猫アレルギーの主要アレルゲン「Fel d 1」を減らす効果を持ったキャットフードが登場

　報告を行ったのはペットフードメーカー「ネスレピュリナ」の研究チーム。106頭（7ヶ月齢～17歳）の猫を対象とし、「IgY抗体」と呼ばれる特殊な免疫抗体を含んだ卵の黄身を原料に製造したキャットフードが、猫の体で生成されるFel d 1の量にどのような影響を及ぼすかを検証しました。

IgY抗体

　IgY抗体とは鳥類が自然生成する免疫抗体の一種。哺乳類の IgG抗体に相当するもので、母鶏の体内から卵の中に移行することで、生まれてくるヒヨコに移行免疫を賦与する。

　産卵鶏の体内にあらかじめFel d 1を注射しておくと、鳥の体内でFel d 1に反応するIgY抗体が形成され、それが卵黄の中に移行します。この卵黄を原料としてキャットフードを作ると、フードを食べた猫の体内にIgY抗体が移行し、Fel d 1と結合して中和してくれるという寸法です。当調査においてはフード中の抗体濃度が「8ppm」（1kg中8mg）になるよう調整されました。
　最初の2週間では卵黄を含まないフードを与えベースライン期間としました。次の10週間では卵を含んだフードを与え、週に1度のペースで活性型Fel d 1の量を唾液が付着した被毛経由で計測しました。その結果が以下です。 　給餌を始めて3週目くらいからFel d 1量の急激な減少が見られ、10週目における減少幅は33～71%で平均値は47%と推定されました。およそ半数の猫では量が半減、86%の猫では少なくとも3割の減少が確認されたとも。
　また以下はベースライン期間におけるFel d 1の量に関し、多い順に4クラスに分類した時の変化グラフです。どのクラスにおいても10週目において統計的に有意な減少が確認されましたが、減少幅は元々Fel d 1の量が多い猫（※紫色）において最大であることが判明しました。 Reduction of active Fel d1 from cats using an antiFel d1 egg IgY antibody
Ebenezer Satyaraj PhD, Cari Gardner, Ivan Filipi, Kerry Cramer, Scott Sherrill MS, Immunity, Inflammation and DiseaseVolume 7, Issue 2, https://doi.org/10.1002/iid3.244

　過去に行われた調査では、家庭内におけるFel d 1の量をわずか6.8%減らしただけで猫アレルギーに起因する鼻炎症状が顕著に改善したと報告されています（:Bjornsdottir, 2003）。また実験室レベルでは、鳥由来のIgY抗体がFel d 1のエピトープと結合し、人間の体内で起こるIgE抗体介在性のヒスタミン放出を抑制したとされています。
　今回の調査では、活性型のFel d 1に関し平均して47%の減少が確認されましたので、アレルギー患者が自覚できるレベルの症状の改善が期待できるのではないかと考えられています。ただし注意すべきは、猫の体内で生成されるFel d 1の量自体が減るのではなく、生成されたFel d 1にIgY抗体が結合することにより、アレルギー反応を引き起こさない分子構造に変化させる（＝不活性化する）という点です。 　猫アレルギーに関しては近年、ワクチン接種によって体内に抗体を作り、活性型のFel d 1を減らすという画期的な方法が開発されています。今回登場した「アレルゲン低減フード」の効果が本物なら、猫にワクチン注射という身体的な負担を強いることなく、アレルゲンを少なくすることができるということになりますので、市場において大きなPRポイントになるでしょう。ただし報告を行ったのはペットフードメーカー自身ですので、スポンサーバイアスは加味しなければなりません。
　なお2021年に行われた追加実験により、抗体含有フードが環境中に放出されるアレルゲンを減らし、アレルギー患者の症状を実際に軽減する可能性が示されています。 猫アレルギー完全ガイド ワクチン接種でアレルギーを引き起こしにくい猫を作り出せるかも 猫アレルゲンを減らすキャットフードはアレルギー患者の症状を軽減できる？