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猫のてんかん~症状・原因から予防・治療法まで

 猫のてんかんについて病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い猫の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

猫のてんかんの病態と症状

 猫のてんかんとは、脳内の神経に異常な興奮が起こり、体のコントロールを失ってしまう状態です。犬と比較すると、猫のてんかんは極めてまれとされます。
脳内にある神経細胞と軸索の模式図  脳内では数十億個の神経細胞が、軸索やシナプスと呼ばれる電気ケーブルで結ばれています。しかし様々な原因で神経細胞が異常発火(てんかん放電)を起こし、まるで花火が暴発したかのように無秩序に興奮が起こることがあります。これが「てんかん発作」です。猫はけいれんしたり昏倒したりしますが、発作が治まるとまるで何事も無かったかのように振舞います。また発作と回復の間に、「無目的に同じ歩調で歩き続ける」(ペーシング)、「やたらに水や食餌を欲しがる」といった「発作後行動」を見せる個体もいますが、通常は24時間以内に消失します。
 発作が30分以上続く場合や、24時間で3回以上起こる場合は「てんかん重積」と呼ばれ、通常のてんかんとは区別されます。中毒や脳の外傷など、早急な治療を要する可能性がありますので、発作が10分経っても収まらない時は速やかに獣医さんにご相談ください。また発作後に一時的な排尿困難を伴うケースも報告されていますので、猫が24時間以上おしっこをしない場合は獣医さんに人為的な排尿をお願いした方がよいでしょう。猫でよく見られるてんかんの症状としては以下のようなものが挙げられます。
猫のてんかんの主症状
  • 四肢の硬直
  • けいれん
  • 口から泡を吹く
  • 失禁
 以下でご紹介するのは、猫がてんかん発作を起こしている状況をとらえた動画です。 元動画は→こちら
 なお、てんかん発作に似たものとして「てんかん様発作」があります。これは、一見てんかんに見えるものの、実は全く違った原因によって引き起こされる発作のことです。具体的には以下のようなものがあります。発作時の様子を動画で撮影しておくと、鑑別診察の際に非常に役立つでしょう。
猫のてんかん様発作
  • 反応性発作 反応性発作とは、体内の代謝異常が原因となって起こる発作のことです。繰り返し発生するものではなく、原因さえ取り除けば症状は消失します。具体的には低血糖症、低酸素症、低カルシウム血症、高カルシウム血症、低マグネシウム血症などの血液異常、腎臓疾患肝臓疾患といったの内臓異常、毒物有毒植物の摂取による急性中毒などです。
  • ナルコレプシーとカタプレキシー 今まで普通に動いていた動物が、突然動かなくなる現象のことです。目を閉じて意識を失うのを「ナルコレプシー」(narcolepsy)、目を開けたまま意識を保っているのを「カタプレキシー」(cataplexy)として区別します。犬や猫は眠いわけではないのに、突然突っ伏したり横に倒れたりします。継続時間は数秒~30分で、外界からの刺激で元に戻ることが多いようです。てんかんが激しいけいれんと硬直を特徴としているのに対し、ナルコレプシーとカタプレキシーは全身の脱力を特徴としています。原因としては遺伝、自己免疫疾患、神経系の不具合などが考えられますが、よくは分かっていません。発症の引き金となるものが明確な場合は、それを生活環境の中から排除します。そして転倒しても大けがをしないよう、常に安全な場所を確保し、動物をよく観察するよう心がけます。 ナルコレプシーの様子(犬)

