詳細
元野良猫の「ファントム」(8ヶ月齢/不妊手術済み)が、餌を食べる時や水を飲む時に口を開けられないという主訴で来院した。実際に診察したところ、顎の可動域は左側が2mm、右側が6mmしかなく、合併症を伴わない右上顎犬歯の歯尖破折が見られた。
顎全体では左右の歯が非対称のまま固定するクラス4の不正咬合(ライバイト)があり、舌からの慢性的な圧力が原因と考えられる右上顎犬歯の前方傾斜が確認された。過去の怪我によって舌の先端が蛇のように二股に分かれていたものの、若干の心雑音が聞こえる以外健康状態はおおむね良好だった。
頭蓋骨を触診してみたところ左側の頬骨弓に凹みがあり、顎関節の片側性もしくは両側性の強直(きょうちょく=固まって動かない状態)が強く疑われたため、CTスキャンによって顎の状態を3次元的に確認することにした。口を開くことができないため気管経由で全身麻酔を施し、スキャンを行ったところ、どちらの顎関節にも予想されたような強直は見られなかった。その代わり発見されたのは、下顎枝(エラの部分にある骨)と頬骨弓(頬骨の稜線部分)の間を、まるでブリッヂのようにつないでいる大きな胼胝腫(いわゆるタコ)だった。
早速手術が施され、頬骨弓と下顎枝側方をつないでいるタコをロンジュールと呼ばれる医療器具で切除。再発を予防するため側頭筋(そくとうきん=顎を動かす筋肉の一つ)を本来あるべき位置に戻し、麻酔下で顎の可動域が34mmまで回復していることを確認した上で、翌日には退院させた。
3週間後に再診したところ、チューブ挿入のために切開した気管も回復し、顎の可動域は40mmまで広がっていた。手術前には3.54kgだった体重は3週間で4.14kgまで増加し、飼い主も泣いて喜んだ。 Treating TMJ Ankylosis in Young Cats
3週間後に再診したところ、チューブ挿入のために切開した気管も回復し、顎の可動域は40mmまで広がっていた。手術前には3.54kgだった体重は3週間で4.14kgまで増加し、飼い主も泣いて喜んだ。 Treating TMJ Ankylosis in Young Cats
解説
強直症には関節自体が関わる「真性強直症」と、関節以外の組織が関わる「偽性強直症」とがあり、Dr.ルイスによると、猫の開口障害で多いのは若い頃の外傷が原因の偽性強直症だそうです。例えば、どこからか落下して顔面を打つ→骨折する→治癒する過程で炎症が起こる→異常な線維化が起こる→関節の間に線維性組織が形成される→関節の動きを制限する→偽性強直などです。
1998年から2005年の期間に報告された犬と猫の顎関節症(locked jaw syndrome=開口障害+閉口障害)37件のうち、犬が占めていたのは84%、猫が占めていたのは16%だったと言います(→出典)。そのうちでも最も多かったのは骨折を原因とする顎関節の強直症で、全体の54%に達していたとのこと。犬に比べて猫の症例は少ないようですが、顔面部の骨折の原因となる「交通事故」、「落下」、「衝突」などには気をつけた方がよさそうです。
1998年から2005年の期間に報告された犬と猫の顎関節症(locked jaw syndrome=開口障害+閉口障害)37件のうち、犬が占めていたのは84%、猫が占めていたのは16%だったと言います(→出典)。そのうちでも最も多かったのは骨折を原因とする顎関節の強直症で、全体の54%に達していたとのこと。犬に比べて猫の症例は少ないようですが、顔面部の骨折の原因となる「交通事故」、「落下」、「衝突」などには気をつけた方がよさそうです。