猫の験担ぎ実験方法
調査を行ったのはハンガリーにあるエトヴェシュ・ロラーンド大学動物学部のチーム。人間の幼児や犬で見られる「保続性誤反応」(A-not-Bエラー)が猫にもあるのかどうかを確かめるため、一般家庭で飼われているペット猫を対象とした検証実験を行いました。
保続性誤反応
実験に参加したのは38頭の猫たち(6ヶ月齢~10歳)。血統別では純血種5頭+短毛種33頭で、性別はオスメス19頭ずつ(未去勢オス4+去勢済みオス15+未避妊メス7+避妊済みメス12)です。少なくとも1ヶ月間、飼い主とともに暮らしており、「名前を呼んだり声を発すると自発的に近づく」「見知らぬ実験者が猫に近づいてなでようとしても逃げない」「ボウルにおやつを入れると自発的に食べる」という3つの選考条件のうち2つを満たした猫だけが選抜されました。
猫から1~1.5m離れた場所に40cmの間隔を開けて2つの遮蔽スクリーンAとBを設置し、スクリーンのすぐ後ろに金属製のカップが置かれました。おやつを隠す順番は「A→A→B→B→A」の固定で、隠す人のパターンは「第三者+明示的シグナルあり」「第三者+明示的シグナルなし」「飼い主+明示的シグナルあり」「飼い主+明示的シグナルなし」という4つです。「第三者」とは猫が見知らぬ人間のこと、「明示的シグナル」とは猫の名前を呼ぶ、「見て!」と声をかける、キッシングノイズ(口先で出すチュッチュッという音)のことを指します。
猫の験担ぎ実験結果
7頭は4つ全てのパターン、18頭は「飼い主+明示的シグナルなし」を除く3つのパターン、13頭は「飼い主+明示的シグナルなし」だけでテストが行われました。正解率(=隠した方を自発的に選択すること)を計算したところ、A1(最初の隠蔽)とA2(2回目の隠蔽)の正解率が、隠す人のパターンに関わらず偶然以上だったといいます。この事実から、猫は「対象の永続性」(=目で見えていなくてもそこに対象物があると頭の中で認識できること)を理解していることが示されました。対象の永続性に関しては以下のページで詳しく解説してありますのでご参照下さい。
一方、保続性誤反応が最も起こりやすいB3(3回目の隠蔽)では、「第三者+明示的シグナルあり」というパターンを除いて正解率が偶然レベルに急減したとのこと。この事実から「対象の永続性」よりも「win-stay戦略」が優先される傾向が示されました。win-stay戦略とは報酬を得られる限り前と同じ反応を示すことです。動物を例に取ると、過去に獲物をゲットした場所を繰り返し狩場として使うなど。人間を例に取ると、過去に大当たりしたパチンコ台を繰り返し使うなどが挙げられます。平たく言うと「験担ぎ」です。
「第三者+明示的シグナルあり」というパターン、すなわち見慣れない人間が「見て!」と声をかけながら実験を行った場合のみ「対象の永続性」が優先された(=正解できた)理由としては、猫の短期記憶能力はすぐに消えてしまうため第三者による明示的シグナルが混乱を招き、直前2回の報酬場所を忘れてしまったのではないかと推測されています。要するに処理すべき情報が多すぎて頭がいっぱいいっぱいになり、古い記憶が消されて直近の記憶が採用されたということです。猫の短期記憶に関しては以下のページでも解説してあります。
参考までに人間の幼児、犬、オオカミにおける同様の試験結果を以下に示します。「○」印は隠し場所を急に入れ替えた際、「保続性誤反応」が起こったという意味です。隠す人を第三者に限定した場合、犬においては明示的なシグナルがないときに「対象の永続性」が優先(=正解)され、シグナルがあるときに「win-stay戦略」が優先(=不正解)されるという、猫とは逆の傾向が見て取れます。
動物種 | シグナルなし | シグナルあり |
ヒト幼児 | - | ○ |
オオカミ | - | - |
イヌ | - | ○ |
ネコ | ○ | - |