結合能力は数倍です。
メラトニン受容体作動薬の副作用・人
メラトニン受容体作動薬は眠りの途中でしょっちゅう目覚めてしまう人や、朝早くに目を覚ましてしまう人、及びなかなかぐっすり眠ることができない人を対象として処方されます。効果が現れるまでに時間を要することがあり、人によっては2~4週間ほどかかることもあります。また推奨用量である8mgを投与した人においては眠気(5%)、倦怠感(4%)、浮動性めまい(5%)といった副作用も報告されています。
メラトニン受容体作動薬の副作用・猫
猫を対象とした調査では、0.001および0.01mg/kg投与群ではレム睡眠には対照群との間に差は見られなかったものの、覚醒時間とノンレム(徐波)睡眠時間では有意差が認められたと報告されています。また0.1 mg/kg投与群では、すべての睡眠相において対照群との間に有意差が認められ、覚醒時間の短縮、ノンレム(徐波)睡眠の増加、およびレム睡眠の増加が確認されたとも。薬の作用は投与6時間後まで認められたとされています(:Miyamoto, 2004)。
日本国内で流通しているメラトニン受容体作動薬(ロゼレム)は、人間の肝臓においてシトクロムP450-1A2が49%、2C19が42%、3A4が8.6%の代謝を担っており、腸管内では3A4だけが代謝に関わっていると推定されてます(:Obach, 2010)。一方、猫のシトクロムP450(CYP)に関して2010年に行われた調査では、酵素活性が犬(CYP1A→204.4)や人間(CYP1A→200.5)に比べると半分程度と劣ることが示されています。 猫に対してメラトニン受容体作動薬を長期的に投与した調査はありませんので、肝臓への負担が増えて何らかの体調不良に陥る危険性を否定できません。
日本国内で流通しているメラトニン受容体作動薬(ロゼレム)は、人間の肝臓においてシトクロムP450-1A2が49%、2C19が42%、3A4が8.6%の代謝を担っており、腸管内では3A4だけが代謝に関わっていると推定されてます(:Obach, 2010)。一方、猫のシトクロムP450(CYP)に関して2010年に行われた調査では、酵素活性が犬(CYP1A→204.4)や人間(CYP1A→200.5)に比べると半分程度と劣ることが示されています。 猫に対してメラトニン受容体作動薬を長期的に投与した調査はありませんので、肝臓への負担が増えて何らかの体調不良に陥る危険性を否定できません。
ジフェンヒドラミン
ジフェンヒドラミンはヒスタミンH1受容体拮抗薬の一種です。本来ならヒスタミンが結合するはずのH1受容体にいち早く取り付き、結合部位を塞ぐことでヒスタミンが引き起こす炎症、気道内分泌、覚醒状態などが抑制されます。またアセチルコリンが受容体に結合するのを阻害する抗コリン薬としての側面も有しており、喉が渇く、便秘、幻覚など数多くの副作用が引き起こされます。
ジフェンヒドラミンの副作用・人
人医学では短期間な使用でもすぐに耐性が付き、薬が効かなくなるため不眠症に対する使用は推奨されていません。日本国内では「睡眠改善薬」として販売されており、医師の処方箋がなくても薬局などで入手が可能ですが、耐性のほか依存性の問題も指摘されているため、やはり長期的な使用は避けるべきとされています。
ジフェンヒドラミンの副作用・猫
猫に対しては酔い止めの薬として処方されることがあります。前庭神経の能動的・受動的活動を抑える作用が確認されている一方(:Jaju, 1971)、動きを原因とする吐き気の抑制には効果がなかった(:Lucot, 1991)という報告もあるため、船酔い・飛行機酔い・車酔いの予防薬としての効果に関しては疑問の余地があります。
人間の場合と同様、耐性がついてすぐに効果がなくなってしまう恐れがあり、また長期的に服用した場合の肝臓への負担も十分に検証されていません。睡眠薬として日常的に使用することは避けたほうが安全でしょう。
人間の場合と同様、耐性がついてすぐに効果がなくなってしまう恐れがあり、また長期的に服用した場合の肝臓への負担も十分に検証されていません。睡眠薬として日常的に使用することは避けたほうが安全でしょう。
人間向けの薬を猫に誤って投与してしまうことによる中毒症例が数多く報告されています。薬の誤飲が疑われる場合は、種類と飲み込んだ量を
確認の上、すぐ動物病院を受診して下さい。