詳細
調査を行ったのはイギリスや香港の大学などからなる共同チーム。2012年から2016年の期間、韓国のソウルにある一次診療施設を受診した猫4,014頭の中から、特発性膀胱炎と診断された58頭と同疾患を抱えていない猫281頭を選別し、病気の発症因子となっている屋内環境を比較検討しました。
Younjung Kim et al., Journal of Feline Medicine and Surgery1-9, DOI: 10.1177/1098612X17734067
- 特発性膀胱炎
- 特発性膀胱炎(FIC)とは、臨床検査で発症原因を明確化できなかった膀胱炎の総称。猫の場合はストレスが発症に大きな影響を及ぼしていると考えられている。詳しくは以下。
FICの原因となると屋内環境
- オス猫=2.34
- 賃貸暮らし=2.53
- 非凝固型の猫砂=2.62
- 多頭飼い=3.16
- 高い場所がない=4.64
Younjung Kim et al., Journal of Feline Medicine and Surgery1-9, DOI: 10.1177/1098612X17734067
解説
特発性膀胱炎に関する疫学調査は過去にもたくさん行われてきましたが、「屋外にアクセスできる猫の割合が65%」といった難点を含んでいました。今回の調査では患猫も比較対象となった猫も90%以上が完全室内飼いでしたので、まぎれの少ない状態で屋内環境と病気の関係性が検証できたと考えられています。
メス猫よりもオス猫の方が2.34倍発症しやすいという結果になりました。この傾向は過去の調査でも確認されていることですが、オス猫とメス猫の不妊手術率が患猫で100%、対照猫で91%でしたので、「オス猫が発症しやすい」のか「去勢手術を施したオス猫が発症しやすい」のかは解釈が難しいところです。今後の調査では、未手術の雌雄猫を含めた比較検証を行っていく必要があるでしょう。
固まるタイプの猫砂を使っている猫より、それ以外の猫砂を使っている猫の方が2.62倍発症しやすいという結果になりました。過去に行われた調査では、15種類の異なるタイプの猫砂を試したところ、粒子が細かくて固まるタイプを好む傾向があった(Borchelt, 1991)とか、シリカゲルの猫砂より固まるタイプの猫砂を好む傾向があった(Neilson, 2001)という報告がありますので、「猫砂」という言葉とは裏腹に、そもそも猫は固まりにくいサラサラした素材が嫌いなのかもしれません。猫砂の素材が原因でトイレを忌避しているような場合は、固まるタイプのものを試してみるとリアクションが変わるかもしれません。
単頭飼いの猫より多頭飼いの猫の方が3.16倍発症しやすいという結果になりました。「1頭だけでは寂しいだろう」という解釈から多頭飼いをする人も多いと思いますが、猫からすると他の猫の存在がストレスの要因になりえますので要注意です。これはちょうど、人が集まる場所があまり好きではない人を、親戚同士の集まりや飲み会に強引に連れ出す状態に近いと考えられます。相手が人間であれ猫であれパーソナルスペースを尊重し、他の個体と十分な距離を保てるだけの空間配置を整えてあげることが肝要です。
一軒家よりも賃貸暮らしの猫の方が2.53倍発症しやすいという結果になりました。面積が狭い賃貸ルームでは環境の変化が少なくて猫が退屈し、これがストレスになっているという考え方もありますが、場所の選択肢が少ないという事の方が猫にとってのストレスになると考えられます。天気の良い日のひなたぼっこスペースや、飼い主や同居猫の存在をうざいと感じた時の隠れ場所などが、部屋の中にちゃんと設けられているかを再確認したほうがよいでしょう。
見晴らし台がある家庭よりも見晴らし台がない家庭の猫の方が4.64倍発症しやすいという結果になりました。猫にとって相手を見下ろせる高い場所は隠れ場所と同じくらい重要なものです。周囲が無防備なキャットツリーのみならず、壁際の高いところに棚を設けてあげたり、家具を利用して人間の目線よりも高い場所に休息場所を作ってあげると、猫は安心すると考えられます。カーテンレールやエアコンの上に猫が上がってしまうような場合は、「見晴らし台がないじゃないか!」という猫からの抗議です。少しお金をかけて満足いく見晴らし台(vantage point)を用意してあげましょう。