猫の舌には空洞あり!
猫の舌の表面にびっしりと出ている突起は糸状乳頭(しじょうにゅうとう, filiform papillae)と呼ばれます。ネコ科動物の多くが共有することの構造は、グルーミングするときのブラシ、骨から肉をそぎ落とす時のナイフ、水を飲む時のひしゃく、ノミ取りブラシといった役割を持っていると推測されています。
今回の報告を行ったGeorgia Institute of Technologyの調査チームによると、糸状乳頭は少なくともイエネコ、ボブキャット、クーガー、ユキヒョウ、トラ、ライオンという6種類のネコ科動物すべてが保有しており、体重では30倍近くの差があるにもかかわらず、1本の長さはほぼ共通の「2.3 mm」だったと言います。また特に舌の中央部分の乳頭が発達していたとも。さらに調査チームはマイクロCTと呼ばれる機器を用いて糸状乳頭の3次元構造を精密に観察しました。その結果、これまで考えられてきた三角コーン(Boshel J, Wilborn W, 1982)のような単純な構造ではなく、ちょうど猫の爪のように内部に空洞部分を有した複雑な構造物であることが判明したといいます。模式的に表すと以下のような感じです。解剖学的な名称がないため、チームは便宜上この乳頭を「窩洞乳頭」(Cavo papillae)と呼んでいます。
窩洞乳頭はストロー?
乳頭の管状構造は一体何のためにあるのでしょうか? 調査チームは特徴的な構造から「ストローのように毛細管現象によって液体を吸い上げているのでは?」という仮説を立て検証実験を行いました。
色をつけた液体を糸状乳頭の先端に接触させたところ、思ったとおり毛細管現象で0.1秒以内に液体がU字型をした管の中に吸い上げられたと言います。また一度吸い上げられた液体は安定し、ひっくり返しても管の中に残ったままだったとも。 1つの乳頭で吸い上げることができる液体の体積は0.014μL、舌の上に290個の乳頭があった場合はトータルで4.1μLの唾液を吸い上げることができると推計されています。
色をつけた液体を糸状乳頭の先端に接触させたところ、思ったとおり毛細管現象で0.1秒以内に液体がU字型をした管の中に吸い上げられたと言います。また一度吸い上げられた液体は安定し、ひっくり返しても管の中に残ったままだったとも。 1つの乳頭で吸い上げることができる液体の体積は0.014μL、舌の上に290個の乳頭があった場合はトータルで4.1μLの唾液を吸い上げることができると推計されています。
乳頭は被毛を貫通する
体の大きさにかかわらず、ネコ科動物たちの糸状乳頭の長さはほぼ一定の2.3 mm程度でした。この事はサイズが重要であることを意味しています。
調査チームは、猫がグルーミングしている様子をハイスピードカメラで観察し、4つのフェイズに区分できる事に気づきました。
様々な被毛を持つ19種類のネコ科動物(そのうち9種類はイエネコの品種)でシミュレーションしたところ、最も「グルーマブル」(※舌の乳頭が被毛を貫通して皮膚に到達できること)な動物は、被毛が短くて密度が薄いカラカル、チーター、ヒョウであると判定されました。逆に「アングルーマブル」(※舌の乳頭が被毛を貫通できず皮膚に到達できないこと)な動物は長毛種の代表「ペルシャ」と「チンチラ」(※ペルシャの亜種)でした。
調査チームは、猫がグルーミングしている様子をハイスピードカメラで観察し、4つのフェイズに区分できる事に気づきました。
グルーミングの4フェイズ
- 伸長フェイズ舌を縦方向(口の外)へ伸ばす
- 拡張フェイズ舌を横方向へ伸ばす
- 払拭フェイズ舌を硬直させて表面を対象物に接触させ、そのまま拭い取る
- 回収フェイズ出した舌を口の中に引き込む
様々な被毛を持つ19種類のネコ科動物(そのうち9種類はイエネコの品種)でシミュレーションしたところ、最も「グルーマブル」(※舌の乳頭が被毛を貫通して皮膚に到達できること)な動物は、被毛が短くて密度が薄いカラカル、チーター、ヒョウであると判定されました。逆に「アングルーマブル」(※舌の乳頭が被毛を貫通できず皮膚に到達できないこと)な動物は長毛種の代表「ペルシャ」と「チンチラ」(※ペルシャの亜種)でした。
