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猫の認知症~症状・原因から予防・治療法まで

 猫の認知症(にんちしょう)について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い猫の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

猫の認知症の病態と症状

 猫の認知症とは、一度発達した脳細胞が減少し、かつてはできていた行動ができなくなってしまった状態を言います。
 猫の大きさや猫種によってまちまちですが、おおむね猫が7歳を過ぎたころから徐々に発症します。人間のアルツハイマー型認知症と同じ脳内病変が見られたという報告も過去にはあるようです。
 猫の認知症の症状としては以下のようなものが挙げられます。
猫の認知症の主症状
  • 意味もなくうろうろする
  • ドアの前で立ちすくむ
  • トイレの失敗
  • 飼い主への愛嬌が無くなる
  • 意味もなく鳴き続ける
  • 食欲不振
  • 飼い主の呼びかけや命令に応えない
  • おもちゃや遊びへの興味を失う
 認知症の徴候には様々なものがありますが、中でも多くの症例において共通してみられるものは「DISHA」(ディーシャ)と呼ばれます。認知症と診断する際の明確な採点基準はありませんが、飼い主が月に一回程度、各項目に関して評価する習慣を持っておけば、猫の変化にいち早く気づくことができるでしょう。
Disorientation
 「Disorientation」(D)とは「見当識障害」のことで、空間認知の変化、周囲の環境に対する把握不全、身に付けた経験の混乱等を意味します。具体的には以下です。
  • よく知っている屋外で迷子になる
  • よく知っている室内で迷子になる
  • よく知っている人を屋外で認識できない
  • よく知っている人を室内で認識できない
  • ドアの開いてるほうではなく蝶番の方へ向かう
  • 家の中で間違ったドアに進む
  • 落ち着きがなく家の中で歩き回る
  • 障害物を避けることができず立ち往生する
  • よく知っているものに異常な反応を示す
Interaction
 「Interaction」(I)とは「社会的交流」のことで、人間や他の動物との関わり方の変化、学習したはずの指示に対する反応の低下などを意味します。具体的には以下です。
  • 挨拶行動の低下
  • 撫でられることへの反応の低下
  • 飼い主と遊ぶことへの興味の低下
  • おもちゃで遊ぶことへの興味の低下
  • 同居動物と遊ぶことへの興味の低下
  • 指示に対する反応の低下
  • 飼い主に異常につきまとう
  • ちょっとしたことで怒り出す
  • 同居動物への攻撃性
Sleep-wake cycle
 「Sleep-wake cycle」(S)とは「睡眠サイクル」のことで、日中の睡眠時間が増え、逆に夜間の睡眠時間が減少することを意味します。具体的には以下です。
  • 就寝時間になっても寝ようとしない
  • 不眠と過眠を繰り返す
  • 夜中に徘徊して鳴く
  • 日中の睡眠時間が延びる
House soiling
 「House soiling」(H)とは「不適切な排泄」のことで、室内での排尿・排便コントロールの喪失を意味します。具体的には以下です。
  • トイレ以外の場所で排泄する
  • 睡眠場所で排泄する
  • 排泄の前兆(トイレサイン)が見られなくなる
  • 排泄場所の変化
  • 突然おしっこを漏らす
Activity
 「Activity」(A)とは「活動性」のことで、目的を持った活動の低下と無目的な活動の増加を意味します。具体的には以下です。
  • 慣れ親しんだ刺激に対する反応の低下
  • 無関心の拡大と探索行動の低下
  • 何もない場所を見つめたり、噛み付いたりする
  • 人や物や自分の体を異常に舐め続ける
  • 目的のないうろつきや無駄鳴きが増える
  • 食欲の増加
  • 食欲の低下
  • 人に対して不安や恐怖心を抱く
  • 騒音に対して不安や恐怖心を抱く
  • ある場所に対して不安や恐怖心を抱く

猫の認知症の原因

 猫の認知症の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
猫の認知症の主な原因
  • 加齢  人間の認知症同様、加齢による脳の経年劣化が最大の要因となります。一度死滅した脳細胞は基本的に再生しませんので、いちど細胞数が最大量に到達すると、あとは減る一方となります。
  • ストレス ストレスは脳内における酸化物質の蓄積を促進し、認知症を促進するとされています。
アルツハイマー型認知症の原因物質として目されている老人斑と神経線維束  加齢に伴う猫の脳内における変化は複雑です。発見されている事実としては、「脳室周囲血管における微小脳出血と梗塞」、「老人斑の沈着」、「神経線維束の形成」といったものがあります。恐らくこうした複数の要因が組み合わさることで、脳の容積減少につながっているものと推測されています。なお、最後に挙げた2項目は、人間のアルツハイマー型認知症の原因としても注目されている物質です。「老人斑」は異常に蓄積したβアミロイドタンパク、そして「神経線維束」はタウタンパクから構成されています。

猫の認知症の治療

 猫の認知症の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
猫の認知症の主な治療法
  • 薬物療法  基本的に認知症に対する特効薬は存在しません。しかし脳内におけるドーパミン生成量を増やすある種の薬(Anipryl,アニプリール)が、認知症の軽減に効果があるとも言われています。この薬は人間のアルツハイマー患者に投与されることもありますが、だからといって人間用の薬を猫に与えないでください。また、猫用の薬を与えたとしても、全ての猫に等しく奏功するわけではありません。
  • 食餌療法 抗酸化物質を含んだ食餌が、アルツハイマー型認知症を予防すると言われています。
  • ストレスの軽減 ストレスは脳内における酸化物質の蓄積を促進する危険性がありますので、なるべくストレスフリーな生活環境を整えてあげることが、予防策でもあり悪化防止策でもあります。具体的には以下のページをご参照ください。猫の幸福とストレス
  • 猫に合わせた生活スタイルを作る  猫が暮らしやすいような生活空間を作るとか、粗相をしても叱らないとか、嫌がっているのに無理になでようとしないなど、猫の知力と体力に合わせた新しい習慣に、少しずつシフトしていくのが理想です。忍耐と寛容が最も重要となります。 猫の老化・老衰