猫のてんかんの原因

 猫のてんかんの原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
猫のてんかんの主な原因
発作の分類体系~てんかん様発作とてんかんの違い
  • 脳の構造的な変質  脳そのものの異常がてんかんの原因になることがあります。具体的には腫瘍、脳炎、脳の奇形、外傷による脳の損傷などです。6ヶ月齢未満の非常に若い子猫が発作を起こした場合や、今まで何の兆候も見せていなかった5歳以上の猫が突然発作を起こした場合、脳の先天的・後天的疾患の可能性が高まります。なお、犬や猫のてんかんを研究する国際組織「IVETF」(国際獣医てんかん専門委員会)が2015年に発表した分類に従うと、脳の器質的な変質に起因するてんかんは「構造性てんかん」(Structural epilepsy)という用語でくくられ、さらに「焦点性てんかん発作」、「全般性てんかん発作」、「焦点性から全般性への発展」(複合性)に細分されます。
  • 遺伝  てんかんと紛らわしい「てんかん様発作」ではなく、また脳内に器質的な変質が見られない場合は、遺伝が関わっていると考えられます。犬や猫のてんかんを研究する国際組織「IVETF」(国際獣医てんかん専門委員会)が2015年に発表した分類に従うと、遺伝に起因するてんかんや原因不明のてんかんは、全て「特発性てんかん」(Idiopathic epilepsy)という用語でくくられます。「IVETF」の提言書では、原因がはっきりしない特発性てんかんに対して、積極的にMRIを用いることを推奨しているようです。MRIを用いるメリットは、脳内にてんかん発作の原因部位が発見され、「特発性てんかん」が「構造性てんかん」となり、治療の見通しが立てやすくなること。逆にデメリットは、患猫に対して全身麻酔をする必要があることや飼い主の経済的負担などです。提言書の中では、MRIの具体的な適用手順についても述べられています。
 2015年に行われた研究により、特に高齢猫においては「高い音」がてんかん発作の引き金になる可能性が示されています。具体的には「アルミホイルをしわくちゃにする」、「スプーンでセラミックの器を叩く」、「コップをチーンと鳴らす」、「紙やビニール袋をしわくちゃにする」、「キーボードを叩く・マウスをクリックする」、「硬貨や鍵をジャラジャラ鳴らす」、「舌打ちをする」などです。詳しいメカニズムは分かっていませんが、この種のてんかんは今後、「FARS」(ネコ聴源反射性発作)という名で分類される可能性があります。

猫のてんかんの治療

 猫のてんかんの治療法としては、主に以下のようなものがあります。
猫のてんかんの主な治療法
  • 基礎疾患の治療  腎臓病や肝臓病など、別の疾病によっててんかんに似た発作(反応性発作)が引き起こされている場合は、まずそれらの基礎疾患への治療が施されます。
  • 薬物療法  原因のよく分からない特発性のてんかんには抗てんかん薬(フェノバルビタール、ジアゼパムなど)による薬物療法が施されます。なお経口薬を突然中止すると発作が激化する可能性があるため、投薬忘れや自己判断による投薬中断にはご注意ください。
     投薬治療の「第一目標」は、発作が完全になくなる(発作フリー)か発作間隔が3ヶ月以上に伸びることです。この目標が難しい場合は「第二目標」に視点を移し、「発作の頻度や程度が低下すること」を目指します。この目標すら難しいと判断された場合は、いさぎよく現行の薬を他のものにチェンジし、再び「第一目標」の達成を目指します。 猫の特発性てんかんに対する一般的な投薬計画
  • 高い音に気を付ける 猫が高齢で、なおかつある特定の音刺激がきっかけとなっててんかん発作が出ているような場合は、日常生活の中から極力そうした高い音をなくすよう心がけます。
  • 発作時の対処  てんかん発作が起こったときは、基本的に飼い主の側でできることはなく自然に発作がおさまるまで待ちます。ただし嘔吐などを伴う場合は気道が詰まって呼吸困難に陥ることもありますので、口の中の異物を取り除いてあげましょう。
     またてんかんの前駆症状として、妙に甘えてくる、水をたくさん飲む、昏睡するなどの症状を見せるものがいます。こうした徴候が見られたら、猫を高いところから床におろす、クッションを敷いてあげるなど、倒れても危険ではない状況を作ってあげます。