唾液による気化と体温調整
過去の調査では、「猫が体温を下げる時、およそ3分の1は唾液の気化熱を利用している」(Hart B, 1976)とか「猫は起きている時間の24%をグルーミングに費やす」(Gebremedhin, 2001)などと報告されています。調査チームはこれらの古典的な報告に着想を得て、グルーミングによる気化熱が実際どの程度になるのを綿密にシュミレーションしてみました。用いたデータは以下です
グルーミングによる気化熱
- 水が保有する潜在的な気化熱は575cal/g
- 猫は1日平均14時間睡眠する
- 猫が起きている時間は10時間
- 起床時間の24%(2.4時間)をグルーミングに費やす
- 1秒間に1.4回グルーミングする
- 乳頭が保持できる液体量は4μL
- 乳頭の数は290個
- 唾液の総量は48g
猫舌ブラシのメリット
調査チームは今回得られた知見を猫アレルギー用のブラシ開発につなげられるのではないかと考えているようです。
猫の舌を模したブラシを3Dプリンターで再現し、人間用のヘアブラシと使用感を比較した所、人間用ブラシよりも猫舌ブラシの方が毛のもつれを解消するのに要した回数が少なかったと言います。またブラシから抜け毛を取り除く手間に関しても、猫舌ブラシの方が圧倒的に楽でした。ちなみに調査チームはこのブラシのことを「tongue inspired grooming」の頭文字を取って「TIGRブラシ」と呼んでいます。 猫舌ブラシ(TIGRブラシ)はさらに、猫アレルギーを引き起こすアレルゲンの軽減にもつながるのではないかと期待されています。アレルゲン(代表はFel d 1)は猫の被毛に豊富に含まれています。猫の被毛を「猫舌ブラシ」でブラッシングし、可能な限り無駄毛を除去することができれば、アレルゲンと接する可能性を効率的に減らせるのではないかというのがその根拠です。
日本国内でも舌を模したラバーブラシや「ねこじゃすり」といった商品があります。次世代の猫用ブラシは、かなり本物の舌に近い形になるのではないでしょうか。開発が楽しみです。なお以下では論文の要約版と実験動画などを確認できます。ご興味のある方はご自分で精読してみてください。 Cats use hollow papillae to wick saliva into fur
Alexis C. Noel and David L. Hu, PNAS(2018), doi.org/10.1073/pnas.1809544115
猫の舌を模したブラシを3Dプリンターで再現し、人間用のヘアブラシと使用感を比較した所、人間用ブラシよりも猫舌ブラシの方が毛のもつれを解消するのに要した回数が少なかったと言います。またブラシから抜け毛を取り除く手間に関しても、猫舌ブラシの方が圧倒的に楽でした。ちなみに調査チームはこのブラシのことを「tongue inspired grooming」の頭文字を取って「TIGRブラシ」と呼んでいます。 猫舌ブラシ(TIGRブラシ)はさらに、猫アレルギーを引き起こすアレルゲンの軽減にもつながるのではないかと期待されています。アレルゲン(代表はFel d 1)は猫の被毛に豊富に含まれています。猫の被毛を「猫舌ブラシ」でブラッシングし、可能な限り無駄毛を除去することができれば、アレルゲンと接する可能性を効率的に減らせるのではないかというのがその根拠です。
日本国内でも舌を模したラバーブラシや「ねこじゃすり」といった商品があります。次世代の猫用ブラシは、かなり本物の舌に近い形になるのではないでしょうか。開発が楽しみです。なお以下では論文の要約版と実験動画などを確認できます。ご興味のある方はご自分で精読してみてください。 Cats use hollow papillae to wick saliva into fur
Alexis C. Noel and David L. Hu, PNAS(2018), doi.org/10.1073/pnas.1809544115