スクラッフィングのストレス
調査を行ったのはカナダ・グエルフ大学を中心としたチーム。臨床の現場でしばしば獣医師や動物看護師によって行われるスクラッフィングが、猫に対してどのようなストレスを与えているかを検証するため、動物保護施設に収容された猫たちを対象とした実験を行いました。
- スクラッフィング
- スクラッフィング(scruffing)はうなじの皮膚を手でつかむことで体が動かないように固定すること。 母猫が子猫を運ぶときに生じる「背部不動化反射」(dorsal immobility reflex)を再現できることから、 猫を診察する獣医療の現場でたびたび用いられる。
人なつこさテスト
キャリーに入れた状態の猫を実験室内に入れて出入り口を開ける→キャリーから2分以内に自発的に出て「見知らぬ人が座っている椅子から半径50cm以内に近づく」「見知らぬ人が近づいてなでることを3回連続許容する」という2つの条件を満たした場合「人なつこい」とみなす。逆にどちらか一方でもクリアできなかった場合は「人見知り」とみなす。
【結果】
人なつこい猫→39頭/人見知りの猫→13頭
【結果】
人なつこい猫→39頭/人見知りの猫→13頭
拘束テスト
「人なつっこさテスト」が終わった後、猫を診察台に乗せ、受動的な拘束を1分間行う→拘束の後、30秒間猫の自発的な行動を観察する→3つ(全身 | クリップ | スクラッフィング)のうちのどれか1つの拘束をランダムで1分間行う→拘束の後、30秒間猫の自発的な行動を観察する
✓人なつこい猫39頭→全身拘束14頭+スクラッフィング15頭+クリップ10頭
✓人見知りの猫13頭→全身拘束5頭+スクラッフィング2頭+クリップ6頭
- 受動的な拘束猫の体に軽く手を添え、定位置から動かないようにする拘束。強く抑えたりはしない。
- 全身拘束猫を横向きに寝かせ、両手と両足を固定する拘束。
- クリップ「Clipnosis」と呼ばれる専用のクリップを首筋に装着する拘束。
- スクラッフィング猫のうなじを手で強く掴む拘束。
✓人なつこい猫39頭→全身拘束14頭+スクラッフィング15頭+クリップ10頭
✓人見知りの猫13頭→全身拘束5頭+スクラッフィング2頭+クリップ6頭
総合判定
拘束の前後における猫のストレス指標を解析し、統計的に有意(=明白な格差がある)と判断された項目は以下です。
Veterinary Record (2019), Carly M Moody, Georgia J Mason, Cate E Dewey, Lee Niel, DOI:10.1136/vr.105261
- 呼吸数全身拘束>受動的拘束
- 瞳孔拡大率全身拘束およびスクラッフィング>受動的拘束およびクリップ
※特に人見知りのメス猫で顕著 - 発声全身拘束およびクリップ>受動的拘束およびスクラッフィング
- 耳の位置全身拘束およびクリップおよびスクラッフィング>受動的拘束
- 口なめ回数受動的拘束>スクラッフィング
※特にメス猫で顕著 - ハンドリング後の反応口なめが出る確率はメスがオスの2.36倍/口なめ回数は6歳をピークとした山型/発声が出る確率は全身拘束>受動的拘束
Veterinary Record (2019), Carly M Moody, Georgia J Mason, Cate E Dewey, Lee Niel, DOI:10.1136/vr.105261
結論「やらないに越したことはない」
スクラッフィングという手技に関してはマウスを対象とした調査でリラックス効果があるとの結果が示唆されています(:Fleischmann A, 1988)。猫に対して同じテクニックが頻繁に用いられる理由は、上記したような風説が十分な検証もないまま一般化されたからだと考えられます。
過去に行われた調査により、うなじに対する持続的な圧力が猫の不動化反射を高い確率で引き起こすことが確認されています。また福祉に関連した直近の調査では、少なくともクリップがスクラッフィングよりも猫の福祉を損なっている証拠は見当たらないとの結果が得られています。しかし今回の調査では、クリップにしてもスクラッフィングにしても、少なくともマウスで見られるようなリラックス効果は猫では見られないことが確認されました。こうした結果を踏まえ調査チームは使わないに越したことはないと言及しています。 猫の福祉向上に努める国際組織ICCでは、猫に優しいキャットフレンドリークリニックにおけるスクラッフィングを禁じています。動物病院でスクラッフィングをされた場合、猫がそれほど動かないのであれば受動的拘束に切り替えてもらうようお願いした方が良いかもしれません。使用が許容されるのは、猫がどうしても動いて正確な診察ができないときや、災害時に急いで猫を捕まえなければならない時に限られるでしょう。
過去に行われた調査により、うなじに対する持続的な圧力が猫の不動化反射を高い確率で引き起こすことが確認されています。また福祉に関連した直近の調査では、少なくともクリップがスクラッフィングよりも猫の福祉を損なっている証拠は見当たらないとの結果が得られています。しかし今回の調査では、クリップにしてもスクラッフィングにしても、少なくともマウスで見られるようなリラックス効果は猫では見られないことが確認されました。こうした結果を踏まえ調査チームは使わないに越したことはないと言及しています。 猫の福祉向上に努める国際組織ICCでは、猫に優しいキャットフレンドリークリニックにおけるスクラッフィングを禁じています。動物病院でスクラッフィングをされた場合、猫がそれほど動かないのであれば受動的拘束に切り替えてもらうようお願いした方が良いかもしれません。使用が許容されるのは、猫がどうしても動いて正確な診察ができないときや、災害時に急いで猫を捕まえなければならない時に限られるでしょう。
日本国内ではスクラッフィングが虐待まがいの行為であるという認識が薄いようです。実例としては「つままれるねこ」などと称して猫の首筋をつかんで持ち上げるデザインのカプセルトイが発売されています。良識ある猫の飼い主ならこうした悪ふざけに同調しないでしょうが、くれぐれも「いいね」などしないでください。「スクラッフィングは猫にストレスをかけている」という知識が広まったあとで振り返ると自己嫌悪に陥りますので。「楽しんで」という言葉から、作る側も見る側もスクラッフィング(うなじをつかんで持ち上げること)が虐待であるという認識がないようです。今後数年かけて気づきを広めていくしかありませんね。#猫動物虐待 #いいねの犠牲になる猫 #つままれるねこ
— 子猫のへや (@konekono_heya) September 11, 2019
【icc】→https://t.co/mtotEK73oZ https://t.co/73kOI8uFYb
なお不動化反射やつまみ誘発性行動抑制(PIBI)に関する詳しい解説は以下のページでも行っています。