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アスペルギルス症による猫の珍しい死亡例が報告される

 免疫力の低下に伴って発症する「アスペルギルス症」による、猫の珍しい死亡例が日本で報告されました(2016.3.30/日本)。

詳細

 「アスペルギルス症」はアスペルギルス属の真菌によって引き起こされる局所~全身性の疾患。菌はほこり、麦わら、刈りとられた草や干し草といった場所に広く生息しており、猫よりも鼻腔面積が広い犬の方が感染しやすいとされています。臨床上問題となる主な種類は以下で、太字は検出頻度が高いことを示しています。
主なアスペルギルス属
  • 鼻腔炎の代表菌A.fumigatus | A.flavus | A.niger | A.nidulans
  • 全身感染の代表菌A.terreus | A.deflectus
アスペルギルスの一種「A.fumigatus」の顕微鏡写真  アスペルギルス症は宿主の免疫力が落ちたタイミングで猛威を振るう「日和見(ひよりみ)感染症」の一種で、猫の場合は猫伝染性腹膜炎、猫汎白血球減少症、猫白血病ウイルス感染症、猫免疫不全ウイルス感染症、糖尿病、慢性的な副腎皮質ホルモンの投与、抗生物質の投与などが危険因子となります。 発症した際の主な症状は以下です。
アスペルギルス症の症状
  • 鼻腔からの粘液膿排出
  • くしゃみ
  • いびき
  • 鼻先を気にする
  • 鼻出血
  • 鼻腔内の肉芽腫
 2015年、日本大学の調査チームが報告したのは、上記した種類の中にはない「Aspergillus fischeri」と呼ばれるマイナー種による国内初の死亡例です。このロシアンブルーは2014年6月、2ヶ月かけて徐々に進行する鼻周辺部の変形と鼻腔からの粘液排出を主訴として、神奈川県にある日本大学動物医療センターを受診しました。初診時の年齢は11歳、体重は2.9kgで、糖尿病のため5年間インスリン治療を受けていたものの、血糖値コントロールはうまくいっていなかったといいます。 アスペルギルス症によって鼻周辺部に変形をきたしたロシアンブルーの顔写真  血清アスペルギルス抗体が陽性で、CTスキャン画像で右側の鼻腔に軟部組織の盛り上がりが見られたことから、確認のため鼻腔から排出された粘液を検査したところ、予想通りアスペルギルス属であると判明。ただちに全身麻酔下での鼻腔内局所投薬治療を行おうとしました。しかし麻酔のリスクを重く見た飼い主が治療を拒否したことにより、イトラコナゾールの経口投与(10mg/kg/日×12日間)に切り替えられました。事前の薬剤反応テストでは、上記イトラコナゾールの抗真菌作用が認められたことから、12日間の投薬期間が終わったタイミングで猫は快方に向かっているはずでした。ところがそうした予想に反し、治療終了からわずか1週間後に死亡してしまったと言います。
 結局、投薬治療が奏功しなかった理由は判然としませんでしたが、おそらく基礎疾患として抱えていた糖尿病による免疫力の低下が、菌の増殖を後押ししてしまったのではないかと推測されています。また、ガンに対する化学療法の増加や免疫抑制剤を投与する機会の増加、および猫の高齢化に伴う基礎疾患の増加などにより、宿主の免疫力低下につけ込んで勢いを増す日和見感染症の症例は、今後も増えていくだろうと予測しています。 The first case of feline sinonasal aspergillosis due to Aspergillus fischeri in Japan

解説

 オーストラリアで22頭の猫を対象として行われたアスペルギルス症の調査によると、「Neosartorya spp.=73%」、「A. fumigates=18%」、「Neosartorya fischeri=4.5%」、「A. lentulus=4.5%」という結果だったといいます(→出典)。また過去に日本において報告された事例では、「A. terreus」、「A. nidulans」、「A. Udagawase」といった種類が挙がっています(→出典1出典2)。厄介なのは全ての種類が同じ薬剤に等しく反応してくれるわけではないという点で、効果的な投薬計画を立てるためには、抗体テストのみならず分子的な同定と薬剤に対する反応テストを、適宜組み合わせる必要があります。また飼い主の側で出来る日和見感染症予防法は、免疫力の低下を招くような病気を予防すること、および環境エンリッチメントによって猫のストレスを可能な限り軽減することです。ちなみにアスペルギルス症に関しては、ややペルシャの発症頻度が高いとされています。 猫のストレスチェック 猫の日和見感染症(真菌)