詳細
猫の注射部位肉腫(Feline Injection Site Sarcoma, FISS)は、注射をした場所からガンの一種である肉腫が発生する病気。不活化ワクチンに含まれる免疫反応増強剤「アジュバント」が原因と考えられていますが明確な発症メカニズムに関してはよくわかっていません。猫では線維芽細胞が悪性化した「線維肉腫」が多く報告されています。
今回の調査を行ったのはタフツ大学のカミングス獣医学校が中心となったチーム。かねてから発がん性があると目されているアジュバントのアルミニウムに着目し、チャイニーズハムスターの卵巣から培養された「CHO」と呼ばれる医療用細胞、および脳腫瘍など全く別の理由で死亡が確認された猫から採取された線維芽細胞を用いた検証実験を行いました。その結果、が以下のような事実が判明したといいます。
こうした結果から調査チームは、細胞毒性にしても細胞増殖性にしても、免疫反応(炎症)が介在しない状態で発現したことから、アルミニウムには直接的にDNAにダメージを与えたり細胞を増殖させる能力がある可能性を示しました。ただし具体的なメカニズムに関してはよくわからないとしています。 Feline vaccine-associated sarcomagenesis: Is there an inflammation-independent role for aluminium?
M. A. AbdelMageed,P. Foltopoulou,E. A. McNiel, Veterinary and Comparative Oncology, DOI: 10.1111/vco.12358
アルミニウムの対細胞作用
- CHODNAの一本鎖切断を修復するときに必要となるXRCC1タンパクを作れない変異細胞よりも、二本鎖分断を修復するときに必要となるDNA PKcsと呼ばれる酵素を作れない変異細胞の方が、水酸化アルミニウムの毒性を受けて死滅しやすい。
- ネコ線維芽細胞水酸化アルミニウムにしても塩化アルミニウムにしても、CHOで見られたような細胞毒性は確認されなかった。それどころか、塩化アルミニウムの存在によって細胞の増殖作用が見られた。
こうした結果から調査チームは、細胞毒性にしても細胞増殖性にしても、免疫反応(炎症)が介在しない状態で発現したことから、アルミニウムには直接的にDNAにダメージを与えたり細胞を増殖させる能力がある可能性を示しました。ただし具体的なメカニズムに関してはよくわからないとしています。 Feline vaccine-associated sarcomagenesis: Is there an inflammation-independent role for aluminium?
M. A. AbdelMageed,P. Foltopoulou,E. A. McNiel, Veterinary and Comparative Oncology, DOI: 10.1111/vco.12358
解説
これまで注射部位肉腫(FISS)は注入されたアジュバントが注射部位に炎症反応を引き起こし、これが細胞のガン化を促しているのではないかと推測されてきました。しかし今回の調査では、炎症細胞が存在しない環境下においてもアルミニウムが細胞毒性や細胞増殖性を有している可能性が示されました。つまりアルミニウムは間接的ではなく直接的な発がん性を有している可能性が強いということです。
猫以外の動物を対象とした調査では、アルミニウムが植物、バッタの精母細胞、マウスの骨髄において染色体変異を引き起こすことが確認されています。また塩化アルミニウムが人間のリンパ球やコイ(魚)の染色体にダメージを与える可能性が示唆されています。今回の「CHO」を用いた調査と考え合わせると、アルミニウムがDNAや染色体にダメージを与えて細胞のガン化を促している可能性がうかがえます。
一方、猫においてはアルミニウムが線維芽細胞の増殖を促すという奇妙な現象が確認されました。猫の場合はアルミニウムが細胞にダメージを与えてガン化を促しているのではなく、アルミニウムが細胞増殖を促し、増殖した細胞が何らかの別の理由でガン化することでFISSに発展しているのかもしれません。 今回の調査ではアジュバントに含まれるアルミニウムが焦点となりましたが、アルミニウムを介在しないステロイド、NSAIDs、抗炎症薬、殺ノミ薬(lufenuron)、抗生物質の注射、マイクロチップ、体内留置型の医療機器、手術時に取り出し忘れた吸水素材、非吸収性の外科用縫合糸も、少数ながらFISSの原因になりうることが示唆されています。またなぜ狂犬病ワクチンを射つことが多い犬では発症例が少なく、猫で多いのかもよくわかっていません。発症頻度は1万頭当たり1~3.6頭(米国内のみ)程度とそれほど多くありませんが、不活化ワクチンを射つ場合はアジュバント(アルミニウム)を含んだものがFISSの原因になりうるということを、頭の片隅で思い出したほうがよいでしょう。
一方、猫においてはアルミニウムが線維芽細胞の増殖を促すという奇妙な現象が確認されました。猫の場合はアルミニウムが細胞にダメージを与えてガン化を促しているのではなく、アルミニウムが細胞増殖を促し、増殖した細胞が何らかの別の理由でガン化することでFISSに発展しているのかもしれません。 今回の調査ではアジュバントに含まれるアルミニウムが焦点となりましたが、アルミニウムを介在しないステロイド、NSAIDs、抗炎症薬、殺ノミ薬(lufenuron)、抗生物質の注射、マイクロチップ、体内留置型の医療機器、手術時に取り出し忘れた吸水素材、非吸収性の外科用縫合糸も、少数ながらFISSの原因になりうることが示唆されています。またなぜ狂犬病ワクチンを射つことが多い犬では発症例が少なく、猫で多いのかもよくわかっていません。発症頻度は1万頭当たり1~3.6頭(米国内のみ)程度とそれほど多くありませんが、不活化ワクチンを射つ場合はアジュバント(アルミニウム)を含んだものがFISSの原因になりうるということを、頭の片隅で思い出したほうがよいでしょう。